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咲けよ咲けよと ささやく如く。猪瀬直樹著『唱歌誕生 -ふるさとを創った男』

口パクと、教科書の偉人の顔にラクガキをして遊ぶだけだった遠く20年以上前の音楽の授業。

ぱっと思いついて今でもうっすら口ずさめる曲といえば、「春が来た」「春の小川」「故郷」「赤とんぼ」「手のひらを太陽に」くらいだし、音楽の授業といって思いつく日本の音楽家は、山田耕筰と瀧廉太郎程度。瀧廉太郎は、ザビエルに並ぶラクガキ被害者だった気がします。


文部省唱歌の作者って?

先ほどの曲の中で、文部省唱歌にあたるものは「春が来た」、「春の小川」、「故郷」の3つ。これら文部省唱歌は、もとは尋常小学校唱歌といい、それまで外国の曲に日本語の歌詞を無理やりつけて歌っていたものを、「ちゃんと日本人が作詞作曲した曲で、日本の国や自然を愛する気持ちを歌おうぜー。」という官の号令のもと作られました。

時期は第一次世界大戦の前くらいで、明治の終わりごろから大正初期。日本があらゆる分野での近代化を猛烈にはかっていた時期です。

童謡「赤とんぼ」は僕でも知ってる山田耕筰の作品。そして「手のひらを太陽に」の作詞はなんとあのアンパンマンのやなせたかし。

一方、文部省唱歌である「春が来た」、「春の小川」、「故郷」の作詞家は高野辰之という正直 誰それ?な人物。

どメジャーな曲であるのにもかかわらず、制作者はわりとマイナーリーガー。この”ふるさとを創った男”高野辰之という人物と周辺を追ったのが猪瀬直樹著 1990年刊『唱歌誕生 -ふるさとを創った男』です。


ヨナ抜き音階

日本はもともと五音音階が基本で、西洋は七音音階。そのため、明治維新以降近代化を進める日本にあって、西洋の音楽が日本に入ってきても全然うまく歌えない問題があったそうな。ドレミファソラシの第四音「ファ」と第七音「シ」がないからヨナ抜き音階。

ヨナ抜き音階の曲である「春が来た」と「春の小川」はそれぞれ小学校2年生と小学校3年生で学びます。七音音階である「故郷」は小学校6年生。

つまり、日本の音楽教育は低学年から高学年に向かうにつれ「ファ」と「シ」が増えてくるようにプログラムされている。そして、文部省唱歌は七音音階に苦しむ日本の音楽分野の近代化の一役を担った存在と言えるのです。


春の小川 @東京

春の小川はさらさら流る。
岸のすみれやれんげの花に、
匂いめでたく、色うつくしく
咲けよ咲けよと、ささやく如く。

が「春の小川」のオリジナルな歌詞。小学校で教わったのものとは若干異なります。

この小川のモデルは、当時高野辰之が住んでいた代々木を流れる河骨川という川だそうです。高野辰之は小さな娘と歩いた河骨川の風景を「春の小川」に書きました。

現在「春の小川」を聴いて東京を思い浮かべる人はおそらく誰もいません。当時は、東京の市街地は東側で、西南方面は農村でまだまだ自然が多く残っていました。

それが徐々に西南方面に広がっていく歴史は、前にこちらにまとめました。


作られた時代背景や人間模様、描かれてる場所、日本的音階の特徴、日本語の歴史など、唱歌を通じてまた日本の近代史を学びました。小さいころに習っていたいろいろなパーツが、今大人になってこうして繋がっていく感覚は本当におもしろい。

今度、ブラタモリの如く、代々木 河骨川跡を歩いてみようと思います。

to be continued...

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