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『ネズミの嫁入り~CHAOSルート』

むかしむかし、ネズミの一家がいました。
父さんネズミと、母さんネズミと、その娘です。

「ねえ、お父さん。そろそろこの子にも、お婿さんを見つけなくてはなりませんね」
「そうだな、前世では『世界一強いお婿さん』を探しているうちに、
大天使ミカエルのところまで行ってえらい目にあったから、今度は考えを改めたいと思う」
「一体どうするんです?」
「今度は逆に、世界一弱いものを探そうと思う。幸い、私たちの娘はしっかり者だから、その方が却って上手くやれるだろう」

「さすがお父さん。ところで、世界一弱いのって、一体誰なんでしょうね?」
「そうだな。やはりここは、RPGの定番のスライムさんだろうな」

父さんネズミと母さんネズミは、スライムのところへ行って頼んでみました。
「世界一弱いスライムさん。娘をお嫁にもらってくれませんか?」
「そりゃうれしいが、『シャドウゲイト』の主人公、自称『しんのゆうしゃ』はわしより弱いぞ。
わしに触れただけで死んでしまうからな」

そこで父さんネズミと母さんネズミは、自称『しんのゆうしゃ』のところへ行ってみました。
「世界一弱い自称『しんのゆうしゃ』さん。娘をお嫁にもらってくれませんか?」
「そりゃうれしいが、サマルトリアの王子は私より弱いぞ。
重い武器を持てないので、最強の武器は鉄の槍だし、ひとりだけザラキで真っ先に死ぬからな」

そこで父さんネズミと母さんネズミは、サマルトリアの王子のところへ行ってみました。
「世界一弱いサマルトリアの王子さん、娘をお嫁にもらってくれませんか?」
「そりゃうれしいが、スペランカーは私より弱いぞ。わずかな段差から落ちても死んでしまうからな」

そこで父さんネズミと母さんネズミは、スペランカーのところへ行ってみました。
「世界一弱いスペランカーさん。娘をお嫁にもらってくれませんか?」
「そりゃうれしいが、私よりも弱いものがいるぞ。
それは、実写版の『GUNDAM 0079 THE WAR FOR EARTH』のガンダムだ。
モビルスーツなのに、私のマシンガンで撃っただけで壊れるからな」

そこで父さんネズミと母さんネズミは、実写版ガンダムのところへ行ってみました。
「世界一弱いガンダムさん。娘をお嫁にもらってくれませんか?」
「そりゃうれしいが、人間はわしより弱いぞ。わしがあっさりやられる度に心が折れてしまうからな」

そこで父さんネズミと母さんネズミは、人間のところへ行ってみました。
「世界一弱い人間さん。娘をお嫁にもらってくれませんか?」
「そりゃうれしいが、魔王セトはわしより弱いぞ。『プルーシーのいななき』を使えば、通常攻撃を封じることができるのだからな」

そこで父さんネズミと母さんネズミは、魔王セトのところへ行ってみました。
「世界一弱い魔王セトさん。娘をお嫁にもらってくれませんか?」
「そりゃうれしいが、堕天使ルシフェルはわしより弱いぞ。何しろ自分の欲望に負けて、天界から地獄に落ち、その輝きを失ったのだからな」

そこで父さんネズミと母さんネズミは、堕天使ルシフェルのところへ行ってみました。
「世界一弱い堕天使ルシフェルさま。娘をお嫁にもらってくれませんか?」

ルシフェルは答えました。
「よかろう。そのネズミの娘を娶(めと)り、我が力の一部としよう」

そういってルシフェルが背中にある六枚の翼を大きく開くと、ネズミの娘はルシフェルの体内に取り込まれて行きました。

こうして、堕天使ルシフェルと、ネズミの娘の二身合体により、
混沌の化身「悪魔王ルシファー」が仲魔に加わわりました。

父さんネズミと母さんネズミはルシファーを連れて、
天界にある聖なる門「ヘブンズゲート」へと突き進みました。

そして、数々の天使を打ち倒し、ついに天のいと高きところにある永遠の楽園「パライゾ」で大天使ミカエルと対面したのでした。

静かに微笑むミカエル。
彼は、神話の時代から、神の名の下に、自由な意思を持つ者を葬ってきたのです。
ミカエルが持つ炎の剣には、神の秩序を守る聖なるオーラが満ちていました。
「主の御名において、消え果てよ!」

ミカエルの炎の剣を、ルシファーは正面から受け止めました。
「神の操り人形め、思い知るがいい!これが混沌の力だ…!」ルシファーの突撃。
父さんネズミと母さんネズミも死力を尽くして奮戦します。

果てしない激闘の末に倒れるミカエル。
崩れ行く永遠の楽園。

一行は、どうにか地上まで戻ってきました。
そして、ルシファーが静かに言いました。

「お父さん、お母さん、私たちはついに神の秩序を破壊した。
これからは自分たちの意志において、生きて行かなければならない。その意味は、分かっているな?」

父さんネズミは、すでに覚悟を決めていました。
「お前の婿取りのつもりがこんなことになってしまって、本当にすまないと思っている」

母さんネズミも言いました。
「そうだね、でも、お前が自分の好きなように生きられるなら、それが一番の幸せだよ…」

それを聞いてルシファーは六枚の翼を大きく広げ、力強く叫びました。

「悪魔王ルシファーが、ここに宣言する!
かつて魔界に落とされた神々は復活し、地上に再び黄金時代が来る。
混沌こそが世界の姿だ!より強く、より美しいものが次々に生まれ来る。
その破壊と再生は、永遠に続くのだ!」

ルシファーの大いなる羽ばたきと共に、世界は混沌に包まれて行きました。
強いものだけが生き残る、弱肉強食の世界が始まるのです。

邪悪な輝きを放つ満月に向かって飛び立ちながら、ルシファーは、いえ、ルシファーの中のネズミの娘は思いました。
「最初から誰に嫁ぐ必要もなかった。なぜなら、あたしの王様は、あたし自身…なのだから…!」

ここは、混沌に満ちた地上の楽園。
強いものが、好きなだけ自由に変えられる世界…

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