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『ライ麦畑でつかまえて』

サリンジャーの名作。
2010年代ではアニメ『攻殻機動隊』笑い男シリーズでピックアップされた。大人になりたがらない主人公。ピーターパンのようなファンタジーではなく、成長することを汚れることと見なした主人公の生きにくさを描いていく作品。まっすぐに生きるということと大人になることは反比例の関係なのか。
誰しもが大人になる過渡期にぶち当たる『社会の壁』をとても面白い視点で描いている。たいていの人々はどこかで折り合いを付けながら生きていくのだろう。しかし本作品の主人公はそうはいかない。鋭利な刃物のように研ぎ澄まされた蒼さ。他の何色にも染まらないという頑なな価値観を貫いている。それは僕らが忘れてしまっているpurenessのようなものだろう。

I thought what I’d do was, I’d pretend I was one of those deaf-mutes
『ボクは耳目をふさぎ、口を噤んだ人になろうと考えた』

大人の世界に嫌気がさした自分もこのように考えたことがある。世間と折り合いをつけていくことが大人になることなら、何も見聞きしたくはないんだ。しかも、対立を生む発言もしたくはない。

To you everything that’s happening in the world appears phony
『貴方には世界で起こる何もかもがインチキに見えるんでしょうね』

まさにそうだ。自分は今生きているこの世の中でさえ、インチキだらけに見えるよ。
2020年代の今だからこそ、本作品は読むべきだと思う。情報が溢れかえった世界にたった一つの青臭いpureness。
そんな諸刃の若さをぜひ読んでみてほしい。



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人生を変えた一冊

福島県のどこかに住んでいます。 震災後、幾多の出会いと別れを繰り返しながら何とか生きています。最近、震災直後のことを文字として残しておこうと考えました。あのとき決して報道されることのなかった真実の出来事を。 愛読書《about a boy》