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復興シンドローム【2015/03/01~】⑧


春になったとは到底思えない極寒の早朝。しかし、帰還困難区域に向かう車の中では確かに春の足音がしていた。薄明かりの午前4時30分。毎日少しずつではあるが、隊員さんたちの表情がうかがえるほど明るくなるのが早まっていた。バリケードの鍵を凍えた手で開けると、うっすらと霜の降りた枯れ野にゆっくりと日が照らしていく。いつしか霜は朝露に姿を変え、茶色の葉っぱを伝って滴となる。そんな光景をただ無機質に眺めながら、ゲート開門の時間になる。

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「通行証」「ナンバー」「名簿確認」「OKです」
声に出して確認作業をすると、ようやく帰還困難区域を通過する車両が入域できるのである。もう手慣れたこの作業も間違いが起こることもある。時折〇〇ゲートや管理から電話が来ると「名簿不記載」「車両ナンバー違い」などで退域ゲートで止められたとのことである。入域時の見逃しは退域ゲートの警備会社や災害対策本部まで迷惑をかけることになる。勿論、慎重の上に慎重を重ねてチェックするのだが、どうしてもミスは発生するものである。

「仕方ねぇよなぁ」
「どうして見逃したんだ。○○!」

たるんだ隊員に檄が飛ぶ。しかし、そんな光景も既に見慣れたもので、起こってしまったことをどれだけ責めても過去は変えられない。むしろ、今後そういうことが起こらないようにするためにどのような改善法が必要なのかを話し合う方が重要だと思うのだが、先輩風を吹かせる隊員にとっては後輩オいじめの格好の機会なのだ。年齢や役職は関係ない。悪口雑言がそこら中に飛び回り、人によっては別のゲートの隊員にまで伝える始末。宿舎になっているホテルでも延々と指導という集団いじめは続行し、結局の所、それが積み重なって辞めていく。自分はここが地元なので、宿舎には泊まらないが、ホテルにまでそのミス関連の折檻が続いていく。まるで中学校のいじめの構図そのものだ。

ボクらがもし、タイムマシーンを持っていて、過去を変えられるならとっくにそうしている。もう起こってしまったことを延々と責め立てている姿を見ると、責めている方も、責められている方も哀れに見えて仕方ない。
50代・60代の壮年期のじいが陰険ないじめを苛烈に展開しているその様は非常に低レベルな、それでいて日本の末端社会の闇を見るような幾重にも塗り固められた悲劇のように映ってしまう。

責められている方も日給11400円の甘い蜜を出来るだけ長く享受しようと必死にしがみつく。「申し訳ありませんでした」を繰り返し、必死に振りまく引きつった笑顔は世にもおぞましい金の亡者と守銭奴のブレンドコーヒー。

そこには家族を守るため・養うための使命感ではなく、日銭にありつこうとする必死な藻掻きがあった。

自己破産・多重債務者・一家離散・独居老人・生活保護・そして社会不適合者とギャンブル依存症・・・・・・


復興関係で働く人々は数多いるが、色々な事象を抱えた人でこの警備会社は溢れかえっていた。勿論、喜んでここで働く自分は社会不適合者なのだろう。

福島県のどこかに住んでいます。 震災後、幾多の出会いと別れを繰り返しながら何とか生きています。最近、震災直後のことを文字として残しておこうと考えました。あのとき決して報道されることのなかった真実の出来事を。 愛読書《about a boy》