ダメな経営者、されど指導者!/再投稿
経営者と親御さんたち
私はこれまで多くの受験生を指導する際に、当然その親御さんたち、特に、色々なお母さん方と話をする機会がありました。十人十色、本当に色々な考え方をされる人たちがいました。
私塾を経営する上では、親御さんがどんな考え方をしていてもそこに口を挟むことはできないと考えるのが常識です。ところが私は少人数制ということもあってただ単に生徒を預かり科目指導を行ってはきませんでした。
偉そうに聞こえるかもしれませんが、私は親御さんが入塾を望んでも生徒本人が望んでいなければ、相手が誰であれお断りしてきました。当然断られた親御さんは気分を害します。
この時に経営者となるか指導者となるかが問われます。
私は極めて不器用な性格なので、嘘が言えません。でも生徒のためならそれもありです。
ある親子のケース
以前教え子からの紹介で高校生の生徒を指導してほしいとわざわざご両親が私の事務所まで来られました。
是非お願いしたいということになり、翌日お母さんと生徒本人が改めて事務所に来ました。お母さんが事前に「前日にご両親が事務所に来ていたことは子供には黙っていてほしい」と言われました。
この時点で少し違和感を感じました。
「なぜ黙っているのですか?」と尋ねると父親と子供さんがうまくいっていないからということでした。
生徒自身はとても素直な子で教える上では何も問題なかったのですが、別の日に模擬授業をした際に「君は本当にここに来たいと思っているの?」と聞くと、
「お母さんが嫌っている家庭教師の先生が本当は一番自分は好きなんです」と正直に話してくれました。
7,8年前の話で、今の私だったらもう少しうまく対応していたかもしれませんが、当時は「そうかお母さんが嫌っていても君がいいならその先生に習うのが一番。私からうまく話しておくから!」と約束。
この段階で経営者としては完全に失格。
でも相手は人間、物ではないのです。
その生徒の気持を尊重すべきと考えました。
さてどうやってあのお母さんと話すべきか、「子供さんがこう言ってますよ」と私が言えばまた親子喧嘩でしょう。ただでさえうまくいっていないお父さんとの関係もさらに悪化してその生徒は苦しむはず。
そこで電話でこう言いました「前日のことを黙っていてくれということ。お母さんには実際は前日お会しているのに初めてお会いする演技に違和感を感じました。ですからこのお話はお断りすべきと考えています」。
この断りで多額の売り上げを失い他の生徒さんを紹介して頂く機会も失うことになります。
かつ相手を怒らせてしまいその後電話しても完全に無視。その後そのお母さんから来たメールには怒りに任せた文言が並んでいました。
少人数の無名の塾経営者がこんなことをしていて儲かる訳がありません。
いい恰好する訳ではありませんが、「お母さん、違うのです。私なりに悩み考えた末に、あなたのお子さんをあなたの家庭をこれ以上悪化させないためには、こうするしかなかったのです!!!」と本当は耳元で叫びたかった。
ダメな馬鹿な経営者ですが、私は指導者でもあるのです。
そんなきれい事を言うなんて自分に酔っているだけという人がいるかもしれませんが、実際その場に立ってみてください。
そろばん勘定だけで出来る仕事ではないのです。
経営者として甘いのは分かっています。わざわざ相手の家庭事情を考えて商売する人なんている訳がないですから。
でも、私にはできませんでした!
自分が多少儲かるよりも、その生徒や親子関係が悪化しないことの方がはるかに大事と本気で思うのです。
そうです、私は底なしの馬鹿経営者です。
あの時に断った根底にはそういう考えがあったことを、その両親が知る由もありません。
本当に疲れる仕事です。本当にこんなことやっていると儲からない仕事。
でもその時に指導者である自分自身がそう感じたのであれば、仕方なし。
馬鹿かと言われても経営者としての「覚悟と潔さ」がなければ、誰かに雇われて生きる方がどんなに楽か、でもこれが私の選んだ道なのです。
そう考えないとやってられません、個別指導塾なんて。
これはほんの一例。まだまだお話するには恥ずかし過ぎる例が山のようにありますが、前半の話はここで終えておきます。
皆さんはどうお考えでしょうか?
私の場合は極端ですが、各分野の各持ち場に就いている人たちが少しでも相手の事情というものを考慮しながら自分の仕事を進めるべきか留めるべきかを考えることができれば、
大げさな言い方ですが、
もう少し人に優しい社会になるのではないでしょうか!?
英語で「他人の立場に立つ」の表現の一つに「相手の靴を履いてみる/in one's shoes」というのがあります。
いつも相手の靴を履くことはできませんが、時にはそれをするには嫌われる勇気や嘘(white lie)も交えていつか「真相」を分かってもらえるであろう、また分からなくてもいいから「その真相」を何らかの形で伝える気骨や誠実さは、人に何かを指導する者には不可欠な要素だと信じてきました。
もう一組の親子
話はいきなり変わりますが、数日前に卒業生の一人から「大学卒業の目途が立ちました!」と連絡がありました。
今まで預かって一番苦労した生徒の中の一人。医進予備校で無駄な数年を過ごし親子共々疲弊しきった状態で相談を受けた生徒です。
前半に話した親子とほぼ同じ時期の話だったと思いますが、迷わず引き受けました。
このままではこの親子はだめになる。
半ば合宿のような1年間の指導。元々うちの卒業生(当時大学生)からの紹介でしたから、その卒業生と二人三脚で指導することになりました。
指導し始めた頃は連絡が取れず行方不明になったかと思い、夜に自転車で探し回ったことも。本人も色々苦しかったのでしょう。川辺で横になっているのを発見した時は 1年で合格できるのかな?と思いましたが…。
その生徒からの今回の卒業内定の連絡だけに感慨ひとしおでした。
彼を指導し始め数カ月後には「実家に数日戻った息子を見たら幽霊から人間に戻ったようです!」と、他県に住んでいるお母さんから連絡を受けました。その後何とか合格してその生徒の実家まで行き、皆でお祝いをした時のことは忘れられないです。
大学に入っても紆余曲折があったようですが、私との1年を基盤に耐えられたそうです。その生徒が受験する時に、私がそのお母さんに本気で伝えた言葉は、
「息子さんが無理に無理を重ねて何年経っても幽霊のような人生を送るのと息子さんが一人で生きていける最低限の術を身につける学部の受験もすることのどちらが彼には大切なのですか?」と詰め寄りました。
そのお母さんは私の言葉を聞き入れてくれました。
「私自身も母親として、どうしていいのか分からずただただ一つのことしか考えることができず、息子の独り立ちという考えを忘れていました」と涙ながらに言われてました。
前半の親子がその後どうなったのかは分かりませんが、この後半の親子は少なくとも今は不幸ではありません。
「息子も大学に入ってからは何があっても諦めることはなく、もう幽霊なんかではない。お母さんも日々の仕事や家事にと日常に戻ることができた」と仰っているからです。
彼は来春ある国家試験を受けます。今度も吉報を。
私のやり方
私塾ですから何の保証も助成金も全くありません(◯◯学校法人が羨ましい限り)。だから儲けがないと話にならないと考える人がいてもおかしくありません。むしろそれがまともな考え方です。
ただ負け惜しみになりますが、儲けている塾や予備校が必ずしも優れた学び舎とは限りません。勿論、人情第一主義なんて考えていませんが、塾にも個々に特徴があっていいと思います。
準備を怠らない生徒の信頼や期待を裏切らない指導者であれば、経営者としては間違った考え方でも私にはそうすることしかできないので。
That's the way I do and live!
私は米国留学から帰国以来そのようにして今日まで生きてきました。
皆さんはどちらの親御さんのようになりたいですか?
今回も最後まで読んで頂き有り難うございました。
以下は関連投稿です。
※全身痛再発7年目で外部の学校には指導に行けませんので、サポートは本当に有り難いです。投稿内容にご納得の上、何らかの形で英語指導の機会を与えて頂ければ幸いです。よろしくお願いします。 HP⇒https://feedback01.webnode.jp/ 福岡県 北九州市 小倉南区