糞フェミでも恋がしたい (その10)
私の名は能條まどか。糞フェミだ。
糞フェミだって頑張るのだ。それも着実に外堀を埋めていくような頑張り方だ、というか外堀ってなんだろう、ほとぼりが冷めると関係あるんだろうか、というかほとぼりってなんだ、もう、どうでもいいや、だって私は綺羅君の家をおいとまする前に、アドレスを聞き出したのだ、早速突撃だ。
以下、綺羅君とのスマホの会話である、私の涙ぐましい頑張りを見て欲しい。
[綺羅君ですか まどかです ]
[今日は会えてうれしかったです]
[あ はい 綺羅です ]
[おぼえてなくて ごめんなさい]
[気にしないで 綺羅君のせいじゃないって]
[分かってます ]
[よかった おねえ さん]
[いいひと みたいだから]
[それって 少しは綺羅君に 気に入ってもらえたと]
[思っていいのかなあ ]
[うん たぶん]
[ありがとうね それだけでも ]
[君に会いに行って 良かったです]
[そういえば 綺羅君て 女装している間 ]
[自分が どんなことしてるか 知らないでしょう]
[うん しらない おぼえてない]
[おねえさん 綺羅君が 渋谷のイベントで]
[他の人と 仲良く話してるのを 見たよ ]
[そう しんじられないけど]
[あの綺羅君は 綺羅君だけど 綺羅君じゃないんだね ]
[とても明るくて 楽しそうに みんなとわいわい話してた]
[おねえさん 綺羅君に あの綺羅君を見せてあげたいな ]
[綺羅君も あの綺羅君も ひとつになりたがってる気がするよ]
[そうかもしれない じぶんじゃ わからないけど]
[おねえさん そう思うの だから 綺羅君にお願いなんだけど]
[こんど お姉さんといっしょに お出掛けしてくれないかなあ]
[綺羅君が 本当の綺羅君を知るための]
[お手伝いを させてほしいの ]
そこで、いままでしたことないぐらい大袈裟に息を吸い込んで、猛烈な勢いで吐き出して、画面に向き直り、丁寧に丁寧に、文章を送る。
[おねえさん 綺羅君のことが好きなの]
[いいでしょ ]
一瞬、間があって、やがて返事が返ってくる。
[うん ありがとう おねえ さん]
スマホのアプリを切って、ゆったり座りなおし、深呼吸をした、あまりにも真剣に一文字一文字を打ち込んだもんだから、ビックリするほど肩が凝っている、受験勉強の時だって、そんなになったことはないのに。真剣さの度合いがぜんぜん違ったということなんだろうか、ともあれ、これで罠は仕掛けられた。あとは獲物がかかってくるのを待つだけだ。私は、季節ものの甘くてクリームのいっぱい乗ったアイスコーヒーをごくごく飲んで、口の端に泡をたくさん付けながら、ガラス越しの夕日に向かって呟いた。
「さあ、綺羅君よ、本気で発情した雌のパワーを思い知れ。」
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