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糞フェミでも恋がしたい (その33)

私の名は能條まどか。糞フェミだ。

糞フェミにも母親はいる、糞めんどくさくて、糞嫌味で、人当たりは温厚で物腰柔らかなくせに、したたかで、芯が強くて、負けずぎらいで、意地っ張りで、でも意地っ張りであることを誰にも見せない狡猾さと、それを支える努力と鍛錬を日々欠かさない、どうしようもないほど世知に長けた、妖怪のような母親だ。

「あら、まどかちゃんめずらしいのね、日曜日なのに家にいるの。」
「うっせーよ試験なんだよ。」
「またそんな、学業なんて徒労よ徒労。懲りない子ねえ。」
「だまれ、殺すぞ。」
「お茶飲むでしょ? 柏屋の音羽山あるわよ、萬寿寺のおばさまが持ってきてくだすったのよ。」
「うん、飲む飲む。音羽山食べたい。」

どういうわけか母親の淹れるお茶は美味しい、京和菓子といっしょにいただくと、至福だ、日本人に生まれてよかったと、しみじみ思う、東京生まれで東京育ちの私には、正直、京都の人間のなんだかわからない京都風味と、その本心を見せない気難しさには、辟易することが多いけど、長く付き合うと、それほど悪い人たちでもないなあと思う。

「萬寿寺ってさあ。」
「なあに?」
「東福寺の向こうにあるじゃん。」
「そうね。」
「あそこ、もう洛中じゃないよねっておばさんに言ったらさ。」
「まあ、この子ったら、なんてことを!おばさんにそれ言ったの?」
「うん、言ったら、もうなんか、頭のてっぺんから溶岩吹き上げるみたいな顔してさ。」
「あらまあ………。」
「そっから口きいてくんないんだよ。」
「もう、この子は…。」
「でも悪いことしちゃったな、いっつもお菓子持ってきてくれるもんね。」
「こんどお会いしたらちゃんと謝っておきなさいよ!」
「うん、言っとく。」

音羽山、どんどん喰ってしまう、やばい、これは太るな。

「まどかちゃん。」
「んー。」
「彼氏できたんじゃないの?」
「………。」
「このごろ集会とかにも行ってないらしいって、鹿子さん言ってたわよ。」
鹿子さんというのはうちに長くいるお手伝いさんだ、私の監視役としても重宝されているらしい。
「まあ、運動とかなんとか、世間様に顔向けできないことに熱をあげるよりはよっぽどいいけど。」
むかし中指おっ立てたバンギャだったヤツに言われたくねーよ、おまえの尻に父親の名前が刺青してあんじゃねーかよ。
「できたんでしょう?彼氏。」
「………。」
「年頃だし、できたらできたでいいんだけど。赤ん坊はこさえないようにしときなさいよ。」
「…うっせーよ雌豚。」
「なにごとにも順序ってものがあるからね、もしよもやってことになって、お父様がお困りになったら。」
「ああー。」
「ああーじゃないのよ、この子は。」
「ううー。」
「お母さんあれこれ言わないからね、わかったわね、ちゃんとしなさいよ、お父様に迷惑かけちゃ駄目よ、ね。」
「………………。」
「まどかちゃん!」
「はあもう…わかったし……糞…。」

雌豚の感はやっぱり鋭かった、まあ、バレるかなあと思っていたがやっぱりバレたなというところで、それは驚くほどのことでもない、しかし、釘を刺されたくはなかった、めんどくさい、ああめんどくさい、そりゃあ、父親には社会的な立場があるから、世間体も大事だ、ひとり娘が、なんだか知らないうちに赤ん坊できちゃった、で済ませるわけにもいかないのはわかる、私としても、雌豚はどうなろうと知ったことではないが、父親の足を引っ張るのは死んでも嫌だ、そんなことになったら、いっそあの綺羅君に赤ん坊ごと縊り殺してもらうか、しかし、綺羅君の赤ん坊まで殺すのは嫌だな、あああああああ、仕方ないな、社会ってのは本当にめんどくさい、ひとつひとつ、手順を踏んで、ちゃんと進めていかないと駄目なんだ、冗談じゃないよ、私は糞フェミだぞ、反社会的なヤツだぞ、もう。

音羽山もうひとつ喰って、大学ノートを、閉じた。

つづき→ https://note.mu/feministicbitch/n/ncb3367d8cd52

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