VINTAGE④【未知との遭遇】

いつものようにたばこの煙に巻かれながらBGMに載って読書に勤しんでいた。カウンターで特に話題もなく沈黙が流れていった。とはいっても気まずいわけではない。そのような空間がとても大好きで、しかも最近この店の常連になってしまったボクは何も言わずとも、この店が第2の自宅のような感覚になってしまったのである。店に来るお客とも顔見知りになってきた。

地元から離れて、新しい居場所ができたような感覚。

しかもオシャレで何となく知的な感じ。思いっきり背伸びしているだけど……。

いつも気になっているのだが、カウンターのバスケットの中のお菓子が気になった。

「すいません。これって買って食べていいですか?」

「もちろん」

手書きのプライスカードとカタカナのオシャレな名前。カステラのようで、中身はフルーツのようなものが見える。

「一つください」

一つ買ってコーヒーのお供にと、口に運ぶと……

!?

口から広がるムワッとしたアルコールの香り。お酒がからっきしダメだった自分は驚きのあまり、コーヒーを一口、グイッと飲み込んだ。するとどうだろう、あとからフルーツの甘い香りがほんのりと漂う。

「……いいですね。少しずつ食べるなら、コーヒーと合います」

別に無理しているわけじゃない。アルコール(リキュール?)がフルーツの香りを強調しているように思われた。自分はアルコールは苦手だがこのお菓子はとても美味しく感じられた。

食レポのようになってしまったが、この店にも世の中にも自分の知らないことがまだまだたくさんあるんだなと思い、ちょっと広い世界を知った気分でいた。

カランカラン……

ニット帽をかぶった女性と小さい子どもが入ってきた。すると、マスターと少し話をして厨房に入っていった。

???

「さっきの、彼女が作ってるのよ」

マスターが笑顔で教えてくれた。

「そうなんですか。美味しかったです」

「ありがとうございます。大学生?」

「あ、っそうです。最近、よくお邪魔しています」

ありきたりな初対面の挨拶の後、彼女は厨房に消えていった。しばらくすると、新しい種類の菓子がバスケットに並べられた。自分の皿にも……

「食べてみて」

「あっ、すいません。ありがとうございます」

まさかのサービス品に驚きながら、クッキー?のようなものを食べてみた。ナッツのようなものをキャラメルで固めているのだろうか。表面はこんな感じである。

……

うん、美味しい。これもコーヒーにあう。今まで、トーストとコーヒーだけだったが、こういったものと楽しむのも面白い。とにかく今まで食べたことがないお菓子だった。

「○○はダメよ」

娘さんだろうか。小学生くらいの女の子に話しかけている。

「お酒の関係で?」

思わず聞いてみた。

「うん、そう」

やっぱり、さっき食べたカステラのようなものも結構リキュールがきいていたので、子どもが食べるのはダメなのだろう。でも、お酒に弱い自分でも酔うほどではない。まぁ、注意する残したことはないのだろう。

「食べたことない味ですね。初めて食べました。美味しかったです」

「そう、良かった」

不思議と和んだ空気の中、その日は店から帰った。それがとても大切な人達になるとも知らずに。そのときはお菓子のおいしさを思い出に自転車をこいでいた。




福島県のどこかに住んでいます。 震災後、幾多の出会いと別れを繰り返しながら何とか生きています。最近、震災直後のことを文字として残しておこうと考えました。あのとき決して報道されることのなかった真実の出来事を。 愛読書《about a boy》