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『ネズミの嫁入り~NEUTRALルート』

むかしむかし、ネズミの一家がいました。
父さんネズミと、母さんネズミと、その娘です。

「ねえ、お父さん。そろそろこの子にも、お婿さんを見つけなくてはなりませんね」
「そうだな、前世では『世界一強いお婿さん』を探しているうちに、大天使ミカエルのところまで行ってえらい目にあったし、その次の転生では、考えを改めて『世界一弱いお婿さん』を探そうとしたら、今度は悪魔王ルシファーに酷い目に合わされたからな」

「普通に幸せになってくれれば、それで良いんですけどねぇ」
「それだよ、母さん。私たちは娘かわいさのあまり、強いとか弱いとかにこだわり過ぎていたんだ。至ってノーマルな、世界一普通のお婿さん。これを探そう」
「さすがお父さん。ところで、世界一普通なのって、一体誰なんでしょうね?」
「そうだな。やはりここは、『ウィザードリィ』の種族の中では、概ね平均的な能力を持つ、人間だろうな」

そこで父さんネズミと母さんネズミは、『ウィザードリィ』の人間のところへ行って頼んでみました。
「世界一普通の人間さん。娘をお嫁にもらってくれませんか?」
「そりゃうれしいが、『ロマサガ2』の帝国軽装歩兵はわしより普通だぞ。概ねどの武器に対しても、閃き属性があるからな」

そこで父さんネズミと母さんネズミは、『ロマサガ2』の帝国軽装歩兵のところへ行ってみました。
「世界一普通の帝国軽装歩兵さん。娘をお嫁にもらってくれませんか?」
「そりゃうれしいが、『キャプテン翼2 スーパーストライカー』のサンパウロFCのバビントンは私より普通だぞ。
フォワードの位置まで上がって積極的にゴールを狙うこともあれば、翼がガッツを消耗し過ぎた際は、中盤でゲームメイクも任せられるからな」

そこで父さんネズミと母さんネズミは、サンパウロFCのバビントンのところへ行ってみました。
「世界一普通のバビントンさん、娘をお嫁にもらってくれませんか?」
「そりゃうれしいが、『女神転生Ⅱ』の魔獣・九尾の狐は私より普通だぞ。
悪魔相性がノーマルなので、剣と呪殺のダメージが75%、破魔が37.5%である他は、ガン、火炎、氷結、電撃、衝撃、金縛り、神経、精神のダメージはすべて100%だからな」

そこで父さんネズミと母さんネズミは、魔獣・九尾の狐のところへ行ってみました。
「世界一普通の九尾の狐さん。娘をお嫁にもらってくれませんか?」
「そりゃうれしいが、『ファンタジーゾーン』の「ジェットエンジン」はわしより普通だぞ。
「ビッグウイング」より早いが、「ターボエンジン」よりは遅く、ちょうど良いスピードだからな」

そこで父さんネズミと母さんネズミは、『ファンタジーゾーン』のジェットエンジンのところへ行ってみました。
「世界一普通のジェットエンジンさん。娘をお嫁にもらってくれませんか?」
「そりゃうれしいが、RMS-154バーザムはわしより普通だぞ。
ガンダムマークⅡをベースにして全体的な能力向上を図っているものの、
作品中で特に目立った活躍が描かれていないあたり、まさに普通と言ってよいだろう」

そこで父さんネズミと母さんネズミは、バーザムのところへ行ってみました。
「世界一普通のバーザムさん。娘をお嫁にもらってくれませんか?」
「そりゃうれしいが、私より普通のものは数多くいるぞ。
設定だけが存在して、作品に登場していないモビルスーツなどたくさんあるのだからな」

これを聞いて、父さんネズミと母さんネズミは途方にくれてしまいました。

強い・弱いという尖った基準ではなく「普通」という観点から見た場合、
お婿さん候補は無数に居るのです。

くたびれてしまった父さんネズミと母さんネズミ、そしてネズミの娘は、
道端にあったほこらの前に座り込むと、疲れて動けなくなってしまいました。

「やれやれ、普通というのがこんなに難しいとは」
「本当ですね、お父さん。普通の幸せを探すのがこんなに難しいなんて」

その時、ほこらの中から威厳の有る声が響いて来ました。

「普通を願うものたちよ、お前たちのような存在を、私は長いこと待っていた」

父さんネズミが驚いて尋ねました。
「あなた様はいったい…?」

「私は破壊神マサカド。この東京の守護者だ」
そう言ったかと思うと、ほこらに祀られていた平将門公が姿を現しました。

「普通とは、確かに難しい。
弱くも無く強くも無く、悪でもなく正義でもない。
だが、迷いながらも、自分の頭で考え、心で感じ、異なる価値観の真ん中を選び取って、己の足で歩んで行くことが、生きるということだと、私は思う。
お前たちは、過去世においてそれを思い知ったはずだ」

確かにそうでした。
強さを求めて大天使ミカエルの元に向かった時は、神が定めた法に従うことになり、弱さを求めて悪魔王ルシファーの元に向かった時は、混沌に身を委ねることになったのです。

ネズミの娘は言いました。

「わたし、将門さまのお嫁さんになります。
これまでは、育ててくれた父さんと母さんの意思を尊重してきたけれど、これは私が自分で決めることだと思うんです」

それを聞いて、父さんネズミと母さんネズミは言いました。

「よく言ってくれたな。お前が自分で決める。それが一番良いんだ」
「いつまでも子どもだと思っていたあなたが、こんなに立派になって…」

ネズミたちの様子を見て、将門公も満足そうに頷きました。

「話は決まったな。では、そのネズミの娘を娶(めと)り、我が力の一部としよう」

そう言って将門公が腰に帯びていた立派な刀を抜くと、ネズミの娘は将門公の体内に取り込まれて行きました。

こうして、破壊神マサカドと、ネズミの娘の二身合体(にしんがったい)により、東京に住まう人々の守護者「英雄マサカド」が仲魔(なかま)に加わわりました。

この後、父さんネズミと母さんネズミはマサカドと共に、天のいと高きところにある永遠の楽園「パライゾ」で大天使ミカエルを打ち倒し、魔界にある魔王の城「ルシファーパレス」において、悪魔王ルシファーを打ち倒しました。

そして、地上に戻って来たマサカドは静かに言いました。

「お父さん、お母さん、私たちはついに神の秩序を、そして、永遠の混沌をも破壊した。
その意味は、分かっているな?」

父さんネズミは、すでに覚悟を決めていました。
「ああ、分かっているとも。本当にいいお婿さんを迎えられて、父さんも幸せだ」

母さんネズミも言いました。
「そうだね、お前が自分の決めた道を歩いて行ける、それが一番の幸せだよ…」

それを聞いてマサカドは、腰の刀を抜いて、力強く叫びました。

「東京の守護者マサカドが、ここに宣言する!
この地上を支配するのは、神でも悪魔でもない。
その両方の価値観の中道を歩むものたちだ。
そなたたちが、自分の意思で、己の道を進んで行く限り、私はこの地上を守り続けることを約束しよう!」

マサカドが刀を振ると、遠く地平線の彼方から夜明けの光が満ちて来ました。

こうして、この地上は私たちのものになったのです。
そして、マサカドの元に嫁いだネズミの娘を称えるため、
十二支の筆頭には、ネズミが位置することになったということです。

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