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#61.自分を大切にしなさい(母/娘) ※続編完結


「はいこれ。今月の分ね」
月初になると自室の机に封筒が置かれる。
毎月の事だから、梨紗にはもうその中身が何か分かっていた。

「あいよ」とだけ返して寝返りを打つ。
きっと、いつも通り端(はした)お金しか入っていない。

「最近お小遣いの催促しないね。梨紗もやっと上手にやりくり出来る様になったのかな」

梨紗は仰向けからぐるりとうつ伏せになる。
脚は手持ち無沙汰程度のパタパタ、手には漫画が握られている。
母の質問に「んー」としか答えないのも、梨紗の口の中には丸く水色のアイスキャンディーが刺さっていたからだ。

これ以上話し掛けても大した答えが返ってこないと踏んだ母は大人しく娘の部屋から出ていく。

母が居なくなると梨紗はむくっと立ち上がった。
一応中身を確認。

「すっくな」
甘い汁はもう既に舐め尽くしてある。
封筒の中身を頭だけ出してパラッと広げた梨紗はそれを手放し机に落とした。

「まぁいいや。この10倍サッと稼ご」
そうニヤついてベッドに戻りスマホを手に取る。
手慣れた操作の末画面には1ページのプロフィールが表示された。

「えーっと。再募集っと」
アップロードされたプロフィール画面。
梨紗は仰向けに寝返って「ちょろいちょろい」と呟いた。

「お母さんからのお小遣いは足しにしかなんないけど今の私にはこーんなお仕事が出来るもんね!余裕余裕♪みんな私のことが大好きだもん」

スマホの電源を消しそれを掲げる。
端末が暗く鏡になったその画面には、顔こそ角度で映らないものの、ほとんど下着姿の少女が腰回りをアピールしていた。

「今度はおじ様じゃなくてイケてるお兄ちゃん系がいいなー」

梨紗はもう一度募集ページを開くと次々に誘われる通知を満足げに眺める。
そして次にはその両腕の力をふっと抜いた。

手の甲はベッドを叩きつけられてボンッと音を立てバウンドする。

梨紗の手中から離脱したスマホ。
最後微かに梨紗の指に触れられた画面は下へすっとスライドされていった。


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【プロフィール】
名前🌸梨紗
年齢🌸14歳(中学二年)
身長🌸155㌢
住み🌸東京
好きな物🌸漫画、ゲームetc…
【料金】
1時間4000~前後
(基本土日祝・13~17:00まで場所によって前後)
延長🌸15分ごとに1500円
交通費🌸都内一律2000円
その他デート代は全てパパさんもちでお願いします🙇‍♀️🙇‍♀️
お会いした際に先払いでお願いします🙌(その場で確認させて頂きますがご了承ください。。)

【注意】
・体目的🙅‍♀️
・お触り🙅‍♀️
・録画、録音🙅‍♀️
・密室空間🙅‍♀️(車含め)
・暴力行為🙅‍♀️
・ドタキャン🙅‍♀️
・個人情報🙅‍♀️
上記のことが起き不安に思った場合は返金無しに打ち切らせて頂きます🙏

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「よし」
梨紗は両脚で助走をつけるとむくっと起き上がった。

机に向かう。
引き出しに秘密の鍵を刺してガタッと開けると、そこにはお札用の貯金箱と一冊のノート。
先月稼いだ額を見て声無しに笑うと、【常連さん】【お金持ち系】と書かれたページを開いて今月の目標金額を殴り書いた。

「ふふ。そろそろ新しいコスメ買いたいな~」
そう呟き、封筒から顔を出す小遣いを雑に引き抜いて財布にしまう。
そしてご機嫌のままに口笛を吹き、梨紗は部屋をあとにするのだった。


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それから数日が経った。
いつも通り苦労せずに稼げると思えた梨紗のパパ活は急変する。

ピーポー ピーポー ピーポー …

「大丈夫ですか?梨紗さん、大丈夫ですか!」

……

廃墟ビルの一室。
そこには手足を拘束された梨紗が猿轡(さるぐつわ)を警官に外された所だった。

「もう大丈夫ですよ」

 「うぅ…」
恐怖から解放された梨紗はすぐに涙顔になる。

途中から気絶させられてよく覚えてはいない。しかし状況から見るに、梨紗はパパ活を扮した男によって暴行、監禁されたのだ。

警官は梨紗を抱きかかえ「梨紗さん無事確保しました」と無線を入れると足早に廃墟ビルから立ち去る。

梨紗が外へ出ると丁度犯人らしき男、昼から行動を共にしたパパ活相手がパトカーに押し込まれる所だった。

「…」
梨紗はサイレンを見届けると俯く。
前の客に買って貰ったお気に入りの服はボロボロに汚れ、膝元はその殆どが裂かれてビリビリに。
そこからは強姦も視野に入れた男の行動が手に取るように分かる。

「梨紗!」

「…」 「梨紗!」
驚きやら何やらで放心状態の梨紗に呼び掛ける誰かの叫び声「梨紗!」

「梨紗っ!!」
朝早く出て夕方になっても帰ってこない娘。
捜索願を出し警官から連絡を受けた母はやっとの思いでこの居場所へ駆け付けてきた。

「梨紗。梨紗ぁ!!」
KEEP OUTのテープをくぐって梨紗を抱き締めると母はその場に泣き崩れる。

梨紗は微動だに出来ずそれを無心に見下ろしていた。

公衆の目もあり交番で落ち着くよう母を立たせる警官達。
現場は撤収に入り、野次馬を含めその場にいた全員がそれぞれの帰路に着く。

母はそれから平静に戻るまで1時間ほど交番で蹲(うずくま)った。
梨紗はと言うとその間に事情聴取を受け、パパ活の事を洗いざらい話す。

襲われた作り話を考える元気もないし、この期に及んで秘密にしたとてすぐにバレる。
母はその告白を聞いてショックを受けた。

妙にそわそわしていた。最近外出の頻度が多かった。クローゼットに見覚えのない服。
娘の変化に気付けなかった。
悔い切れない母親としての自覚。娘が見知らぬ年上男性と過ごして資金調達をしていた事実。
思えば欲しい物盛かりな中学生が毎月のお小遣いだけで上手くやりくり出来るはずが無かった。10何年も一緒にいて見抜けなかった自分が情けない、と母は残された体力で静かに泣いた。

梨紗はそれを黙って見ていた。

母が自力で立ち上がれる様になるまで、交番での沈黙は長く長く続いた。


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「梨紗」
交番から出て2人で歩く夜道、母はそう切り出した。

「どうしてあんな事したの」
「そこまでしてお金が欲しかったの」
「パパ活、楽しいと思ったの」

交番で悲しく泣いていた時と違って、深く深く梨紗の心底をつついてくる母の声だ。
怖かったし、迷惑かけたのは分かっているけど、梨紗はこの時、謝ることが出来なかった。

それどころか子供扱いする母親への反発精神で、ちやほやされて楽しかった、簡単に稼げて嬉しかった、と口にしている。

私はもう大人。お小遣いなんて貰わなくても生きられるし私を目的にしてくれる優しくて襲わない安全な人もいる。これからは新規客や怪しい人は受け付けなければいいんだ。
それは言わなかったけど、正直そう思っていた。

今回は不運が重なっただけ。
梨紗はまだ懲りてはいなかった。

母は一言「帰ったら部屋で話そ」とだけ言う。
あとはだんまりのまま家に向かった。


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「ただいま」
「…」

「梨紗」
家に入ってもただいまさえ言わない梨紗に母は宣言通り直ぐに部屋へ行くよう促す。

「…わかった」
お金は犯人に抜き取られて今日の報酬はゼロ、しかもパパ活が親にバレておまけに警察沙汰。

段数とは裏腹に梨紗の気分は沈んでいく。

自室のドアを開けるとそこはいつも通りの景色だった。
ボロボロの服からパジャマに着替える。
「これじゃフリマでも売れないや」と服をゴミ箱に放った。

梨紗は色んなショックでふて寝してしまいたい気持ちを抑えて母親が来るのを仕方なく待つ。

「貴重な1回分がパーだ」
「週末しか稼げないのに」
「これからやりにくくなったな」
そう小さく呟きながら例の引き出しを一瞥。
溜め息しか出ない。

(…お母さん、何する気だろ)
時間を持て余し退屈し出す梨紗。
ベッドに座り浮いた足をぶらつかせる。
暇つぶしで何気なく開いたパパ活サイトを見て思い出したかのように今日の男をブロックすると、梨紗はまた溜め息をついた。

「この時間、なんだか嫌だな…」
自分の部屋なのに全然落ち着かない。
ゾワゾワと何かの宣告を迫られている気がしてもやもやと、そんな胸騒ぎがした。

ため息か深呼吸か分からず息を吐く。
心臓音2回分の心音が目覚まし時計の秒針とたまに重なってすぐにリズムが崩れた。
ベットのシーツにはぐるぐると指の跡ができている。それに気づいた梨紗はまた何の気なしにため息をつく。

考えがまとまらない。

(…何されるの、私)
そう心で言った時、部屋の外で足音がした。

「梨紗、入るよ」
許可も聞かずに扉は開く。

声の主は当たり前に母だし特に変わった様子がある訳ではない。
けれど唯一、その手には濡れタオルとチューブの保湿薬と洗濯バサミがあった。

「…なにすんの?」
きょとんとする梨紗に母は「話」と濁す。

意味が分からない。
けれど梨紗は隣に並んで座る母親がいつもの叱り方じゃないと一瞬で分かった。

「ねぇ梨紗」
母は事実確認の続きを始めた。
机の背に掛けた濡れタオルはクーラーに乾かされ、薬と洗濯バサミは母の手の中。
梨紗は口を開く。

「私、ーーー」
1人で稼げる事や尖った自立心を振り翳(かざ)す梨紗。あーだこーだ今日の覚えている事をつらつらと話し出す。
母はそれを聞いてまた要所要所で悲しんだ。

引き出しの事や今後の活動に不利になる事は伏せて今日起きたことだけを話してみる。
そして梨紗から何も出なくなった事を感じると、今度は母が動いた。

トンッと、薬と洗濯バサミをベットに置く。

そして一言。

「梨紗、お尻を出しなさい」

「?!」

 (…なんで)
聞き間違えたかと思った。

寝巻きと言う軽装。パジャマの下を脱いでパンツを下ろし、お尻を見せることくらいは簡単に出来る格好だ。
でもそうする意味が分からない。

「お母さん…、、なんて?」

「今日してしまった事を重く受け止めなさい」そして「お尻を出してお母さんの膝にうつ伏せる」と続けられる。

母は確かにそう言った。

今度ははっきり聞こえた。

(は⁇まるでお尻ペンペンみたいじゃん。。)

動かない梨紗。母は痺れを切らす。
まるで梨紗の心の声が分かっているかの様に言われる「お尻ペンペンって言わないと分からない?」。

梨紗の腕は掴まれた。

「下ろせないならお母さんが手伝う」
理解不能と母の圧にだらしなく立たされる梨紗には抵抗の隙も時間も与えられない。

パジャマの裾を掴まれるとスッと引き上げられる。それを背中にまとめられ洗濯バサミでひとつまみ。
そして臍がスースーするのも束の間、今度は太腿辺りにある布の左右両端を掴むとズリッとパジャマを下ろされた。

「やっ!ちょっとお母さんっ!」
状況把握よりも身の危険信号が走った梨紗はようやく抵抗を始めた。

ストンと落ち足首でぐしゃぐしゃになったパジャマを引き上げようと頭(こうべ)を垂れる、その伸ばす手を母は見逃さない。

片手を拾われる梨紗。それは母の方へ引っ張られる。
頭を下げていた梨紗の重心は揺らいだ。
引き寄せられる方に脚は簡単によろける。
ベッドでなければ顔面を強打する勢い。
それはベッドの軋む音と跳ね返りで分かった。

「お母さん、やめてよ!」
母の膝にうつ伏せに乗せられた梨紗。
爆発的な抗議が開始される。

その頃母は梨紗を構わずお尻に目を向けていた。
パジャマを下ろす勢いで半ケツ気味になってしまった梨紗のショーツ。
それに母は人差し指を掛ける。

「下ろさないで。お母さんのえっち!」
他にも中二だとか年頃だとか女の子だとか大人だとか。下着を人質に取られた梨紗のごねりは止まらない。

「こらっ!」
バタつく脚や庇う手は強引に制された。

「嫌だっ!!」
没収を拒むも込められる力は変わらない。
母は今度こそ生のお尻を出すべく梨紗のショーツに4本の指を差し込んだ。

「嘘でしょ!お母さ」
梨紗のショーツは一気に剥がされた。

「きゃあっ!!」
お尻の割れ目とショーツとの間に隙間がある半ケツ状態は不要な物を取っ払う母にとって都合が良かった。

引き下げられた梨紗の桃色ショーツはスルスルと滑り、膝裏を経てふくらはぎで止まる。
叩く部分が出ていれば良いはずなのに、梨紗の小ぶりなお尻は大きく大きく顔を出した。

「っ!!…」
涼しいお尻とこんもり盛られた腰、ひたひたと手を置かれるお尻の面、梨紗にとっては居心地悪くて仕方が無い。
梨紗はそれを伝えるべく振り返り睨んだ。
母は澄ました顔で後ろを眺めている。

お仕置きでお尻を庇う手は要らない。
梨紗の右手は洗濯バサミに綴(と)じられたパジャマと一緒に強い力で抑え込まれる。

「梨紗、お尻ペンペンだからね!」
母は顔の高さまで手を挙げる。
そして次には手の平を下へ向けて勢いよく振り下ろした。

梨紗への本当のお叱りが始まった。

バチンッ。
振り下ろされた掌は梨紗のお尻で大きな音を立てて弾ける。
ヒットした一部から全身へ伝えられる衝撃、それはビリビリと梨紗の全身を駆け巡る。

「きゃああっ!」

梨紗は叫ぶ。

間髪入れずに振り下ろされるのは怒涛の手だ。
ど真ん中を皮切りにそこからジワジワと周りへ広げられていく。
そのお尻の痺れに梨紗の背は嫌でも反らされた。

母は無言。続けてお尻は鳴らされる。

「っつ!…ぅ」
驚きと通電に頭も心も、体でさえまだ追いついていない。
それでもなんで私がこんな目に?とは片目を瞑って毒づいた。

バチンッ、バチンッ、バチンッ

梨紗は休みなくお尻をぶたれる。
背だけでなくつま先もピンと浮く。
最中、文句や言い分や思う事はあれど頭の中はそろそろ一つの事しか考えられなくなってきた。

40も50も大人の力で同じ場所を叩かれる。
中二女子ならそろそろ限界の域に達する数と力だ。
そして

バチンッ、バチンッ、バチンッ!!

「ああっ!お母さん痛いっ!痛い!!」
梨紗は弾かれた様に暴れ出した。

脚はバタバタとベッドを蹴りつけ首は肩ごと嫌嫌と揺らされる。
それでも腰が動かないのは執行前に掴まれた右手ごとズシっと体を押さえ付けられているから。
洗濯バサミはなおも梨紗の背中を晒している。

中止を訴える梨紗。母は無視。
お尻は叩かれる。

「ああっ!痛いよ!ねえお母さ」

バチンッ

「きゃあんっ!!」

泣き言は金輪際受け付けないとも取れる一際強い“打”を梨紗は喰らった。
同じものをもう一度与えられる。
梨紗は四肢は一瞬で飛び散る。

なんで?私はただ満たされない人達を助けてあげただけなのに。自分の出来る事でお金を稼いだだけなのに。何が悪いの?なんでよ。。

手形の付くお尻はもう赤に近いピンクだ。

梨紗の周りにはいつも、一声かければ取り巻いてくれる男性はいくらでもいた。エスコートしてくれて、お姫様扱いしてくれて。お願いすれば自分を一番に守ってくれる人が沢山いる。

でも今の梨紗を守ってくれる人はここには居ない。
それどころか、お尻は一番身近な人によって窮地に立たされている。

梨紗は泣く。

お尻が痛い。

痛くて痛くて堪らない。

何度ベッドを蹴ったか、何度呻いて唸ったか。
脚を曲げて降る手を阻止、肘でずり這い、腰を捻り、命からがら逃げるお尻。

何度も戻せと引き寄せられた。

分からない。分からない。
けど声を張らなければ自我が保てない。

痛い、痛い、お尻が痛い。
嫌だ、嫌だ、お尻が痛くてもう。

バチッ、バチッ、バチッ

母の手は変わらず振られる、梨紗の尻はやっぱり打たれる。涙がボロボロ出てくる。心はズンと悲しくなる。

私、こうされないといけない事した?そんなに悪い事した?してた?私、悪くないじゃん。だって。だって…

バチンッ

バチンッ!

バチンッ!!

「あぁ!お母さんっ!ごめんなさい!!!」
梨紗は思わず叫んでいた。

単にこの痛みから逃れたいだけ、もうこれ以上お尻を叩かれたくないだけ、だから謝った。それはそうかもしれない。でも

けれど、梨紗は確かに、謝った。

心はぐちゃぐちゃ。頭は何も考えらんない。

ウザい、憎い、邪魔。
今日一度でも感じた母への感情。

でもなんか変。そんな気持ち、そう思う自分。
間違ってる、私。

大事にしたい物って何だろう、なんだっけ。

……

肘を折り畳み、項垂れ、シーツに顔をうずめて啜り泣く。

そんな梨紗に、母は初めて口を開いた。

「あのまま助けてもらえなかったら、あなたは今頃どうなっていたか分からない。殺されてたかもしれない、襲われていたかもしれない。生きていたとしても、一生心に残る傷を負わされていたのは確実。今こうして心地よい部屋、柔らかい布団の上には絶対に居られなかった」

「…」

「あなたを守ってくれるのはパパ活の相手ではありません。お金は貰えるし、都合よく動いてくれるけど、それはその時だけ。知らない人に会うって事は、同時に何されても文句は言えないし責任も所在も追えないって事」

「…」

「でもね、私が今一番言いたい事は」

「…」

……

「生きていてくれて、ありがとう」

「⁈」

音がした。プチンッと。涙腺の弾けた音が。
途端に梨紗の体は小刻みに震え出す。
呼吸は乱れ、少しだけ咳き込み、肩は大きく浮き沈む。
叫びたい声を殺している事は自分が一番に分かっていた。

梨紗は

泣いていた。

どうしてだろう。さっきの涙とは少し違う。
心底を抉られる様な、そんな寂しい感覚。

後悔?反省?自責?

お母さんに感謝されてしまった。
私、パパ活やって悲しませたのに?

交番で蹲(うずくま)る母がフラッシュバックする。私の前で一度も泣いた事がないあの強い母が見せる初めての姿。悲しい顔。
梨紗はもう何も、何も言えない。

パパ活よりも大事にしたいもの。
パパ活相手よりも大事にしたい人。
だれよりも側で、私を見守ってくれる人。

それって?それって。

梨紗は気づいた。

「…うっ、うぅ。。お母さ…ごめんなさ…ぃ」

梨紗は泣いた。
声を張り上げて泣いた。

いま、お尻よりも痛い所がある。

大切な人を無下に扱った。
心配してくれる人を拒んだ。
一番の味方を邪魔だと思った。

あぁ…。痛い。痛いよ。

梨紗は痛む心のままに。叫んだ。

母の手がお尻から離れていかない。
まだ私は悪い子なのに。

私は馬鹿だ。
今更気付くなんて。

私なんか生きてる価値ない。

私なんか生まれてこなければよかった。

私なんかがお母さんの子供でいいわけない。

私なんか、私なんか、わたしなんか。

死んじゃえ。死んじゃえ。

私なんか、死んじゃえ。

母の手が離れてゆく。
そして

バチィィンッ

「嗚呼んッ!!」

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