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汗臭さと押し付け。

 他人の熱意と言うものは、概ね押し付けがましいものだし、その汗臭い理論(と言うより傲慢)は大体常軌を逸している。
 以前、そう言う暴漢と言っても過言ではない知り人に付き纏われていた。
 文字通りの付き纏いっぷりは尋常では無く、私が仕事中であろう平日の9時であろうと、夜中の3時であろうと、容赦無く着信があった。
 もちろんそんな時間に電話に出るわけもないし、元来ものぐさなので、放っておいて、落ち着いた時間にかかってきた電話だけを取っていた。
 
 そんな彼の電話の内容は九分九厘、愚痴だった。嫁や、親しい友人、先輩へと憤りばかりを私は延々と聞かされた。
 彼の事情以外でこちらから電話を切ることは決して赦されず、半分寝たような状態で何時間も付き合わされ、翌日に悪影響を及ぼす日々が続いた。
 やがて私は、電話のスピーカーをオンにしてほとんど話しの内容を聞かず、相槌ばかりで誤魔化すようになっていった。
 それでも彼は満足そうだった。早い話が、愚痴をぶつけてそれなりの感触のあるサンドバッグなら、誰でも良かったのだろう。

 彼はよく、『俺、本気で仕事してるから』とか、『俺前の店を辞めたこと後悔してないし、今こんだけ幸せやから』などと2日に1度は豪語した。
 私からすれば、本気でやってるならそれをわざわざ言う必要もないだろうし。前の店を辞めて後悔していないなら、前の店の悪口を私に言う必要もないと思う。
 それでも彼は鼻息荒く、飽きずにその話題を繰り返した。

 想像力を駆使して物を創るべき人間が、こんな俗物臭い事を言う必要は無いはずだ。
 せっかく光るセンスを持っていたのに、傲慢さと押し付けの正義が、彼を歪めてしまった。
 
 数日間連絡を無視し、ようやく電話に出た私に、最後に彼はこう言った。
『忙しいなら忙しいって言えば?ね。メールの返信も返さんでさ。俺は絶対そんなふうに粗末には扱わ無いよ。ね。わかる?人にはそう見えてるんよ?』

 最後まで自分主体のその意見に辟易した。彼はそう感じたかもしれないが、私であれば連絡に返事が無いのは、その人なりの事情や精神面もあるだろうと、取立てて連絡の追撃をすることも無いし、その結果関係が終われば、それはそれまで。私はそこ迄他人に依存しないからだ。
 私は淡白で薄情極まり無いですねと言われればそうかも知れない。
 けれども汗臭い自己理論と自己主張を押し付けて、友人友情ごっこをするよりは誰にも迷惑をかけてないだけマシだと思っていたりもする。

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