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糞フェミでも恋がしたい (その7)

私の名は能條まどか。糞フェミだ。

糞フェミでも未練はある。私のほっぺたをひっぱたいた、とんでもなく可愛い、そして超ドSの、つまりは私好みの、女装の男の子が誰なのか、身悶えするほど知りたかったが、知りたくてあちこちのイベントを探しまわったが、残念ながら手がかりはなかった。空想というか、普通の小説なら、なにか都合良く歯車がかみあって、向こうの方から偶然が音を立てて押し寄せて来るんだろうけど、実体験はそういうふうにはいかないのだ。もどかしいのだ。ほっぺたの痛みを思い返しながら、さんざん頑張ったあげく、ようやくちょっとした発見をするまでに、三ヶ月もかかった。

発見というのは、フェミでもLGBTでもなく、ある女性解放系のエッセイストのサイン会で、私はたまたまその人のファンだったもんだから、いそいそと著書を抱えてサイン待ちの列に並んだのだけど、そこを撮影している女性カメラマンさん、40代にさしかかったあたりの経験豊富そうな、またそれも才能あふれる身のこなしで、憧れを誘う素敵な仕事ぶりだったのだけど、そのカメラマンさんのバッグに付いている不釣り合いなほど可愛らしい水色のアクセサリー、それに見覚えがあろうかなかろうか、いやいやいやいや、ぜったいに忘れないよ、それはまさしく、あの女装の男の子が付けていたアクセサリーだったのだ。

「うわ。うわうわうわうわうわうわ。わわわわわわわわわわわ。」

列に並ぶのも忘れて、変な声を上げながら、私は女性カメラマンさんに詰め寄った。だって、この機会を逃したら私は死ぬ。その形相があまりにも凄かったんだと思う、カメラマンさんは、ちょっと驚きながらも、時間をとって私の疑問に答えてくれた。

そのアクセサリーは、息子さんのものだった。息子さんは、中学生で、いわゆる不登校で引きこもりなんだけど、それもやっぱり片親に育てられたというのもあるらしくて、あまり厳しいことも言えないまま、また仕事が忙しいのもあって、放任していること。家にいる分には、それほど苦しんでいる様子もないし、好きに過ごすのは悪いことではないと思っていること。そしてここが大事だった、父親の、それは北欧の人だったらしいのだけど、血をひいて、あまりにも顔立ちが可愛らしいものだから、カメラマンの欲が出て、時々女装をさせて、というか普通は女の子でさえ恥ずかしくてためらうような可愛らしい服を着せて、写真を撮るようにしたら、案外と本人も気に入って、衣装を作ったり、アクセサリーを自作するようになったこと。そしてそして、ここがいちばん大事だったのだが、女装をするようになったら、不思議な新しい人格が生まれて、その人格と衣装を身につけて、イベントや、集会に参加、つまりは、今まで家に引き込もっていたのが、積極的に外に出るようになったこと。そしてそしてそして、男の子の名前は、綺羅だということ。

志津澤綺羅、それが男の子の名前だった。

私はもう天にも昇る気持ち。だってだって、もう二度と会えないのかと思っていた男の子の、名前までわかったのだ。いま天に昇らないでいつ昇るのだろう。文句なく濡れる。大興奮だ。目の前に核兵器の発射ボタンがあったら私は容赦なく押すだろう。もちろん、ミサイルがこっちに向かって飛んで来ないとしての話だけど。

欲望と刹那的衝動の嵐が吹き荒れて、内面的にはあきらかにキチガイなんだけど、それは全力で押し隠して、わたしはそのカメラマンさんに、やんわりと事情を伝え、といっても面倒なことになりそうな部分は省略して、とにかく、息子さんとイベントでちょっとした縁があったこと、人柄が気に入ったので友達になりたいことだけを伝え、連絡先を交換して、その場を後にした。

志津澤綺羅。もう二度と見失なわない。あなたに私をぶっ壊してもらう。

つづき→ https://note.mu/feministicbitch/n/nf84db5ab5d33

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