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糞フェミでも恋がしたい (その13)

私の名は能條まどか。糞フェミだ。

糞フェミがどうした、糞フェミが悪いか、糞フェミだって愛されたいのだ、愛されて、愛されて、愛の中で死にたいのだ、いま、背筋を駆け上る予感の中で、耳に届く、声、まるでふいに夢の隙間からあらわれたように、私の前に立つ、「あの綺羅君」の声には、どことなく死の響きがあった、湿って、柔らかで、しっとりと、肌にまとわりつくような、甘い甘い、死の響き。

「ねえ。」
「…。」
「また会っちゃったね。」
「…はい。」
「せっかく離れてあげたのに…自分からやってくるなんて。」
「あ…あの…。」
「ほんとに雌豚なんだね。」
「……。」
「もう助けられないよ。」

綺羅君は、これ以上やさしい生き物はこの世にいないってくらい、やさしい顔をしていた、よく似合う、薄桃色のウイッグをひるがえしながら、宙に浮かぶようにくるりと廻った、なんて素敵なんだろう、音高くブーツを響かせ、軽やかな足取りで歩み寄る。

心臓をばくばくさせて、呼吸のしかたもわからなくなった私を、舐めるように見上げて、綺羅君が言う。
「ゆうべは何回オナニーしたの?」
意地悪そうな青緑色の瞳で、まっすぐに覗き込んでくる、その視線に抵抗できない、なにもかも見透かされて、蔑まれてしまう、それがどんな結果を予想させたとしても、まっすぐに答えるしかないんだ。
「あの…………ゆうべは5回。」
そう言い終わるのと、白くて柔らかい綺羅君の手が私のほっぺたに届くのと、ほとんど同時だった。

ぱん!ぱん!ぱん!ぱん!

「最低…。」吐き捨てるような言葉が飛んでくる。
そして最後の一発は、力まかせにおもいっきり。

ばしんっ!

星が散った。

うわっと思う間もなく、足元がふらつく、ショックが大きすぎて、意識がちょっとどこかに飛んでしまう、視線がさだまらない、身体が斜めになる、もう立っていられない、膝をついて、うずくまる、ああ、ああ、ああ、綺羅君に、綺羅君にぶっ叩かれた、ものすごい痛み、じんじんする、ほっぺたがじんじんするよ、ああ、私いま生きてるんだ、とっても自由に生きてるんだ、涙がもう、どうしようもないくらいぽろぽろぽろぽろ出てきて、うれしくてしょうがない、すごい吐き気、めまい、そして充実感、綺羅君がささやく。

「脱ぎなよ。」
「…。」
「雌豚が服なんか着てるわけないだろ。」
その視線が、まるで汚らしいものでも見るようだ。
「…あ……あ…あ。」

心臓の鼓動がめっちゃはやくなる、でも、なにを言われても、なにをされても、私は受け入れる、綺羅君を受け入れる、私の覚悟はそういう覚悟、床の上で、ワンピースを脱いで、靴も、下着も、ぜんぶ脱いで、素っ裸になる、晩夏の陽射しと、穏やかな緑の照り返しの中で、人間らしいものはなにひとつ身につけてはいない、濡れる、欲望に狂った肉の塊、私はもう、ほんとうに雌豚だ、いいんだよね、私、壊れていいんだよね、綺羅君、綺羅君、顔を上げると、綺羅君が、ゆっくりとスカートを持ち上げるのが見えた。

狂暴で、容赦ない、雄の綺羅君がそこにいた。

つづき→ https://note.mu/feministicbitch/n/ne05a99c2aaec

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