見出し画像

てめえは、のどの奥に、無理強いされて、紙の束で手をくくられて、って、犯罪のにおいもなんにも無臭なのに、わたしの世界は、清潔だから、でも、無理強いって、どこの爺、もしくは、辞意、どんなマニフェスト、全部「す」のせいだ。あれができてから、近所の人口の半分が、「す」に消えた。

 いつだか、つぶれたコンビニの跡地が、急に飾りたてられ、ポスターや、幟の準備がはじまった、いつだか、わたしが、酸素カートを引いて、日除けの帽子をかぶって、静かに歩いていたときだった。

「す」の会場は、じわじわとできあがる。チラシが投函され、自宅にも、毎日、勧誘の嵐であった。隣の深夜勤務の男は、朝のインターフォンの音に、いつも壁をぶった。

 三十日目、わたしは、「いつ、オプンするのですか」と尋ねた、「いったい、いつなんですか」チラシ配りの二人組は、ショルダーバッグから、手順書と、ラベルライターで明示された、深紅の二穴バインダファイルを取り出す。「オプンの日くらい、わかるでしょ」わたしは、酸欠でしどろもどろになる。

 

 さて、オプンの日を知らされないまま、わたしは、日常をWWWWと過ごしたので、タマネギの高騰による、オニオンスープが、夕飯のメニュウから抹消されたり、不幸続きで、おまけに、親類の鶏が、大手フランチャイズチキン工場に送られることになり、名誉、わたしは、法事のついでに、親類の家で、鶏等が出荷されるのを見送った。拍手喝采トラクターの、スズキの字ひび割れて、鶏は一匹も振り返らなかった、コケコと小さくなくだけ。

 駅でおりた。タクシーは、『酸素ボンベと、いれづみをいれているたかたはご遠慮します』というのが、停まっておるばかりだったため、わたしは、仕方なく歩いた。いれづみなんて、きっと、いたくてたまんないだろ。

 烏合の衆、老若と、男女と、爺、婆、それに、得体のしれない幟と、「す」の会場がそこにあらわれた。

 群衆、おおむね「老」「老」「老」「老」ばかっしで、おおむね、肥えていた、豚のように、肉を蓄えている。裕福なそうが多いのだろう。

 灰灰灰灰の中、どぎつい青い薔薇、虎、なすび、が、テロン、素材の服に描かれたお召し物、虎は、いかにも。いかにも、だるんだ腹のやらかい脂肪の粒子をかき分けて、スクイズの感触で飛び出してくるだろうと、わたしは怯えた。

「す」の会場に並ぶ人等の、目目、耳耳、鼻穴鼻穴のすべてがペアで、それは、人々の両岸に、真っ赤な博物館のロープのようなものが、張られていた。それに、ふれると、先頭から、怒鳴り声があがった。

「押さないでください」「二列に並んで、順番にご案内しますので、少々お待ちください」「群衆が群衆の敵となることもあります」「在庫は十分にございます」「今日は、歌手の、田村氷さんの、ミニコンサートはありません」「郵送のかたはインターネットから申し込みください」

 だから、人人の流流は、液体のようで、水が夜を覆い尽くすから、夜は海だとわたしは、妙な気分で納得したのである。

 「みなさん先着五十名様に、『す』をはかる、特製のキャニスタをプレゼントします」

 やけに明るい音楽がながはじめ、川の流れの中に並んでいる、群衆たちが、一斉に、体をゆらしはじめた。

『健康酢健康酢』

 店の名前いりのはっぴをきた、若い女が、タンバリンを鳴らす。

 これでは、さすがに、夢ならばいいけど、のっぴきならないから、わたしは、ふたたびタクシーの乗り場へきびすを返す。

 わたしは、いつも酸欠で、歩くときも、息切れをした、夕焼けが恋しくて、足が震えた。

 行列の最後尾に、深夜勤務の男が、チラシを握りしめて立ち尽くしている。男は、わたしをみるなり、

「一緒に並んで、『酢』の試飲をしていきませんか」と、顔中に浮かんだ、隈をきしませて、みすぼらしく笑った。

  

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?