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『ウィンストン・チャーチル / ヒトラーから世界を救った男』(2017)って、タイトルが長いわ

こんばんわ、唐崎夜雨です。
今夜の夜雨の名画座は『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』です。邦題、長いわ。2017年ジョー・ライト監督作品。

原題は『Darkest Hour』。直訳すると「最も暗い時間」。
夜の明ける前がいちばん暗いらしい。と、言うことは、やがて明るくなりはじめるという意味でもある。
本作は英国が国家存亡の危機を迎えた1940年5月の数週間が描かれています。チャーチル個人の伝記映画というわけではない。

本作品はアカデミー賞で6部門にノミネートされ、チャーチルを演じたゲイリー・オールドマンがアカデミー賞主演男優賞を受賞。そして彼の特殊メイクを担当した辻一弘もオスカーを獲得。

辻は2012年にハリウッドから引退し美術家として活動していた。そこへオールドマンから君が受けないなら前に進まないと懇請され、彼の特殊メイクを手掛けることになる。
その二人がオスカー像を手にするというのは映画以上にドラマティック。

あらすじ

1940年5月9日、ヒトラー率いるドイツがヨーロッパで領土を拡大していた。フランスの降伏も間近だった。
英国ではドイツへの宥和政策をとっていたチェンバレン首相が野党労働党から厳しい追及を受け辞意を固めていた。
後任の首相候補にあがったのは、ウィンストン・チャーチル。しかしチャーチルはドイツには徹底抗戦派で党内支持基盤も弱く、また国王からもあまり好ましく思われてはいなかった。

敵は英国内にあり

邦題には「ヒトラーから世界を救った男」となっています。ヒトラーに対しては強気のチャーチルですが、さしあたりチャーチルの敵は英国の国内にある。
前首相ネヴィル・チェンバレンやハリファックス卿ら保守党幹部はドイツとの和平工作を模索しており、徹底抗戦派のチャーチルとは同じ党内でも方向性がまるで違う。

労働党との挙国一致内閣を実現するためにチャーチルが選ばれた。しかし彼は政敵であるチェンバレンやハリファックスを入閣させている。
チャーチルの党内基盤は脆弱だったようで、政敵をも抱き込まないと自らの政権は危うかった。

チャーチルは何をするか分からない人物で恐れられていた。なんだか落ち着きがなく、節度がない。子どものように感情が出やすい。常に酒を飲んでいる。英国の紳士的な雰囲気はあまり見受けられない。
ちょっと検索すれば見ることができますが、チャーチルの写真を見ると、なんだかやんちゃな悪ガキのようで、それでいて狡猾な老人のようでもある。

また、これまでの失策により指導力にも疑問を持たれていた。国王ですら当初チャーチルを疎んじていた。この国王は映画『英国王のスピーチ』に登場するジョージ6世です。
チャーチル首相と国王ジョージ6世は次第に友として接するようになるのだが、はじめからそうゆうわけではなかったようです。

同じ英国人がみても、得体の知れない爺さんですから、海外のドイツ人からみてもそう感じたのではないでしょうか。
言っちゃわるいが、品行方正な前首相チェンバレンはヒトラーにとって組しやすく、どう相手をしてよいかわからないチャーチルは面倒くさいに決まってます。

二人の女性、タイピストと夫人

戦時内閣を中心とした物語で男性の数が圧倒的に多い中、二人の女性がチャーチルを支える。

ひとりはチャーチルの秘書になるエリザベス。
政敵や軍人ばかりの中でタイピストとしてチャーチルの苦悩を間近で見る役。つまり観客へチャーチルとチャーチルの葛藤を紹介する役どころといったところでしょう。おそらく映画オリジナルのキャラクターではないかと思います…と思っていたが、違った。

エリザベスという女性は実際にチャーチルの個人秘書として実在していました。しかし就任時期は1941年で、映画とは異なります。実在の人物ではあるけれど、その設定は架空のもののようです。

もうひとりの女性は、チャーチル夫人クレメンタインです。
エリザベスが公的なチャーチルを見つめる人なら、夫人は私的なチャーチルの支えとなる人物。へこたれそうなチャーチルを励まします。

 欠点があるから強くなれる。
 迷いがあるから賢くなれる。

チャーチルをとりまく闇

原題「DARKEST HOUR」という題名に従ってか、光と闇を効果的に用いている。国内外の情勢が八方ふさがり、四面楚歌に近いチャーチルの周囲に闇を配してみあたりする。彼がいる部屋以外は漆黒ベタ塗りだったりもする。

宮殿での国王との謁見の場や、議会では光の差し込みを描いている。真っ暗な闇と違い、くらい室内に差し込むひかりは希望のようでもある。

1940年ではまだこれからロンドンの空襲が行われたり、戦争終結までは時間があるのだが、英国はドイツに屈しないという士気をここで明確にしたことが、希望といえるのだろう。まさに意志が未来を創る。

最後にこの映画でチャーチルが挑む難題がダンケルクからの撤退。
本作と同じ2017年のクリストファー・ノーラン監督の映画『ダンケルク』とは歴史の裏表の関係になる。
『ダンケルク』は撤退を現場から描き、本作は政治から描いた。合わせてみると面白い。

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