主語がデカすぎる主張が嫌われる本当の理由

いわゆる主語がデカすぎる主張を見たことがあるだろうか。Xで蛇蝎のごとく嫌悪される類のアレである。

「女は~だ」とか、「男は~だ」のようにジェンダーで括って批判したり、「日本人は~だ」とか「海外は~なのに」のように国籍で分類して批判するあの主張たち。

そういうポストには必ず、
「主語がデカすぎる。こういう人の言うことは端から信用しない」
とリプがつくものだが、これらポストを一考にも値しないと思うのは少し早計だ。

真に信用がない発信というのは、いわゆる陰謀論的な主張である。ワクチンがどうとか、原発がどうとかいうアレだ。

あれらも国が主体で謀略を企てているだとか、企業の策略だとか言うので、それはそれで主語がデカいのだが、陰謀論を一蹴するのに主語のデカさが取り沙汰されることは少ない。

指摘されるのは論理構造の破綻だ。なぜ国がそんなことを企てるのか、何かメリットがあるのか、そういう論理の穴をつつくと、ああいう主張はあっという間に瓦解する。主張している本人たちはそれを認めないだろうが。

それに比べて、たんに主語がデカいだけの主張というのは全く無価値とは言えない。なぜかと言えば、それはある範囲においては価値ある主張をしている場合があるからだ。

まず、あれらの主張を読み解くときは、いわゆる太宰メソッドを疑うとよい。

「世間というのは、君じゃないか」
 という言葉が、舌の先まで出かかって――

太宰治『人間失格』

これは「世間はゆるさない」と主人公が言われたときに、「世間というのは君じゃないか」と言い返そうとしてやめたシーンである。主語の無意識なすり替えを指摘しようとしたのだ。

主語がデカすぎる主張もこれと同じで、主語のすり替えを行っているのである。

主語がデカすぎる主張の正体は、ただの感想だ。私はこう思った、こんな気持ちになった、という感想を少しでもそれっぽくしようとして、大きな主語に感想を託してあたかも何かを主張しているように見せかけるのだ。大きな主語の威を借りて大仰に主張することで、感想というインパクトに欠ける体を脱することができる。

問題なのは、ああいった主張の根拠が筆者の矮小な世界で味わった経験となる点である。

ジェンダーを振りかざす主張は自分と同じ性別ばかりの世界、例えばホモソーシャルだったり、いわゆる女だけの街だったり、そういった世界で培われた感覚から出る幻想であり、国籍を振りかざした場合は、理想の国「海外」で体験した刺激的な思い出の成功体験だ。

自分の周りで日々起こっていることを根拠にしているのだから、それなりにデータ的価値、統計的価値があることは間違いない。だが限定的な立場や状況においてのみ成り立つという点を忘れてはいけないのだ。

次に、主語が大きい主張が必ずしも批判の的になるわけではないことも指摘したい。支持される説もあるのだ。

例えば「親にとって子供はいつまでたっても子供だ」という主張は主語がデカいと非難されることはほとんどないだろう。しかしこれは完全に経験からくる感想であって、この文面だけでは根拠を何一つ提示できていない。

であるというのに、どうだろう、自分の親に聞いてみたらその通りと返してきそうな気がしないだろうか。先ほど挙げた主語のデカい主張に比べたら、全然間違っていない気がする。納得感がある。もちろん私の偏見がだいぶ入っている自覚はあるが、受け入れやすさはかなりあると確信している。

つまるところ、主語が大きい主張が批判されるのは、主語が大きいからではないのだ。そうではなく、人をコケにするような言い方をしているのが問題なのだ。よく考えたらそうではないだろうか。

ジェンダーを一括りにした主張は反対のジェンダーの者を批判しがちだし、国籍で分類する主張は日本を下げがちだ。誰かを感情だけでこき下ろす発言をしているのだから、拒否されるのはあたりまえだ。

しかし人は本心を無意識に隠してしまう。反論をしようとしたとき、主語の大きさを軸にして考えてしまう。本当はただ主張が気に入らないだけなのに、それらしい大義名分を見つけ出して反論してしまうのだ。これもまた、説得力の問題だろう。

「主語は大きいですが、あなたの経験がそう言っていると読み替えれば、それは一理あると思います」くらいの反応が、主語の大きい主張の適度な距離感だと私は思う。

また、「親にとって子供はいつまでたっても子供だ」という主張も、「自分の親だったら、私のことをいつまでも子供だと思っていそうだ」と範囲を限定して読み替えてはいなかっただろうか。自分に都合よく拡大解釈して受け入れることができるのに、なぜ同じことをほかの主語が大きい主張にもしないのだろうか。

理由は単純だ。その主張が嫌いだからである。
主語が大きいという論拠はまやかしなのだ。人はもっと感情的で、ただそれを隠してしまうだけなのだ。

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