詩「食材の春」

茨城大学のそば 小さなアパート
美しいおんなが住んでいた
近くには池があり 蛙が  
ぜえぜえ鳴く以外に
なんの取り柄もない場所 

おんなは 粗末なかっこうを
いつもしていたが(たまにブーツをはく)
艶かしく 蛇になり オスの蛙どもを
食い 吐き捨てる

ああ! 秘密だ!
秘密が彼女に 艶かしさを与えた!
秘密を抱えたら
人は誰でも!

農学部在籍だった、という秘密
年上のおとこに 春を与え続けたという秘密
貧しい弟を 助けていたという秘密
仮面で顔をいつも隠していたという秘密
それにしても

あのおんな いくつだったのか
大学生だったのは 確か
2000年頃であったか
(この、であったか、という語尾)
(柳田國男がよく使った)
(すべてをぼやけさせる曖昧な語尾)
(それは秘密を作る)

(この上からダシをかけ)
(適当に、砂糖だの、醤油だの、ミリンだの、お酒だのを)
(加えるわけだが)
(自分の好みで、どうにでもなさい)
檀一雄 檀流クッキング
文章にはリズムが内包され
踊れ、と呼び掛ける Let's !

檀一雄の本は すくない
書店でも 図書館でも 古本屋でも
あまり見かけない なにか理由が
あるのか 秘密が あるのか
蛇に 食われたのか

カツオのたたき 具入り肉チマキ
イカのスペイン風・中華風
大正コロッケ
イモの豚肉はさみ蒸し
ああ!踊りたい Let's !
調理できる、という秘密 
秘密をもつことが
うつくしくなる方法だ!
仮面を被り
おんなは
蛇になる




 

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