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糞フェミでも恋がしたい (その6)

私の名は能條まどか。糞フェミだ。

糞フェミでも恋がしたかったのだが、恋だかなんだかわからないものにぶち当たってしまった。それは見れば見るほど可愛かった。可愛い、圧倒的に可愛い生き物だった。それはにこにこ微笑んでこちらを見ながら、ちょっと口元を歪ませていた、肌の色も抜けるように白い、お化粧じゃなく、嘘で塗り固めたものじゃなく、本物の、地の色が白いんだということが、柔らかに透けて見える血管の赤みでわかった。

見れば見るほど自分が破裂しそうになる。本当に本当に糞糞糞糞可愛かったので、それほど可愛くない私は逆らうことができない。髪から目の色から足の大きさから身長から太腿からうなじの毛の生え方にいたるまで、どうしようもなく、果てしなく、なまじ自分が雌であることが嫌になるくらい、それは可愛かったのだ。

服もアクセも靴も、この世界の可愛いものを一身にまとったようにキラキラして、なんだかまるで水色の妖精のようなその女の子は、いや、男の子は、勢いよく平手で叩かれたほっぺたを痛そうにさする私を、舐め上げるような視線でじろじろ眺めながら、言った。
「わかっちゃうんですよね、そういうの。」
「……え?」
私はちょっとドギマギして、言葉が出ない。
「いつもイベントで見掛けるけど、なんだかいつも、いっぱい偉そうなことを言って、みんなに酷いことを言って、自分ばっかり上げて、なんだか強そうなふりをしてるけど、あなた、ほんとはぜんぜん強いひとじゃないですよね。」
「………………。」
「だって、ドMですもんね。」
そういうとくすくす小声で嗤いはじめる。
「それに処女。」
「え………いや、それは……。」
口応えをしようとすると、むっとした顔で睨む、それがまた可愛い。
「わかっちゃうって言ったでしょう!」
白くて細い、右手の指で、そっと私の鼻を押す。
「オナニー好きでしょう。」
「………。」
「ほら、わかっちゃう。」
「………。」
「ゆうべもオナニーしまたよね。」
ささやき声が心の中に侵入してくる、抵抗できない。
「………うん。」
「何回?」
「………………3回。」
そのとたん、私のほっぺたが3回鳴った!

ぱん!ぱん!ぱん!

衝撃!気絶するほどの痛み!

残像。小さくて白い手が翻って、再び私のほっぺたを叩くのが、まぶたの裏に見える。なんだかわからなくて、両の目から涙がぽろぽろぽろぽろ出てきた。
「あああああああああああああ。」
声にならない、言葉にならない。泣きながらもごもごとわからないことを呟く私に向かって、男の子は言った。

「雌豚。」

こんどは心に衝撃が来た。こっちの衝撃は、ほっぺたの衝撃より重たかった。
「あああああああああああああ。」
ようやくのことで、それを踏みこらえて、目を開けると、もう姿はなかった。いや、ちょっと待って、冗談じゃないわ。これほどの目に遭わせられて、名前も教えてもらえないなんて、冗談じゃない。これっきり会えないかもしれないなんて、冗談じゃない。どこかにおでこ靴の音が響く、どんどん遠ざかっていってしまう。きょろきょろあたりを見回している間に、遠ざかっていってしまう。いやだ、そんなの絶対にいやだ。遠ざかる足音に向かって、私は涙声で叫んだ。

「冗談じゃないのよおおおおおおお!」

つづき→ https://note.mu/feministicbitch/n/ne540d006ff8d

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