個人的に思う、マーケティングで最も大切な「コンセプト」の話

今日はマーケティングを考える際に大事な「コンセプト」について書いてみようと思います。商品、ブランド、広告の戦略を考えるにあたっては、その大元を貫く「コンセプト」が必要になってきます。人によって違いがあるかもしれませんが、個人的には「コンセプト」を考えるのに必要なのは、下記の4つの要素かな、と考えています。

①ターゲット
②ベネフィット
③カテゴリ
④RTB (Reason to Believe/「信じる理由」 )

実務を通じて思ったことも踏まえ、書いていこうと思います!

①ターゲット

「ターゲットは誰なのか」です。
簡単なようで、これがなかなか難しい。実務ではどうしても、往々にして狭く、企業都合のセグメンテーションで見てしまいがちなことが多いです。大事というか、意識すべきなのは

①「自社の客」ではなく「市場全体」で考える
②「消費者」中心で考える

…ということでしょうか。

セグメンテーションに絶対的な正解はありません。「どのようにセグメンテーションすれば、自社のビジネスが伸びるターゲットを見つけられるか」かな、と思います。

セグメンテーションの分け方としては「デモグラフィック(性年代属性)」「ライフタイム(人生)」「ジオグラフィック(地理)」「サイコグラフィック(心理)」などがありますが、実務をやる際、最も可能性があるのは「サイコグラフィック(心理)」でしょうか。表層の年代や男女で考えるのではなく、その人が持つニーズで分ける、という考え方ですね。ただ、未分化のカテゴリにはまだまだデモグラフィックもあり得ると思います。女性専用ジムの「カーブス」などは良い例でしょう。(ただし、カーブスはベネフィットやRTBも非常に独創的で強力です)また「サイコグラフィック(心理)」セグメントと書きましたが、人間は「生活文脈」の中でニーズがコロコロ変わる生き物で、「〇〇という価値観を持った人」のような分類の仕方は上手くワークしない場合も多いと個人的に思っています。(プライベートでは服で自分を主張したい人でも、普段仕事で着るスーツはあたりさわりのない、普通のものを着るという人がいるように、同じ人でも持つニーズは状況や次第で変わる、というイメージです)。

消費者視点で「なぜその商品を選ぶのか?」「他のカテゴリや商品ではなく自社商品を選ぶ理由は何か?」「その製品を使うことで本当は何を得ているか?」等を考えると、ターゲットセグメンテーションが見えてくる場合
があります。

また、当たり前ですがセグメンテーションにおいて「数(ボリューム)を把握すること」は非常に重要です。昔「この商品には(今はターゲット外の)この新しいターゲットが最適だ!」と思ってプランニングをした結果、該当ターゲットの数が少なすぎる事が分かり、プランを変更したことがあります。商品ブランドによって求められる売上規模が違うはずなので、それに見合うセグメントかどうかは、冷静に見る必要があります。


②ベネフィット

「お客様が本当に買っているもの」です。「便益」とも言います。

セオドア・レビット博士の「消費者が欲しているのは『1インチのドリル』ではなく、『1インチの穴』である」という言葉は非常に有名です。クリステンセン氏の「JOB理論」での「JOB」という考えもほぼ同じ考えだと思います。平たくいえば、「この商品を使うと、あなたはこうなれます」という価値のことです。機能的なベネフィット(例:痩せられる)もあれば、情緒的なベネフィット(例:楽しい)もあります。また、一見同じカテゴリ内でもベネフィットが全く違う、ということは往々にしてあり得ます。日常生活の中で「このカテゴリやブランドの本当のベネフィットは何か?」を言語化して考えると結構発見があったりします。

ここでも、消費者が「なぜその商品を選ぶのか?」「他のカテゴリや商品ではなく自社商品を選ぶ理由は何か?」「その製品を使うことで本当は何を得ているか?」や「どんな文脈で、どのように使われているか」等を考えると、ベネフィットへの洞察が深まります。

例)一見同じでも、実は便益が全然ちがうもの

■動画コンテンツの場合
Netfrix:自宅で1人で好きなタイミングで、好きな時にコンテンツが見れる
映画: 大きな画面で臨場感が味わえる、楽しいお出かけ

■本屋の場合
Amazon:欲しいものが探す手間なく手にはいる
ビレッジバンガード:面白いものが発見できる、店の中を回るのが楽しい

マーケティングにおいて、「WHO」はターゲットで、「WHAT」は「ベネフィット」と考えると非常に分かりやすいです。「商品」は「WHAT」というよりも、「ベネフィット」を提供する「HOW」だ、という内容を音部大輔氏の書籍で読み、非常に納得した覚えがあります。よく言われる「4P(Product、Place、Price、Promotion)」はいずれもマーケティングの活動範囲を整理したフレームで、これは「HOW」の領域です。

そういった意味でもマーケターの重要な仕事の1つは「ビジネスを伸ばす『強く魅力的なベネフィット』をどう見つけ、作り、届けていくか」ということだと思いますし、マーケティングに携わる人間は「自社が本当に提供している『ベネフィット』は何か」「自社がこれから提供すべき『ベネフィット』は何か」を洞察する力が必要だと思います。それには(顕在化していない点も含めた)生活者のニーズの把握が不可欠です。生活者のニーズについてはまた別の機会に書ければと思います。

③カテゴリー

いわゆる「市場」と言われるものです。

市場レポートなどを見ると「〇〇市場」(例:オーガニック化粧品市場)という「市場」が載っていますが、実際はもう少し深いものだと思います。

「市場」には「顕在化している市場」もあれば、「潜在的な市場」もあります。「顕在化している市場」は「外食(ハンバーガー)市場」のように「表層に似ているもの」ですね。その一方で、実際の消費者の行動を考えると「消費者が選んでいるものの集合」が「市場」だとも言えます。例えば、安く子供に喜んでもらう食事をしたい親は「マクドナルドか、シェイクシャックか」では選んでいません。「マクドナルドか、ファミレスか、スシローか」で選んでいるでしょう。こういった「潜在的な市場」は市場レポートやビジネス記事では出てきづらいものですが、この「潜在的な市場」の洞察は重要です。このあたりの考えは音部大輔氏、足立光氏などの書籍に書いてある内容が非常に示唆的でした。

この「カテゴリ」もターゲットセグメンテーション同様、正解はないと思います。「自社のビジネスを伸ばすために、商品をどんなカテゴリーと捉えるか」「本当に提供している便益は何か」「どんな便益を提供できるか」を考えることが重要なんだと思います。

マクドナルドをハンバーガーカテゴリと考えるなら「うちのハンバーガーは他よりも良い」という訴求になるでしょうし、「家族で行ける外食チェーン」と考えるなら「子供も親も楽しんで、満足できる」になるでしょう。ここでも、「生活者がなぜそのブランドを選んでいるか」「生活者が本当に欲しているのは」を考えるとよいかもしれません。もちろん、こういったカテゴリや便益は複数あっても構いませんし、ボリュームを考えつつ、複数の便益を積極的に組み立てていくべきです(マクドナルドも上記の「家族向け市場」のほか「お腹いっぱい肉を食べたい市場」「朝のひととき市場」など複数の市場が存在しているはずです)

これも実務ではなかなか難しいことで、関わりが深いほど、どうしても視野が狭くなってしまいがちではあります。(「マーケティング近視眼」という言葉があり、これも先程上げた「1インチドリル」のレビット博士の言葉です。)

さて、ここまでで一旦休憩。

実は、①の「ターゲット」②の「ベネフィット」③の「カテゴリ」は互いに関連していると僕は思います。①の「ターゲット」と③の「カテゴリ」を結着しているのは②の「消費者ベネフィット」です。②の「ベネフィット」を魅力的に感じる消費者の集団が①の「ターゲット」であり、同じ理由で選択肢に入るブランドの集合が③の「カテゴリ」である、と言えるでしょう。

つまり、マーケティングを考える際に、最も考えなければならないのは「消費者のベネフィット」です。

だからこそ、「消費者中心」の文化をもつ企業は伸びる可能性が高いです。この場合の「消費者中心」とは、「(場合によっては消費者自身も気づいていない)消費者のニーズを満たし、消費者ベネフィットの提供を何よりも優先する」という意味です。これは「お客様のため」という道徳・社会的意義というよりは、「最終的に選択しているのが消費者だから」という資本主義市場の構造ゆえでしょう。例えば「消費者に購入や選択の決定権がない」という市場であれば「消費者中心」に考えてもビジネスは伸びないと思われます。※例えば処方薬のようなカテゴリの場合


④RTB (Reason to Believe/「信じる理由」 )

消費者がベネフィットを「信じる理由」です。

ベネフィットは、「~~だから」という根拠があって納得性を増します。「売上No.1」「医者の推奨」「独自〇〇製法」「100年の歴史があるから」といった要素はすべて「信じる理由」です。ベネフィットの納得性を高めます。

以下のコピーを比べてみて貰えれば、その大事さが良く分かるかと思います。あなたは、どちらのお茶が欲しくなるでしょうか。

①「〇〇茶」はあなたをリラックスさせ、快眠に導きます。

②「〇〇茶」は、信州の森深くにあるオーガニックな原料を使っているため、あなたをリラックスさせ、快眠に導きます。

ここが自社独自のものであると強いブランドになる場合が多いです。他社に真似ができないからです。(ただし、「便益」と結びついていることが前提です)。この話をするとよく「自社の強み」「自社の弱み」という言葉をいう人が出てきますが、大事なのは「『強み』も『弱み』も状況次第で変わる」という視点でしょうか。強みや弱みをあらかじめ決めるのではなく、「どのような状況だったら『違い』を『強み』に出来るか」ということを考えるという事です。自社が地元にしかなく全国区ではない場合、「規模の小ささ」とみれば「弱み」かもしれませんが、視点をかえれば「地域密着」「丁寧なケアができる」という「強み」にもなりえます。森岡毅氏が「西部園ゆうえんち」をリブランディングした際、「『昭和の温かみある、懐かしい世界』を体験できる」というベネフィットにしていますが、これは「施設が古い」という点を「強み」にした秀逸な事例だと思います。

最後に、実際に最近見た広告で、①②③④を考えてみようと思います。対象はYoutubeの広告で一瞬だけ見ただけですが、「頭を冷やし快眠できる枕」です。商品名は覚えていませんが、②ベネフィットや④信じる理由は覚えています(商品名は消費者の頭には残りにくいのです)。その枕は「頭の温度を下げることで快眠ができる」というベネフィットで、「信じる理由」としては「枕の素材・構造」「スタンフォード大学の理論を使っている(共同研究だったかもしれません)」というものでした。①②③④をまとめてみましょう。

①ターゲット:寝起きに頭がすっきりしない人
②ベネフィット:頭の温度を下げ、快眠ができる
③カテゴリ:快眠カテゴリ
④POD:枕の材質・構造。スタンフォード大学の理論を利用

カテゴリとしては「枕」ですが、「快眠」をベネフィットにしているので、エアウィーブ等との寝具や、ヤクルト1000はじめ、食品等とも競合しそうです(「便益」で競合しているので「便益競合」といいます)。その中でも「頭を冷やす」と「頭」に機能的なベネフィットを振っているのが特徴的です。睡眠時の際のカラダの「不」(腰が痛くなる、体が痛くなる)の解消ではなく、頭の「不」(目覚めが悪い)の解消をベネフィットにしているのでしょう。「信じる理由」の数や納得性もきちんとしています。残念ながら私の広告接触は1回のみ、売上も分かりませんが、「よくできているなあ」と思ったのでこの場で記載させていただきました。

以上、長々と書いてしまいましたが、何かしらお役に立てれば幸いです。

引用/参考文献:
足立光/土合朋宏「マーケティング大原則」朝日新聞出版
音部大輔「マーケティングプロフェッショナルの視点」日経BPマーケティング

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