酒まんじゅうと酒羊羹
黒いうどんを食べる夢をみた。
固くて、太くて、とても飲み込めない。
なんの暗示かと思ったが、健康診断のオプションで胃カメラ検査を控えていたので、ただの予告だった。
10分で終わるとしても、喉麻酔だけだから、あの苦しさに慣れることはない。
かといって、白いバリウムは飲んだら石膏像になってしまいそうで(なるわけないのに)なんだか怖い。
結果は「問題ないが、少々食道と胃に負担がかかっているので、暴飲暴食は控えたまえ」というものだった。
暴飲どころか、飲酒と呼べるものは、もうたいへん長らくしていない。
アルコールには強いが、酔わないのをいいことについ量を飲んでしまい、まともな水分量でお腹を壊すようになったためだ。
そこで思いついたのが「飲めぬなら、食べてしまおう」という、どこかの国の王妃と、どこかの国の武将が憑依したような理論である。
冬は、ラミー、バッカス、トリュフ、ウイスキーボンボンなど、最強の布陣がそろっている。
よく、規定値以上のアルコールを含む菓子の裏面表示に
という注意表記があるが、おしごと中の方はいいのだろうか、とふと疑問に思う。
わたしの場合、自社商品にウイスキーボンボンがあるため、検食はむしろ仕事と解している。
ところで、気温や湿度が高くなるにつれ、チョコレートの扱いは難しくなる。
とくにボンボンタイプは高温に弱い。
あと、蒸し暑いからか、すっきりとした日本酒の風味が恋しくなる。
そういう季節になったら、これの出番。
《純米大吟醸甲州地酒饅頭》、漢字だらけなのにパッケージはレイアウトのおかげでちゃんと読めるし、戒名にしたい。
酒まんじゅうは、一般的にもち米や米麹を使った酒種を小麦粉と混ぜ、生地を発酵し、その生地にあんを包んで蒸したもの。
蒸すことでアルコールは蒸発しているから、おしごと中に食べても問題はない。そもそも、小ぶりのあんまんに見えなくもない。
といいつつ、果実を感じさせるような華やかな香りと、日本酒の風味はしっかり残っている。かぐわしい。
つやつやとした皮と、食パンのようにふわふわの生地、ほろほろのあんこ。
純米大吟醸というキリリとした名前なのに、どこをとってもおだやかだ。
あるいは、最近見つけたこちら。
酒蔵のなまこ壁を模したような、しゃれたパッケージ。
山口県の銘酒《獺祭》の酒粕をつかった羊羹だという。
《純米大吟醸(獺祭酒粕使用)羊羹》、この戒名も捨てがたい。
手のひらにすっぽりおさまるサイズの箱に入っているので、持ち運びも便利だ。羊羹なので、半年くらい日持ちする。
銀色の包みからは、予想外の明るい色がつるんと飛び出した。
鼻を近づけると、鼻腔まで刺激するようなふくよかな香りが力強く漂う。ああかぐわしい。
こちらのアルコール残留量はわからないものの、手亡豆ベースのためか、小豆ベースの酒まんじゅうよりしっかりお酒の味が感じられる。
口の中に、ただひたすら多幸感が広がる。
つるつるなめらかな羊羹ののどごしもあいまって、濃厚な甘酒のようだ。
羊羹なのでしっかりお腹にたまるかと思いきや、口あたりは意外にも軽く、あっという間に食べてしまった。
鼻と喉の奥に、晴れ晴れしい香りが残っている。上品なおとなの味。
日本酒のお菓子を堪能したところで、今度はラム酒にたっぷり浸かったサヴァランが食べたくなってきた。
適量の日本酒を食べたおかげで、胃の働きが活性化してきた気がする。
暴「飲」こそしていないけれど、「爆」食はとまらない。
来年もまた黒いうどんの夢、もとい予告映像をみることになりそうだ。
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