「ブレイクスルー・ハウンド」65

 光は二階に駆け上がり、両親の部屋のクローゼットを空けて靴箱を取り出す。
 そこには自動拳銃が収まっていた。グロック17、スライドを後退させずともトリガーにある突起部が安全装置になっており薬室に銃弾があれば引き金を絞るだけで銃弾が発射される画期的なハンドガンだ。
 銃弾がマガジンに収まっていることを確認しチェンバーに弾を送り込む。
 そして、トリガーガードに指をかけた状態で急いで取って返した。
 ちょうど、危機的状況が生じている。車を捨てたらしい逃走犯、日本人の、しかも子どもである光にはとてつもない巨人に見える黒人の男がコルトガバメントを手にジェシカに駆け寄りつつあった。
 位置の関係で、車を下りた警官は即座に発砲できない。
 だから、光は部屋を飛び出すや撃った。
 見事に犯人の体を銃弾がとらえる。動く標的を、この状況下で当てたのだから上出来だろう。
 だが、射撃の寸前で置きっ放しにしていたサッカーボールにすこしつまずいた。
 それが彼の天才的な技術を狂わせたのだ。銃弾が逃走犯だけでなく、その体をつらぬいてジェシカの頭にまで命中した。サンフランシスコの輝く陽光に脳漿と脳髄の破片が飛び散った。

 光は、首を締め上げられるような心地で、息苦しさで目が覚めた。
 場所は、米国ではなく高校の教室だ。足がついているのは床であり、芝生などではない。授業が終わっているらしく教師の姿はなく、それぞれの生徒のグループが雑談に興じていた。
 だが、光の心は未だの記憶の中の現場に留まっていた。
 一発の銃弾は多くのものを壊した。自分が放った。

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