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　ーー伝言に複雑な暗号を使うのは、解き方が余りにも知れ渡り過ぎて現実では意味が無くなった、創作御伽噺でしかもう使われていない空想のスパイのやり方だ。祖国の機密組織は真逆で、ワザと分かりやすい方法を訓練でスパイ達に身に付けさせる。
　但し分かりやすいは、”過去の人間”にとって分かりやすいという事だ。使う道具は骨董品。カセットテープ、ビデオテープ、レコード、ラジオ、フロッピーディスク、ポケットベル、マイクロディスク、コンパクトディスク、DVD、ブルーレイ、ガラパゴス携帯電話、スマートフォン……。ーー
　青年になって未だ間が経っていない元少年は今、骨董品の道具を１つ持っていた。電子機器でも録音機器でも無く、もっと古い”過去の人間は誰でも使えた”アナログの通信用道具。其れを翼を持つ小さな動物に括り付けると、指笛を吹いて動物に配達を開始させた。
　伝書鳩が、折り畳まれた手紙を足に掴んで空を飛んでいく。紙の手紙に書いた文章も極々普通の内容で、世界共通語の文章が扱える存在は誰でも読める。
　だが、仕掛けを施していた。当時流行したらしい数百年前に生きていて今は1人残らず此の世から死に絶えている古（いにしえ）の人間達と、伝達相手だけが真の内容を理解出来る手法で書いた手紙の文面は、下記である。
『くる日もくる日も、あなたの事ばかり考えます。
　そちらも、夏真っ盛りでしょうか？
　がいこくにいると、時間の感覚が変になります。
　きを付けないとですね、体調には。
　はやく其方に戻って、あなたに会いたいです。
　とんぼ返りも、良いかも。
　まあ此の国も、楽しいですけどね。
　とても気候が穏やかですし。
　バイトもしているので、
　かねの心配もありません。
　りんごの栽培の手伝いをしています。ああ、そうそう。
　食べ物が、とても美味しいんです。
　うんと沢山、今度送るので楽しみにしていて下さい。』