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[焚火/基礎知識]焚火の大原則

01.焚火の掟

ただ薪を集め、その場限りの感覚で焚火を熾すのも一興。とはいえ、もう一歩踏み込んだ知識を持っていたなら、安全かつ快適に、炎の質まで自らの頭でコントロールできるのである。ここでは知っているようで知らない焚火の大原則について、我々のバイブルとも言える『米陸軍サバイバル全書』を参考に読み解いていきたい。

燃料(非ガス化状態)はそのままでは燃えない。
燃料は加熱して初めてガスを生じる。
このガスが空気中の酸素と結合して燃えるのである。

『米陸軍サバイバル全書』:第7章「火を使いこなす」第1節「火の基本原則」より引用

必要条件が揃わなければガソリンにすら火はつかない

「燃料(非ガス化状能)はそのままでは燃えない」
 サバイバル全書より引用したこの原則は焚火に限らず、多くの火について言えることなのである。例えばガソリンの引火点はマイナス40度以下である。しかし、ガソリンを用いる多くの野営道具にはプレヒート機構が備わる。これはガソリンが液体では燃えないことと同時に、低温度帯で生じるガソリンの気化程度では、酸素とうまく結びつかないことを表している。
 ガソリンの引火点は、あくまでマイナス40度から気化する能力があるというだけで、実際は熱してより多くの気体を発生させないと引火しないわけだ。理想値ではガソリン1gに対して空気14.7gとなった時に過不足なく燃焼する(※1)。
 薪もこれと同じだ。木片という固体の状態では、木の主成分である炭素が急激に酸素と結びつくことはない。これを理解するには「ファイヤートライアングル」という図が有効である。

※1 真夏日など、バーナー内のガソリンが十分に気化しているような状態では、プレヒートは必要ない。

ホットな三角関係を理解してはじめて火と仲良くなれる

 ファイヤートライアングルは火の発生に必要な要素を端的に表したモデルで、火災を理解し、消火方法を考える際によく用いられる。この図の通り、火の発生には燃料、酸素、熱の3要素が不可欠であり、それぞれが働き合い、連鎖的に化学反応が繰り返されることによって火は維持される。「熱」により「燃料」から可燃ガスが噴出され、それが急激に「酸素」と結びつき燃焼する。この急激な酸化の際に発生した熱がまた、可燃ガスを発生させていくのである。普段から消火の際に行う「水を掛ける」「密閉する」「ガスの元栓を閉める」などという行為は、この3要素のどれかをこの三角形から引き抜き、連鎖反応を止めているのである。

ファイヤートライアングル
火の発生および維持には必要な要素と関係性を端的に表したのがファイヤートライアングルである。火には燃料、酸素、熱の3要素が不可欠であり、それぞれが働き合い、連鎖的に化学反応が繰り返されることによって維持される。これらがどれか1つでも欠けたら火は現れない、もしくは鎮火する。

焚火がうまくいかないのはまだまだ熱が足りないから

 さて、このファイヤートライアングルを理解するにあたって、つまり焚火の成功率を高めるにあたって、盲点になるのは熱である。「燃料となる薪には乾いたものを」「火床には空気が入るように」。これについては大半の人が経験的に知っていることだが、熱に対して意識している人は少ない。例えば焚火の定番と言えるティーピー(合掌)型。これを完全に乾いた良質な薪で組んでみても、なかなか火が焚き付けから薪へ移らない場合がある。もちろん、この組み方において空気の通り道は確保されているも同然。ここに問題があるとすれば、それは焚き付けの火が弱く、おまけにそれが常に外気にさらされていることから、薪から可燃ガスを引き出すのに必要な熱がまだ足りていないためと言える。ティーピー型の利点は吸気効率の高さであり、外気を遮断して熱を蓄えることは本末転倒。この問題を解決するためには、焚き付けの大きさを3段階ほどに分け、薪に火を移す前段階から炎を徐々に大きく、長く育てることだろう。ティーピー型は最高出力型であって、初速は遅いのである(※2)。

※2 一方、定番のロングファイヤー型は熱をよく蓄える構造で、少ない焚き付けでも薪に火が移りやすい。その分、吸気効率が低く、炎の出力は低めである。

すぐに熱が冷めてしまうのも三角関係がポシャる原因

 また、薪には火が移ったものの、少し目を離すと火が消えてしまう例もあるだろう。薪はキャンプ場で購入した良いもので、火床に空気も入っているとなれば、これもやはり熱に問題がある。多くの場合は焚火を続けているうちに薪が炭化して小さくなり、最初に薪を組んだ時点よりそれぞれの間隔が広がっているのが原因だ。薪は完全な灰になるまで化学反応を繰り返す力があるため、空気の通り道を考えつつ一箇所に集め直してやれば、互いの熱が作用し合って再び消えにくく安定した火を上げるはずだ。

それでもうまくいかないなら新しい風を取り入れるべし

 最後に、熱を十分に考慮しても上手くいかない場合、これは吸気に原因があるかもしれない。重力下で熱を持った気体は上昇する性質があるため、焚火の上から酸素を吸気しようにも炎の上昇気流に押し戻されてしまう。風もなく、焚火側面からの吸気が上手くいかない場合は、別頁で解説するロケットストーンストーブやダコタファイヤーホールなど、炎の上昇気流を逆に利用した下方からの吸気も試みてほしい(詳しくは各解説ページを参照)。焚火はうまくいかないからこそ、面白いのである。

【コラム】焚火実践テクニック

焚火に適した場所を探すには?

・風が当たらない場所であること
・自分のシェルターから便利な位置にあること
・熱が望みの方向に集中すること
・木やその他の燃える材料が入手できる場所であること

『米陸軍サバイバル全書』:第7章「火を使いこなす」第2節「場所の選び方と準備」より抜粋

サバイバル全書には火を熾す前に、自分が行動する地域の特徴(地形と天候)、手に入る材料と道具、どれだけ時間に余裕があるか、なぜ火を必要とするのかを考慮すべきとある。上にあげた火を焚く場所の基本事項とこれらを合わせて考えることで、薪の組み方も変わってくるだろう。光源が欲しいのか、調理がしたいのか、温まりたいのか、火を囲んで楽しみたいのか、我々は主にこのような欲求に合わせて火を熾すべきである。

役に立つヒント

・可能なら薪には匂いのない広葉樹の硬木を使え
・湿った薪は火の近くに置いて乾かせ
・種火となる熾きが一晩中消えないように、火には灰をかぶせておけ
・キャンプ地を出発する前に、火が完全に消えているかどうか確認せよ

『米陸軍サバイバル全書』:第7章「火を使いこなす」囲み記事「役に立つヒント」より抜粋

これは野営の基本事項でもある。野戦時の心得ではなく、我々は安全快適な野営を実現するためにこれをしっかり覚えておくべきだろう。

02.焚火の一生

いくらメタルマッチで火花を散らせても、大きな薪に直接火をつけることはできない。焚火を成功させるコツは“段階的に炎を移していく”という意識にあり、ここからは火口で生まれた炎が如何にして大きな薪へ燃え移るのかを再確認したい。ここまで解説してきた「ファイヤートライアングル」と合わせて火を理解すれば、必ず焚火成功率は上がるのである。

観察に適した焚火型:LEAN TO型

ここでは、初めから薪を組んでおく多くの焚火型とは異なり、ゼロから炎の成長とともに薪を組んでいくLEAN TO(リーントゥ)型を用いた。火を育てている実感が最も強く感じられるので面白い。

準備 
燃えやすさ順に燃料を用意して段階的に炎を移していく

燃えやすさ、すなわち小さな熱量で可燃ガスを引き出しやすい燃料順に火口、焚き付け、細い薪、太い薪の4種類を用意しておく。火口に関しては[火熾し/基礎知識]の「火口・焚き付け早見表」で解説しているので割愛するが、焚き付けはいわゆる小枝、細い薪は指ほどの枝、太い薪は手首ほどの枝が基準だ。当然、“太い薪”から可燃ガスを引き出す際に最も熱が必要なので、細い薪は多めに用意しておくと良い。

STEP.01 
火口に火を着ける

ここではススキの穂先を火口に用いた。上記リンクの通り、綿毛は密集させてしまうと酸欠で火が続かないが、平たく広げて置くとよく燃えてくれる。当然広範囲で炎が上がれば熱量もそれなりに稼げるので、焚き付けにも炎を移しやすいというわけだ。小さな炎を上げる火口より即効性がある。

STEP.02 
焚き付けに炎を移す

ススキに火が着いたらすかさず焚き付けをかぶせたいが、ここでの注意点は火口を酸欠状態にさせないこと。空気の通り道を作るため、ここでは2本の“細い薪”に焚き付けを載せ、炎が移るまで浮かせておいた。油分を多く含む火口なら盛大に焚き付けをかぶせても燃え続けるので“放置プレー”で良い。

STEP.03 
細い薪に炎を移す

焚き付けにしっかりと炎が移ったら、細い薪をその上に置く。焚き付けにもなると燃焼中は十分な熱量を発しているため、途中で火が絶えることもなく薪を熱し続けてくれる。ゆえにここも“放置プレー”で良い。
火口や焚き付けとは違い、細い薪にはなかなか炎が移らないものの、薪内の水分はすぐさま蒸発をはじめ、それが次第に可燃ガスへと変わっていく。

STEP.04 
太い薪を組む①

細い薪に炎が移ったところで、リーントゥ型の真骨頂とも言える太い薪のセッティングに入る。まずは焚火片側の地面にY字の枝を差し、梁となる太い薪をそこに差し掛ける。この際、太い薪の高さは細い薪と付かず離れず、ある程度の隙間ができる高さにしておくと後々楽だ。

STEP.05 
太い薪を組む②

梁となる太い薪を置いたら、焚火を覆うよう交互に太い薪を差しかけて完成。差しかけた太い薪の隙間からは十分に空気が入るので、これで火種が消えることもない。あとは太い薪に炎が移るまで経過を見守る。

STEP.06 
炎の勢いを見て燃料を追加

太い薪の可燃ガスを引き出すためには大量の熱が必要。ゆえに細い薪が可燃ガスを出しきり炎の勢いが弱まってきたら、すかさず燃料=細い薪を追加していく。先ほど梁の高さに余裕を見たのは、この作業を行いやすくするためだ。

STEP.07 
太い薪に炎が移る

200度を超えると薪の組織が分解されはじめ、水素や炭化水素などの可燃ガスが噴出(煙が出る段階)。260度でそれに引火し(たまに炎を上げる段階)、600度以上で可燃ガスが自然着火(炎を上げ続ける段階)。これでついに太い薪へ炎が移った(※)。

※焚き付けや細い薪もこのような経過を経て炎が移っている
この段階になると細い薪は可燃ガスを出しきり、赤熱燃焼(熾火)状態となる。ゆえに太い薪のみが炎を上げている。

STEP.08 
大部分が赤熱燃焼へ

差しかけ部の薪が炭化し、骨格が崩れた状態がこちら。この段階で薪はほぼ熾となっているが、まだ太い薪が燃え残っているので焚火は終わっていない。消火のためにここで水を掛けてしまうと、生物分解が不可能な炭素の結晶=消し炭となって自然に還らない。

STEP.09 
粘り強く燃やしきる

燃え残ってしまった太い薪の末端を熾の上に載せて、再び可燃ガスを引き出し、赤熱燃焼まで持っていく。ここまでくると熾火も所々で鎮火し、完全な灰となって焚火の暖かさが失われていくが、これは焚火の後始末における重要な作業なので粘り強く待つ。

STEP.10 
燃え尽きてほぼ全てが灰となる

全てを燃やし切れば薪はほぼ灰=ミネラルとなり、このまま自然へ還る状態となる。とはいえ、途中熱不足で熾のまま鎮火した炭もあるため、潰せるものは完全に潰して、炭素として自然に還す。潰れないものは持ち帰り、次回の焚火に活用したい。

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