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interview#50 ビーバーブレッド 割田健一さん

June 3, 2019

食に関わる仕事をするひとに日々のパンについてインタビューする連載『わたしの素敵なパン時間』も、ようやく50人になりました。食のセンスのあるひとたちはどんなふうにパンを食べてきたのか、今、どんなふうにパンと関わりあっているのかお聞きし、伝えたいという想いがあり、始めた企画で、NKC Radarで10年以上続けさせていただいています。ご協力くださった皆さまと、連載の場をつくってくださったに心からお礼申し上げます。

今日はこんな感じでいい、と配合を変えて焼く

割田健一さん / ビーバーブレッド パン職人

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マルディグラというカンパーニュ

 銀座のフレンチレストランでパンを焼いていたとき、同じ銀座のマルディグラのシェフ、和知徹さんからフランスのお土産で、栗の粉をいただいたんです。ぼくはそれをカンパーニュに入れたのと、入れていないのと、2種類焼いてみて、和知さんのところへ持って行きました。お土産といっても、なんとなくそこから何かをつくらなきゃいけない雰囲気になるんですよね。面白い素材をいただけるのは、ぼくのラッキーなところでもあるんですが。そのとき、「やっぱりカンパーニュはいいね」という話になって、マルディグラのためにカンパーニュを焼くことになりました。それがこの「マルディグラ」という店名のついたパンです。

 毎日配達するのが大変なので、週に一度の納品で済むように大きく焼くことにして、一週間もたせるはずだったんですが、だんだん足りなくなってきて、今ではすごく大きくなって、5キロ以上あります。

 このカンパーニュはルヴァン種やサワー種を入れていないため、酸味がほとんどありませんが、焼きあがった後で香りにだけ、ほんの少し酸を感じられるようになっています。そこが大事なところです。料理長も「レストランにはワインの酸とソースの酸があるから、パンに主張し過ぎる酸味は要らない」と言っていましたから。

 これはビーバーブレッドで売るつもりはなかったんです。もう銀座のフレンチの店ではないのだし、ここ東日本橋で「日本の町のパン屋さん」としてやっていくつもりだったから、バゲットもなくていいかな、と思っていたところだったし。でもマルディグラに納品する分を焼いているのを見ていたスタッフが、「これ売りませんか?」と言うので、試しに初日に3台つくってみたら全部売れたんですよね。それで、この界隈でもいけるんだ、と思って今日に至ります。

フライパンでトースト

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 マルディグラというこのカンパーニュは、家ではトーストして食べます。厚さは2.5センチくらいと、結構厚めにスライスしますね。両面にオリーブオイルをたっぷり塗って、熱々にしたフライパンにポンと落とすと、10秒くらいで火が入るんですよ。裏面もひっくり返して焼きます。こうすると焦げ目がついて、なんとなくお餅っぽい食感になるんですよね。揚げ餅の感じです。オリーブオイルがなかったら菜種油でもいいんです。塗って焼いてひっくり返して焼く。もう何年もずっとこの焼き方です。

 そんなふうにパッパと焼いたら、さらにピーナツバターを塗って食べることもあります。「HAPPY NUTS DAY」というピーナツバターです。パンを卸していた店で教えてもらって、行くたびに買っていたんです。千葉の落花生と北海道の甜菜糖と塩だけでつくられたもので、これが本当においしいんですよ。子供は今、小学生ですが、ぼくがいる朝はだいたいそれですね。あとは目玉焼きとかソーセージとかを添えてね。

母親の味は飽きない

 最近このパンは、ぼくには少し淡白な気がして、もうちょっと味を濃くしたい、と思っているところです。もう少し発酵させてみようとか、イタリアの栗粉を入れてみたらどうか、などと考えています。

 粉の配合は仕込みのときの気分で、結構簡単に変えていますよ。「今日はこんな感じでいいんじゃない?」って平気で変えてしまいます。毎日買ってくれているお客さんだったら、その変化がかえって母親の味的でいいんじゃないかと思うんです。ほら、女性は周期的に体温の変動があって、味覚も変わるというでしょう。母親の味がいいというのはそのせいなのだそうで、味付けが微妙に変わることで、食べるひとを飽きさせなくていいらしいんですよ。

割田健一  / ビーバーブレッド パン職人

1977年埼玉県生まれ。高校卒業後、銀座の「ドゥースフランス ビゴの店」でパン職人人生をスタート。 2007年、第1回「モンディアル・デュ・パン」日本代表に選抜される。2011年、銀座レカンのシェフブーランジェに就任。 2017年、東日本橋に「ビーバーブレッド」をオープン。著書:『「ビーバーブレッド」割田健一のベーカリー・レッスン』(世界文化社)

(NKC Radar Vol.83より転載)

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