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「人が増えても速くならない 〜変化を抱擁せよ〜」で感じた学校教育

倉貫さんの新しい書籍が出るということで、さっそく購入して読んでみました。
これまでも感じた「エンジニアの仕事と教員の仕事には共通点がある」ということを今回も再認識したので、まとめてみました。
ネタバレに注意しながら、教員の仕事を中心に書いてみます。


仕事の本質

エンジニアの仕事の本質は「求められている機能を、どういったプログラムで表現するのかを考えること」です。とても頭を使う仕事です。

p.26 2章 人を増やしても早く作れるわけではない

教員の仕事も同じように感じています。

  • 教科書に書いてあることをそのまま生徒に教えればいいのに、なぜ教材研究にそんなに時間がかかるの?

  • 覚えること、やることはすでに決まっているはずなのに、なぜそんなに準備に時間がかかるの?

と、言われたりもしてます。
たしかに「教員が」授業をやることが目的であれば、そんな感じでよいかも。
でも私たちは、「生徒が」授業を通じて学問や社会に興味を感じてくれることを目的に、授業を手段として行っています。
活動の主体である子どもたちに対して、生活の基盤や社会環境、学習のつながりや背景、そういったものを考えながら授業を組み立てていきます。
授業展開では、発問のタイミングや内容、子どもたちのワーク、想定される質問、など案外いろいろと準備して授業に臨んでいます。
そこまでやるの?と思われた方もおられるかと思います。
たしかにそうです。そのへんが難しいところです。

あらゆる状況への対応

エンジニアは漏れがないように、あらゆるケースやあらゆる処理を考慮しておきたいと考えています。

p.39 3章 たくさん作っても生産性が高いとは言えない

教員の仕事も、授業や部活動、クラス活動などにおいて、目の前の突発的な事象への対処だけでなく、その背景や影響範囲など幅広く考えていきます。
どちらも、ただ言われていることをやればいいのではなく、個々が予測イメージを持ちながら作業している点では共通だと思います。

  • プログラミングでは、発生したバグは、正しく(想定通りに)動作するように修正する

  • 教育活動では、他者への影響範囲を考慮しつつも、完璧は求めず、失敗をどれだけ許容できるか

教育活動では、(安全な場である)学校で失敗の経験をさせ、解決策を一緒に考えさせること、も大切な要素です。
プログラミングの世界でも、意図的にエラーを発生させ、テストで抽出し、その後の開発に役立てていく、という開発手法(テスト駆動開発)があることにも面白いと感じています。

実際に行うまでは全ては分からない

見積もりの精度を高めるために、どこまでも詳細に考えていくとしたら、その時間はもはや実際にかかる時間と変わらなくなります。

p.83 6章 見積もりを求めるほどに絶望感は増す

授業における学習指導案や、修学旅行などの行事における行動計画など、詳細を考えていくと実際にそれを行った場合と同じくらいの時間、もしかするとその何倍もの時間をかけて考えるようになります。(実際、そうなっています)

不確実なものが多数ある状況では、これらはどの規模になるか、想像することは難しくないかと思います。むしろ、どの程度の許容ができるのか、というのがポイントかもしれません。

学習指導案が詳細まで立派に作成されたとして、異なる教員が異なるクラスで行った場合に、全て同じ反応になるとは思いません。なるほうが不思議ですよね。

「納品」をなくせばうまくいく

常に動くシステムと事業を共に見ていくことで、協働関係を気づくことができます。

p.93 6章 見積もりを求めるほどに絶望感が増す

倉貫さんの会社「ソニックガーデン」におけるビジネスモデルの本質です。
ソフトウェア開発は「完成して納品が終わればプロジェクト終了」の形が多いのですが、「実際に使い始めたところがスタート」であってその後の改良や改善を一緒に進めていく、というものです。
そうすることで、発注側もソフトウェア会社も幸せになる、という考えからです。

教員の仕事も、目の前の授業やクラス運営などを一生懸命やっていますが、進級や卒業などで自分との関わりが離れた際に「あの子たちはどうやっているかな?」と気になるものです。
特に教育活動は「今このときが勝負」でもありながらも、成果は数ヶ月後、もしくは数年後に現れることもよくある、というのが定説です。

卒業した生徒がよく「先生、もう覚えていないですよね」と声をかけてくるのですが、一緒に過ごしたときのことよりもその後にどういう生活をしていったのか、が気になってたので、こちらからはいつもこのことを逆に質問することが多いですね。(もちろんその時の思い出もちゃんと覚えていますが)
みなさんも心当たりあるのでは?

自分が関わって育てた人がその後どういうふうに伸びていったのか、とても興味あります。

そういえば、システム会社の方とお話しした際に、作られたシステムについて「あの子ちゃんと動いてる?」とか、擬人化されていたのを思い出しました。
ソフトウェアとかコンピュータとかも、自分が一生懸命向き合って育てた「人」と同じなのですね。

そう感じているエンジニアの方は多いと思うので、決して軽く「モノ」扱いしないでくださいね。
ずっと関わり続けていく姿勢がお互いを幸せにしてくれるものと考えています。

まとめ

倉貫さんの考えは以前から一貫しており、それを自身の会社経営で活かしておられることに、私はずっとリスペクトしまくりです。
今回は一部だけ紹介しましたが、ほんとはもっとたくさんのことが書いてあり、そのいずれも学校教育に置き換えれるものです。
そもそも「企業経営」と「学級経営」には共通点は多いですし。

この書籍は「多忙な人でもサッと読めるように」書いてありますので、一般の経営者やビジネスパーソンでも共感できる内容だと思います。
少しでも倉貫さんの考えに共感していただける方が増えるといいな。
またそういう方と出会えたら一緒にお話ししてみたいです。

おまけ

地方のとある商業高校生がソニックガーデンを訪問した記事が、今もアップされているのでリンクを貼っておきます。
2015年8月のことですが、この生徒たちは3名はエンジニアとして、1名は世界に出かけて活躍しています。
こういう出会いが人生を変えていくきっかけになるんですね。

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