見出し画像

女装高生

(10000文字以上です…)

「ちょっと〜動かないで!」
「もう少しアイライン深めにすれば?」
「眉はスッとした感じに…」

昼休みの教室の隅で、俺はカースト上位の女子達に囲まれ、よってたかって化粧をされていた。

「制服どうする?」
「美波のやつ貸してあげればw」
「え〜…」

ブレザーとズボンを脱げと言われ、トランクスとYシャツの状態になるC軍男子の俺。

「はい…」
「じゃ、これ着てみて」
「汚すなよ!笑」

女子から渡されたスカートと腹周りがくびれたブレザーに着替える。

「はははっ!!」
「これじゃ、ただのヤバい奴だよね!」
「ウィッグは?」
「はい、これ」

変なネットを頭につけられ、長髪のカツラを頭部に被る。

「どれ、こっち向いて……ウソっ」
「マジ…?」
「ちょっと…こいつ…」

至近距離で俺をオモチャにしていた女子達が、急に真顔になり驚愕の表情を俺に向けてくる。

「えっ、どうしたの?」

俺は周りの空気が一変した様子が不安になり、教室内のクラスメイトに目をやった。

他の女子達はコチラを見ながらヒソヒソと話をし、男子達は目を爛々とさせニヤついている。

いつも仲良くしてる陰キャ衆は、ただただ呆然と俺を眺めていた。

「…鏡見て見る?」

化粧してくれたクラスメイトの美波が手鏡を渡してくる。

俺はそれに自分の顔を映し込む。

「…これ、誰?」

鏡に写った人は男なら誰でもドキッとするような美人で、驚きのあまり一瞬手鏡を落としそうになってしまった。

「めっちゃキレイなんだけどー!!」
「ウソでしょ!私より可愛いんだけどwww」
「美波メイク上手過ぎ〜!ほとんど柴咲コウじゃん」

歓喜に湧くA軍女子達。

「これで、文化祭はもらったな!w」
「このクオリティは他クラスには出せないっしょ〜」
「マジ私、女として自信無くなった…笑」

自分の想定していなかった評価に、俺は戸惑いながらも気分が高揚してきた。

あっ…
自己紹介遅れました。
俺は高校3年生の「章人」という者です。

なんか、もうすぐ文化祭があって、そこでクラス対抗女装大会ってのがあるらしく、背が低くて色白で、目がデカくて体毛が薄い俺がターゲットにされたという現状です。

普段は女子になど相手にされない俺が、クラスのエロ女達に囲まれて、スゲェー近い距離でアレコレされて、半勃起状態になったのは仕方ないとしても、まさかの自分の女装が仕上がった姿に興奮してしまっている。
今、そんな感じです。

「あのさ…全身見てみたい」

俺は姿鏡で上から下まで、今の自分の姿を見てみたくなりトイレに向かおうと思った。

仲の良いC軍男子を連れションに誘う。

すると…
「無理無理!!」
と、照れた半笑いで拒絶された。

仕方ないので一人で教室を出ようとした。

「えっ、ちょっと待って!それで行くの?」
「おいおいwwマズイだろ!笑」
「女子トイレ入んなよ〜!www」

クラスの連中に揶揄されながら廊下に出る。

トイレまで他のクラスの前を横切り、脇目も振らず伏せ目がちに真っ直ぐ歩く。

廊下にいる生徒の凝視する眼差しを感じながら前に進む。

「見られてる…」

そそくさと男子トイレに駆け込む。

洗面台にある鏡に全身が映るように距離をとる。

「や…ば…」

そこには、まるで男の汚物の匂いが充満する空間に迷い込んでしまった美女が佇んでいるかのような…
もしくは、綺麗な顔して臭い物とか便器の刺激臭が好きな美系変態女が…

とにかく、イイ女が映っていた。

「あぁ…ヤバい、ションベンしたい」

変な高揚感を味わっていたせいか、膀胱がパンパンになっていた。

小便器を前にスカートを捲りチンコを出す。
スカートにひっかけないように気をつけて、腰を前目に出して用を足す。

その時、個室から水を流す音が聞こえ、扉がガチャっと空いた。

「えっ…?おぉーーっ!!をぃ〜!?」

ウンコをしてたであろう、サッカー部のキャプテン・堂安が俺を見て驚き動揺していた。

「ちょちょ!?待って…ここ男子トイ…」

近づいてきた堂安は、俺の顔とチンコを覗き込んで爆笑した。

「おいっ!マジかよwww男かよ?!」

堂安はトイレから出て大声で叫んだ。

「おーーい!便所にオネェがいるぞーー!」

なかなか強烈な呼び込みをしてくれた。
俺がトイレから出たら想像するのも恐ろしいほどの好奇の目に晒されることは決定した。

スカートにしずくがかからないようにチンコを振る。

洗面台で軽く手を洗い、今一度鏡に映った自分を見る。

よーく見れば自分の顔だと確認できる。
だが、しかし良く化かしてくれたものだ…
これは街歩いたらスカウトされてもおかしくない、それほど…凄い。

「行こうか…見せつけてやろうぜw」

俺は急に出来た美人の親友を連れ立つ気持ちで、トイレから廊下へ出た。

トイレ前には謎のオネェを見に来た人集りが出来ていた。

驚きの声を上げる者
目を見開き手で口を覆う者
感嘆の拍手を浴びせる者

反応は様々だが、苦々しい顔は見えなかったし、否定的な罵声も聴こえなかった。

「えっ、誰なの?」
「本当に男子?」
「超可愛いんだけど…」

少し顎を引き、背筋を伸ばし、内股気味に教室までのランウェイを歩く。

「なんだこれ…」

今までで味わったことのない注目を浴びる。 
いつもの俺では得られぬ優越感。

男として生きてるとモデル級にカッコいい奴でない限り、スポーツや学業で成果を出さないと注目なんて浴びない。
常に上の存在に苦汁を飲まされ、頑張っても敵わぬ勝てない宿命。

足りないけど努力して、その度負けて報われない男としての俺。

そりゃ腐るよ
ヤル気もなくなるよ
その程度の人間なんだもの
俺はエースにもスターにもなれない

そう思っていたんだよ。

でもさ…
見てよ、この同級生達の熱烈な視線。

「気持ちいい…」

俺は完全に調子に乗った。

クラスに戻ると、また女子に囲まれて撮影会がはじまった。

「こっち来てー!」
「一緒に撮ろ!」
「私ブス映えるから隣り嫌なんだけどww」

女子のマネして頬の横に指をつけてピースのポーズで笑顔を作る。

「ねぇ〜私も撮りたいー」
「お、俺もいいか?!」
「皆んなで撮ろうぜ〜!」

クラスの皆が俺のもとへ集まってくる。
日陰から一気に日の当たる位置に引っ張ってこられたような戸惑いを感じる。

だが、気持ちいい。
女って可愛いってだけで、毎日こんな気分になれるんだな…
そりゃ、メイクとかファッションに命かけるわ。

俺にメイクして制服貸してくれたクラスのマドンナの美波も、こんな気分を味わってるんだな。

その美波が俺の事を少し離れたところから恨めしそうに見ていた。

なんだ?あの顔…

一番喜んでくれても良さそうなのに、彼女はうかない顔で皆に囲まれる俺を見ていた。


「おい、もういいだろ」

美波と恋仲の中田翔(元野球部エース)が、騒いでいる俺達に割って入ってきた。

「もう、美波に制服返してやれよ」

唐突に場の雰囲気を壊すかのように、中田は俺を小突いてくる。

俺は肩を拳で押され、少しカチンときてしまい、思わず中田に向かって上段突きの構えを見せた。

「あ?なんだお前、やるのか?」

野球部エースと白帯空手家が教室の真ん中で向き合う。

一瞬にして張り詰める空気。
中田の剛腕フックが先か、俺の上段突きが先か…
緊迫した二人の間合いに、一人の少女が割り込んで来た。

「もう昼休み終わりだよ」


「なんだよ、カンナ。邪魔すんなよ…」

中田がスケバン・カンナを邪険にする。

イライラしてるのか、段々と表情が変わっていくカンナ。

咥えてたココアシガレットを吐き捨て、怒鳴り散らす。

「テメェら!うるせぇーんだよ!さっきからずっとワーキャーしやがって、アタイは生理で気が狂いそうなんだ!静かにしろい!」

顔面凶器のカンナを恐れ、それぞれが静かに席に戻る。

俺も制服とカツラを取り、それを美波に返した。

(ティンコンカンコン♪)
5時限目のチャイムがなり、数学の教師が入ってくる。

「はい、起立…礼、着席。」

「おい、お前。その顔はなんだ?」
教師は俺を指差す。

化粧の落とし方を知らない俺。

クラスは爆笑に包まれた。
………………………………………………………………………………

メイク落としを借り、顔を洗面所で洗い流し下校する。

校庭では陸上部やサッカー部の1,2年生が練習している。

俺達3年生は一月前に引退したばかりだ。

卒業していった先輩達は、コロナ禍でほとんどの試合や大会が中止になった。

それを俺達の学年はずっと見ていた。

俺達もこの先、どれだけ練習しても無駄になるんじゃないかって不安を感じながら日々を過ごした。

やり場のない怒りを抱え、悔しい涙を流す事になるのなら部活なんて行かずに好きに遊んでやろうって…
俺は、そう思ってしまった。

オンラインゲームにはまって、フォートナイトから銃に興味を持ち、サバゲーに行くようになり、好き勝手して遊んでいた。

結果、俺達が3年になってから試合は再開され始め、俺は実力不足から2年にレギュラーを奪われ、最後の大会も控えのまま終わった。

自分が悪い。
俺が部活を休んだり怠けたりしていた時、マスクしながら真剣に練習していた奴らがいたんだから。


「おーい、章人〜!」

こいつも、その真剣にやっていた奴の一人だ。

「ねぇ!さっき、お前女の格好してなかった?!」

小学校時代から同じ空手道場に通い、高校では同じ空手部だった紗理奈が話しかけてきた。

「はは、見た?」

「皆んなが騒いでたからさ〜遠目から少し見ただけだけど、そうゆう趣味あったんだw」

「ちげぇーよ!文化祭でやるって…女子に勝手にやられたんだよ」

「へぇ〜じゃ、2組は章人が女装すんだね」

「いや、わかんねぇ」

「違うの?」

「なんか美波が不貞腐れちゃって、制服も貸さないしメイクも自分でやればって…」

俺はあの後、化粧落としを借りた時に美波に言われたんだ。
「女装大会出るなら、自分で準備して出てね。私は無理だから」って。

自分よりチヤホヤされた俺が気に入らなかったのか、恋仲の中田と殺り合おうとしたのがマズかったのか、親友のカンナを怒らせたのが悪かったのか、俺には分かんないしどうでもいいが少しショックだった。

「ふ〜ん、美波がね〜…皆んながスゴイ可愛いとか噂してたから見てみたかったんだけどな〜」

「中田とも揉めそうになったから、それで美波が怒ったんじゃね〜?」

中田の名を出すと紗理奈が一瞬眉をひそめた。
俺は知ってた。
紗理奈は2年の時に中田に告白して、都合のイイ女扱いされ、ヤるだけヤラレ振られている。

「そうか…」

「他の女子も人にメイクなんて出来ないって言うし、別にどーでもいいけどなw」

紗理奈が急に怒ったように俺にこう言った。

「アンタさ、それでいいの?!」

「えっ…?」

「部活でも最後出れなくて、大学受験も適当で、彼女だっていないし、なんにも高校時代の思い出ないじゃん」

「それは…」

「なんか一つでも頑張ってみればいいじゃん!私が女装くらいさせてやるよ!」

「はぁ〜…えーー?!」

たぶん、中田に対する憎しみか、美波に対する嫉妬からだろう。
紗理奈のエンジンがかかってしまったようである。

「頑張るって女装するのを頑張るのかよ…」

「まぁ、考える時間はあげるよ。あと、一週間あるんだし、覚悟出来たらLINEして。」

「マジで…?」

「じゃあね」

紗理奈は俺の肩をポンっと叩き足早に去っていった。

「なんにも思い出ないとか…言い過ぎだろ」

俺は自分の高校生活を振り返ってみた。
アイツの言う通り、特にこれと言った記憶がない。
コロナを理由にして、なにも頑張らず適当に過ごして来てしまった。

唯一、記憶に残っていることと言えば…

さっき、皆んなから注目を浴びたことだけ。

「なんなんだよ…俺は」

家に帰ってからも紗理奈に言われた事が頭から離れない。
母親が作り置きしてくれた夕飯を温めて、一人で食べる。

なんとなくスマホで「女装」と検索し、色んな女装娘と言われる人達の画像を見てみる。

「すごっ…」

未知の世界を覗き見てしまったような感覚に陥った。
画像加工してる人が大半だが、中にはかなりクオリティが高く女性にしか見えない人もチラホラ見受けられる。

俺は今日、こんな感じに見えたのかな…
男では評価されなかった自分が、女装したらたまたま良い素材だった。
すごく複雑な心境だが、こんな可愛く綺麗に見える人達のようになれるのなら、それはそれで…

「なにか一つでも頑張れってか…」

LINEを開いて、紗理奈のアイコンを押す。

覚悟とか言ってたな…
アイツ、なにする気だろw

「やってみる」

メッセージを送信する。

既読がつく、

紗理奈から返信がくる。

「私に任せろ!」


「どうなることやら…」

明日から一週間。
俺は女装娘になるための特訓を受けることになった…


〜前編終了〜

【Intermission】
読み疲れてませんか?
ちょっと音楽でも聞いて小休憩して下さい。
聴き終わりましたら、下の後編をどうぞ…


まだまだ続きます。

〜後編開場〜

翌日の放課後、俺は紗理奈の家に呼ばれた。

「アンタ、しばらく運動もしてないから身体鈍ってんでしょ?」

「まぁ…かもな」

「はい、じゃスクワット10回10セット」

「えっ?!メイクの練習じゃないのかよ?」

「女舐めんな。まずは、身体と心から作ってくんだよ。いいから、ほら!」

紗理奈は竹刀で俺の尻を叩いた。

「足は肩幅、背筋真っ直ぐ、顔は正面向いて、ケツを後ろに押し出して〜」

「くっ…ケツ言うな」

「モデルになるような娘は、皆んなこれくらい当たり前にやってんだからな〜文句言ったら回数増やすぞ」

俺は紗理奈の言いなりにスクワット100回、腹筋運動(シットアップ、クランチ、ツイスト)各20回5セットずつ、気を失いそうになるほどしごかれた。

「お…終わりました…」

「もう疲れたの?本当、体力ないよね〜そんなんだから黒帯の私に勝てないんだよ」

「う…うるせぇ」

「あ?やんのか?白帯君」

「やりません…すいません…」

「まずは、くびれを作らないといけないんだよ。私の制服はウエスト細めで丈が短いからお尻もプリッと上げたいのよね」

「俺、ミニスカートはくんですか…」

「うん、太ももの絶対領域はJKの殺人兵器だから、脚もいい感じに鍛えていくよ。毎日のノルマね、足の毛も全部剃れよ」

「はぁ〜…?」

「チン毛も剃れよ」

「チン毛は勘弁しておくんなまし〜」

この日から俺は紗理奈と毎放課後、女になる為の特訓をした。
姿勢を正され、ガニ股から内股に矯正され、炭水化物を取り上げられ、葉物野菜ばかり食わされ、ジュースを禁止され、水だけ与えられ、毎日化粧水を顔に塗りたくり、脚と下半身にはニベアを塗れと命令され俺は発狂しそうになった。

そんな俺の精神状態など無視して、紗理奈は俺に難題を押しつけてくる。

「そうだ、下着なんだけどさ…」

「下着?」

「しょうがないからブラは貸してやるけど、ショーツは自分でなんとか用意してね」

「ショーツ…パンティーですか?!」

「うん、トランクスなんか履いて出たら許さないからね」

「そんなのどうやって用意すんだよ?!」

「しまむらとかで買えばいいでしょ」

「買うって…俺が?」

「他に誰がいるのよ」

「いや、せめてボクサーパンツとかじゃダメかな…」

「わかってないね〜パンティ履くと気合が入るんだよ!女としてのね。」

「そうゆうもんですか…」

「本番までに用意してね」

「…はい」

俺は紗理奈宅からの帰り道、女物の下着が売ってそうな量販店に入ってみた。
だが、やはり無理だった。
店員さんが女性だし、女性下着コーナーになんて居られない。
俺はどうしたら良いか分からず、トボトボと家に帰った。

家に帰ると、またテーブルの上に作り置きの夕飯が置いてある。
母はパートで帰ってくるのは夜になる。

「そうだ、母親の下着を借りよう」

とんでもない事を思いついてしまったが、背に腹は変えられない。
俺は母の寝室に忍び込んだ。

洋服タンスを何個か開けると、そこには綺麗に畳まれた地味な色のパンツが何枚もある。

「ベージュの婆パンばっかだな…」

はじめて見る母親のパンティは、生活苦に溢れ、哀しみの悲壮感しか感じられなかった。

色気も何も無い。
そりゃそうだ、ここまで女手一つで俺を育ててくれたんだ。
若い頃は遊んでたみたいだけど、もう色っぽい下着なんて買う余裕なかったんだろうな。

俺はなんだか申し訳ない気持ちになって、そっとタンスを閉めた。

「ふぅ…物置でも探してみるか」

なぜ物置など探そうと思ったのだろう。
そんな所に下着などあるはずはないのに…
でも、なぜかふと思いついたんだ。
出ていった父親の残した荷物の中に、何かあるんじゃないかって…

外の物置の施錠を開ける。
中は何年もそのままになっているのでホコリが凄い。

山積みになっている段ボールをどかしながら物色していると、布で包まれた額縁が出てきた。

「なんだこれ…」

俺は父親が受賞した表彰状でも入ってるのかと布をほどいて中身を見てみた。

「えっ…これ…」

俺はあまりの予想外の驚きに、その場からしばらく動けなかった…

額縁の中に綺麗に収められてる黒い破れかけたパンティ。
飾るのには相応しくないような物品だ。

「なんでこんなものが…?」

しかし、なぜだかそれは神々しく眩い光を放っていた。
俺は気づくと、その額縁からパンティを取り出し強く右手に握りしめていた。

………………………………………………………………………………
〜大会前日〜

「短期間で追い込んだ割には、まあまあ仕上がったわね」

「押忍!ありがとうございます」

「私の制服もなんとか着れたし、髪の毛も地毛を活かしてショートボブに出来そうだし、足の毛もちゃんと剃ってきたみたいだし」

「押忍!師匠の言いつけどおりに…」

「下着は?」

「オス!なんとかなりました…」

「オスじゃなくて、メスになるんでしょ?」

「そうでした!メス!」

「あとは、メイクね…」

「師匠は昔から厚化粧で素顔を誰も知らないと噂されているので、期待しています!」

(ゴンッ!)

「…痛い」

「厚化粧で悪かったな、次言ったら股間の大事な物潰して本当に雌にするよ」

「雌…」

こうして俺達は特訓の日々を乗り越え、明日の大会本番を迎えることとなった。

………………………………………………………………………………

〜大会当日〜

すでに会場の体育館は生徒や来場客でごった返している。
控室では、各クラスの女装娘とメイク師がすったもんだ準備しながらエントリーの順番を決めていた。

「ジャ〜ンケ〜ン……ポン!」
「よっしゃ〜!」

紗理奈がジャンケンに勝ってエントリー順をトリ(最後)に選んできた。

「えっ?トリ!?」
「いいだろ、最後は一番印象に残るんだから。バッチリ決めていこうぜ〜」
「マジかよ…」

俺と紗理奈は少し皆んなから離れてメイクの仕上げに取り掛かった。

「大丈夫、他の奴らはほとんどがギャルか地雷系に偏ってる。ウチラは審査員のハートを掴む清楚系聖女でいくから…」

「はぁ、そうか。審査員は大体がオジサン教員だもんな」

「いくらギャルとか地雷系が好きな親父でも、他の教職員の手前もあるから高得点は付けづらいだろ。そこで、お前が最後に全部掻っ攫うんだよ」

「そんな上手くいくかよ…」

「私のメイク技術ナメんなよ。アンタは堂々と壇上でカマしてくればいいから!」

「はい…わかりました」

紗理奈は淡々と俺の顔にスポンジやら筆ペンで色付けをしている。

物凄く真剣で恐ろしい表情の紗理奈を至近距離で、数十分間見続けた俺は催してきてしまった。

「あ、あの…」

「なに?」

「お…おしっこ」

「あと少し」

「はい…」

「うん…よし、出来た」

「行っていい?」

「いいよ」

俺は急いでトイレへと走った。


「う〜漏れる漏れる!」

(ジョ〜〜…ジャーーー)

「あっ、そうだ。下着履き替えないと…」

俺はトランクスを脱ぎ、額縁から拝借したボロボロの黒パンティに履き替えた。

「う…うおー〜!なんだ…?この湧き上がってくる情熱は…」

俺は今にも破けそうな黒パンティを履いた瞬間、なぜだか人が変わったかのように自信と色情に満ち溢れてきた。

身体中から溢れ出る色気とヤル気を感じる。

ふと、洗面台の鏡に映る自分の姿が目に入った。

「す…スゴイ…」

そこには、まさに清楚で神々しく光を放つ聖女が立っていた。


「これが…私…?」


夢心地でトイレから出ると紗理奈が待っていた。

「どう?スゴイでしょ」

「うん…なんだか、私…」

「才色兼備な絶世の美女、松下奈緒っぽく仕上げてみたよ」

「ありがとう…」

「そろそろ出番よ!これネームプレート書いといたから」


「なお…って、母ちゃんと同じ名前っぽいじゃん」

「え?あ、そうだっけ。まぁ、細かい事は気にしないで、とにかく行って来い!」

俺…いや、私は紗理奈に肩を押されミニスカートをヒラヒラさせながら体育館へと走った。

………………………………………………………………………………

(場内放送)
「それでは、いよいよ最後の女装娘さんの登場です。エントリーナンバー8、なおちゃんです!はりきってどうぞ〜!」

舞台袖の待機場所からステージへの階段を登ると、壇上を前に群衆のざわついた声が聴こえてくる。

私は緞帳の影で目をつむり大きく深呼吸をした。

「ふ〜〜…」

今まで、この学び舎で何を学んできたのだろう…
色んな事を諦め、難しい事から逃げて、なるべく目立たないようにして過ごしてきた。

小さな頃から気が弱く、親に無理矢理入れられた空手道場も楽しくなかった。

母は男として強くなれと願い、父はそれを良く思っていなかった。

なにをしても自信が持てず中途半端な俺。

俺なんか何者にもなれない…
そう、思い込んでいた。

それは、きっと間違いではないだろう。
今のままでは何も変わらない。

でも、少し飛んでみようか。
この娘の力を借りて、ちょっとだけ羽ばたいてみよう。

何か変わるかも知れない
何も変えれないかも知れない

それでもいいさ
今、私は羽ばたく…

「行こうか…」

正面を向いて、ゆっくりと一歩一歩ステージの中央へ歩いて行く。

静まり返る会場
高鳴る胸の鼓動

水を打ったような静寂は波紋が広がるようにざわめき出し、それはやがて歓喜となり大きな歓声を呼び起こした。

「うそっ?!」
「メチャメチャ綺麗…」
「おーーー!スゲェー!!」
「誰なの?マジで男?!」
「俺と付き合ってくれ〜!」

はち切れんばかりの絶叫が聴こえる
震えるほどの興奮が身体を包みこむ
轟音のような喝采を浴びる私…

無数の好奇の目から光が放たれ、ステージの上の私は輝きを増した。

「それでは、なおちゃんの特技を披露してもらいましょー!どうぞ〜!」

私は大きく脚を開き、正拳突きの構えを見せる。

「えいっ!」と、拳を前に出すと…

「う゛ぉぉーーーー〜〜〜!!!」

またもや地鳴りのような野太い歓声が館内を揺らす。

たぶん、パンティが見えたんだろう。

私の下半身で父と母が見守ってくれてる気がする。

もう…
怖くなんてない
不安だってない

だって、私は今
最強なんだから

興奮冷めやらぬ拍手喝采の中、我が校の女装大会は幕を閉じた。

………………………………………………………………………………

「ふ〜…お疲れさん」

「なんか疲れたね…」

「写真責め凄かったねw」

「もう、揉みくちゃw」

「まぁ、優勝したからね〜」

「紗理奈のご指導のおかげですな」

「それはそうね〜wなんか、私もメイク担当したから商品もらったし」

「何貰ったの?」

「ボールペン…w」

「あはっw 私はトロフィーだけ」

「学校行事なんてこの程度よね」

「でも、良い経験出来たよ…」

「あれ〜?アンタ女装にハマっちゃうんじゃないの〜w」

「ば、バカなことを…」

「いいじゃん!めちゃめちゃ似合ってるんだし、いっそその道で生きていけば」

「なに言ってるのよ〜!」

「すでに喋り方がオネェだよw」

「紗理奈ったら、もぉ〜w」

正直言うと悩んでいた。

初めてメイクをしてもらった時から、自分の中で女性に対する価値観や見方が変わってしまったのだ。

それは、別に嫌な意味ではなく性の対象として存在していた女性達が、自分となんら変わらない同じ人間なんだという事に気づかされたというか…

簡単に言うと、女性は最初から女性として生きているわけではなく、女性も女性になる為に女装をしているんだって思ったんだ。

少しでも可愛く見られようと一生懸命メイクして、真剣に洋服選んで、崩れないようにずっと前髪をチェックしてる。

これは、私の勘違いかも知れないが、男でも内面や心が女性のようになれるのならば、容姿は個々に違えど、誰でも女性になりうるのではないのかと考えた。

それを、人はオカマとかオネェとか揶揄するのかも知れないけれど、私は身を持って体験したから言える事がある。

女装って素晴らしい

メイクや準備は女の人より大変だけど、男が女のようになれるだなんて、使用人をシンデレラに変えた魔法使いだって出来ない魔法だと思う。

だからって皆んなが皆んなそれを望むわけではないけど、私はなんだか救われた気がしたんだ。

運動も勉強もイマイチで、男子からは爪弾きにされ、女子にはモテないオイラ…

自分のアイデンティティとか個性とか、何も誇れるものがなかったんだ。

でも、ようやく見つけた気がする。

それが正しいとか間違っているとかは分からないし、どうだっていい。

ただ、私は…
俺は…

………………………………………………………………………………

半年後…

俺達、三年生は無事に卒業式を終えた。

進学か就職か、ギリギリまで悩んだが結局はビジネス系の専門学校に行くことに決めた。

なるべく、母親に負担がかからぬように奨学金でなんとかしようと、返せる見込みの額しか借りずに、後はバイトして工面しようと考えた結果だ。

紗理奈は短大志望だったが、美容系の専門学校にしたらしい。
勉強はもうしたくないっていう理由と、俺を仕上げた自信が大きく影響した事は言うまでもない。

腐れ縁もここまでかと思うと少し寂しい感じもした。

互いに将来を考えなきゃいけない歳だしね。

考えなきゃいけないと言えば…

あれから、ずっと自分の性の事について考えていたんだ。

女性に対しての欲求が薄れ、逆に憧れが強くなっていった。

だからと言って男性の事を好きになったりはしないのだが、男性なのに女性っぽい人に興味を持つようになってしまった。

見るアダルト動画もニューハーフとか女装シリーズばかり…

特に「女装美少年」シリーズがお気に入り。

主演の女装さんが、自分に倒錯感を感じて堕ちてゆく姿がたまらない。

自分は一体どうしたのか?
自分は一体どうしたいのか?

答えは一つ…

自分みたいな人に出会いたい。

男なのに可愛い娘
男だけど素敵な人

そんな人とエロい事がしたい。

男の原動力は常にエロである。
エロの為に時間と労力を使い、エロの為に全ての行動を決める。

「でも、大丈夫かな…」

未知の世界への不安が、俺と私を臆病にさせる。

その時、風に揺られてひとひらの桜の花弁が舞い降りてきた。

その花弁は、まるで私の心を誘うように優しく諭してくる。

「大丈夫…今日から女の子になりなさい…」

そんな風に導いてくれた気がした。

「もう少し飛んでみるか…」

誰かの想いが届いたのかな…
とても勇気をもらった気持ちになる。

私は春風に乗って、新たな自分を見つけに旅立とうと決心した。


長い文章読んでくれてありがとうございます

次回、最終話。。






この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?