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ミュージカル『ハミルトン』歌詞解説38―The Reynolds Pamphlet 和訳


はじめに

ミュージカル『ハミルトン』は、ロン・チャーナウ著『ハミルトン伝』(邦訳:日経BP社)をもとにした作品である。

物語の舞台は18世紀後半から19世紀初頭のアメリカ。恵まれぬ境遇に生まれたアレグザンダー・ハミルトンは、移民としてアメリカに渡り、激動の時代の中を駆け抜ける。アメリカをアメリカたらしめる精神がミュージカル『ハミルトン』には宿っている。

劇中では、友情、愛情、嫉妬、憎悪など様々な人間ドラマが展開される。ここでは、そうしたドラマをより深く理解できるように、当時の時代背景や人間関係を詳しく解説する。

”The Reynolds Pamphlet”

※歌詞の和訳はわかりやすく意訳。

※歌詞の原文は『Hamilton the Revolution』に準拠。

Hamilton writes The Reynolds Pamphlet.

COMPANY:

The Reynolds Pamphlet.

「レノルズ・パンフレット」

解説:正式名称は「『1796年の合衆国の歴史』5巻と6巻に収めれた特定の文書に関する所感—本人によって書かれた、アレグザンダー・ハミルトン前財務長官に対する不正投機疑惑に対する徹底的な反論」

JEFFERSON, MADISON, ANGELICA:

Have you read this?

「もうこれを読んだかい」

BURR, JEFFERSON, MADISON: 

Alexander Hamilton had a torrid affair. And he wrote it down right there.

「アレグザンダー・ハミルトンは火遊びをした。そして、ここに洗いざらい書いてしまった」

MADISON:

Highlights!

「さあ大事なところだ」

HAMILTON, JEFFERSON:

“The charge against me is a connection with one Jame Reynolds! For purposes of improper speculation. My real crime is an amorous connection with his wife For a considerable time with his knowing consent."

「私に対する非難はジェームズ・レノルズとの繋がりに向けられている。不適切な投機をするための繋がりだと。私の本当の罪は、彼の妻と不倫したことだ。彼の同意を得てずるずると」

解説:「レノルズ・パンフレット」の一節を引用している。

JAMES REYNOLDS:

James Reynolds! 

「ジェームズ・レノルズ」

BURR:

"My real crime is an amorous connection with his wife..."

「私の本当の罪は、彼の妻と不倫したことだ」

COMPANY:

Oooooh!

「おおお」

MADISON, BURR, JEFFERSON:

Damn!

「けしからん」

HAMILTON, JEFFERSON, MADISON:

“I had frequent meetings with her. Most of them at my own house.”

「私は彼女と逢瀬を重ねた。それも自宅で」

解説:「レノルズ・パンフレット」の一節を引用している。

BURR:

At his own house!

「自宅で」

MADISON:

At his own house!

「自宅で」

DEEP VOICE:

Damn!

「けしからん」

HAMILTON, JEFFERSON:

“Mrs. Hamilton with our children being absent on a visit to her father.”

「ハミルトン夫人と子供たちは父親のもとに行っていて留守だった」

解説:「レノルズ・パンフレット」の一節を引用している。イライザは子供たちを連れて父スカイラーのもとに避暑に行っていた。ハミルトンはイライザがふいに帰ってくるのを恐れて手紙でいろいろと工作した。

MADISON, BURR:

No…

「何てことだ」

COMPANY:

Boooo!

「最悪」

MADISON, BURR:

Have you read this?

「もうこれを読んだかい」

JEFFERSON:

Well, he’s never gon’ be president now.

「奴はもう決して大統領になれないぞ」

解説:レノルズ事件が起きなくてもハミルトンは大統領になれなかっただろう。ハミルトンには味方も多かったが、それに比例して敵も多かった。なぜならハミルトンは自分の意見を忌憚なく述べる性格であったからだ。そうした性格は崇拝者を生む一方で強く憎まれることもあった。それに対してジェファソンは自分の意見を隠すことが多く、表立って誰かと対立することを巧妙に避けていた。

MADISON, BURR:

Never gon’ be president now.

「もう決して大統領になれないぞ」

JEFFERSON:

He’s never gon’ be president now.

「奴はもう決して大統領になれないぞ」

MADISON, BURR:

Never gon’ be president now.

「もう決して大統領になれないぞ」

JEFFERSON:

He’s never gon’ be president now.

「奴はもう決して大統領になれないぞ」

MADISON, BURR:

Never gon’ be president now.

「もう決して大統領になれないぞ」

JEFFERSON:

That’s one less thing to worry about.

「心配することはそれほどないぞ」

JEFFERSON, MADISON, BURR:

That’s one less thing to worry about!

「心配することはそれほどないぞ」

ANGELICA:

I came as soon as I heard.

「私はすぐに駆けつけたわ」

JEFFERSON:

What?!

「おやおや」

HAMILTON:

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