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目黒冬弥著(2022)『メガバンク銀行員ぐだぐだ日記』フォレスト出版

長年勤めると世には出せない内容もあることを理解

わたしも昨秋、早期定年退職で長年勤めた組織をやめた。本当に世の中に出せない案件も数多く、中には世間の認識と異なるコンプライアンス案件もある。その点では、この本の中にも記載されているコンプライアンス案件と似ているところもある。組織とはそういうものだと僕らの世代はなかば当たり前のように理解したが、昨今その内容が知れると、組織の存続すら危ぶまれることになるのかもしれない。

本書は、あの世間を騒がしたM銀行のシステム障害に関して、個人的には色々と本を読んでいたが、この本は、その中の人の当時の状況についても若干書かれているところがあり、その点で興味をもって読み進めた次第である。

中の人たちがどのように感じていたのかを聞けるのは、組織がいざリスクにさらされた時にどうふるまうのかといった点で参考になる。その点でも、当時の働く人たちの右往左往さがはっきりと理解できた。

本書はそれだけではなく、著者が入行してから現在の定年前に至るまでの銀行員としての経験と、その組織の理不尽さや環境など、独特であることが読者にも簡潔に理解できるように、項目化して述べられている。登場人物もなかなか面白い。また、各日記の最後に、その内容のキーワード的な要素がまとめられている構成も、読者の理解度を増す試みとして良いと思う。

著者名は匿名なのだろうけど、ここまで内部の事象をあらわにすると、銀行内では「誰が著者か」は把握されているのかもしれない。なかなか勇気のある著作だと思った次第。

同様に、早期定年退職したわたしが、同じような組織内の色々なことを表に出すと、これは現在働いている人たちに、かなりご迷惑をかける要素があるので、現状ではまだ寝かせておくべきなのかとも思う次第。定年やこれから定年をむかえる世代では、その組織内での色んな「ぐだぐだ」がまだまだ眠っていて陽の目を見ていないのかも知れない。勇気ある作品に拍手を贈りたい。


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