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七夕の涙

「ああ、雨降っちゃったね」

君はカーテンの窓から外を覗きながら、がっかりした様子で呟いた。君ががっかりする必要なんてないんだけど、そんな君の優しさに頬が緩む。

「七夕だから?」
「うん、そう。織姫様と彦星様が会えるのって一年に一回だけなのに、これじゃダメじゃない」

寂しさに悔しさまで滲ませた声を出す君。僕はそんな君を笑顔にしたくて、とっておきの話をしようと思う。

「それがさ、大丈夫らしいよ」
「え、大丈夫って?」
「うん、大丈夫だよ。七夕の雨ってさ、二人が会えたことを喜んで流す涙なんだって」
「えー! ほんとっ?」
「うん、そうみたいだよ」
「じゃあ雨の日は会えてるって証拠なんだね?!」

君はあっという間に曇っていた笑顔を晴れやかにした。それからうれしそうにこう続ける。

「七夕って梅雨時だからさ、雨の確率がすごく高いじゃない? どうしてこんなタイミングなんだろうって納得できなかったの。日にちを変えたらいいのにってね」
「うんうん」
「だけど、安心した。すごく良かった」

そう言って軽い足取りでキッチンに向かう君の背中を見送ってから、僕もカーテンの隙間から外を眺めた。

夜まできっと降り続けるだろうな。一年に一回だけだもんな。愛する相手にやっと会えて、泣いてしまう気持ちが分かるよ。もし君にそんなに会えなくなったら、僕はこの日、きっと号泣するよ。

すっかり安心した君は七夕の歌を口ずさみながら、コーヒーをこぽこぽと入れている。僕の好きなコーヒーを幸せそうに入れてくれる君が愛おしい。

さて、この後どうやってこれを渡そうかな。ズボンのポケットの中に隠している小箱にそっと手で触れる。

織姫様と彦星様、僕のプロポーズを見守っていてください。

そんなことを祈ってみたけど、彼らはきっとそれどころじゃないよな。やっと会えたこの日に他人の願いなんて叶えている暇はないはずだ。

僕は僕で健闘するさ。

君がコーヒーを入れたマグを二つ、トレーに乗せて慎重にこちらに運んでくる。

僕は気づかれないように細く長い息を吐いた。



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