シトラスでパレードを
めまぐるしく変わる天気と気圧にまいってしまい、こじらせたアンパンマンのようなフレーズがすらすらと出てきた。
本家のセリフを「お腹が空いてちからが出ない」だと思いこんでいたのだが、調べたら「顔が濡れて(汚れて)ちからが出ない」だった。
アンパンマンは、元気のないおともだちに、おのれの顔を分けてあげるヒーロー。
供給者サイドがお腹を空かせてどうする。
これだと「君の顔をおくれよ」とか言い出しかねない。もはやホラー。
最近はコンプライアンスの問題か、あまり顔をあげるシーンがないらしい。
ところで、こうスッキリしないときは、キリッと酸っぱい柑橘が恋しくなる。
オレンジ、レモン、グレープフルーツ、ミカン、ブンタン、デコポン、シークヮーサー、シトラス、カンキツ。
ゆるやかな右肩上がりのパーツが多い字面は幸先がよさそうだし、響きも軽やかでさわやか。
某百貨店で「シトラスパレード」なるフェアをやっていたので、わたしもそれに便乗することにした。
赤、オレンジ、黄色。アンパンマンの配色。
《爽やかオレンジのフルーツムース》というシンプルな商品名なのに、ムースやソースの部分からは、バナナやパイナップル、マンゴーの風味もする。
もりもりのオレンジとルビーグレープフルーツでキリっとした酸味を味わったあとは、トロピカルな甘さで南国風味に早変わり。
いちばん下には、ワイン風味のソースまで。
南国リゾートで過ごす一日ってこんな感じなんだろうな、と思わせるパフェだ。
おそらく、めぐりめぐってシンプルな商品名に落ち着いたのだろう。
この複雑な組み立てを商品名ですべて説明しようとしたら、バンコクの正式名称のようになってしまう。
つづいてこちら。
強力なWi-Fiスポットのようなパッケージに、強く引き寄せられた。
《レモンケーキ》はあまたあれど、これは佐賀県唐津産のレモンを100%使用したピューレがつかわれているという。
バターの豊かな風味を舌で感じつつ、レモンの酸味が喉の奥から鼻に抜けていく。
生地がしっとりジュワッとやわらかい。ずっと口に含んでいたい。
アイシングコートで表面がパリッとしているタイプのレモンケーキもたまらない。
しかし、すべての疲労を受け止めてくれるこのやわらかさが、いまのわたしにはありがたい。
きわめつけはこれだ。
飲む点滴と称される甘酒と、和歌山県産ミカンがコラボした、《フルーツ甘酒》。
米麹を発酵させたノンアルコールタイプで、見た目はほぼオレンジジュース。振ると、ほんのり白濁したやさしいオレンジ色になる。
甘酒特有のまったりコクのある甘みに、ミカン果汁の果実感と酸味が合わさって飲みやすい。
米麹か柑橘の粒か、すこし食感が残っているのも、小腹満たしにほどよい。
ガラス瓶も涼しげだし、キンキンに冷やして風呂上がりに腰に手を当てて飲むのもよさそうだ。
ほかにも、桃や柚子の甘酒もあるという。
シトラスパレードのおかげで、お腹はしっかり満たせた。
ただし、やる気は出ない。
柑橘果汁だけでなくて、やる気も絞りだせるスクイーザーはどこかにないだろうか。
ちなみに、「お腹が空いてちからが出ない」のルーツを調べてみたが、カバオくんなのか、いにしえのコーンフレークのCMなのかはっきりしなかった。
こういう、どうでもいいことを調べるやる気はいつでも溢れ出てくるから不思議だ。情熱はある。
とりあえず、旬は冬なのに夏も大活躍の柑橘が、アンパンマンなみのヒーローであることは間違いない。
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