数日ぶりにちょっと悪夢っぽい夢を見た。そういう薄らと嫌な夢がずっと続いていたのが途切れて安心していたら、最近、治安が安定してきたので油断していたところに夜闇に紛れ込んで侵入してくる夜盗のように、またしても寝ている人の頭の中に出て来やがった。モグラ叩きのモグラか、心理の帯状疱疹か。
　その嫌な夢で、ふと思い出した。
　『ゴールデンカムイ』というアイヌを題材にした漫画ある。その中のに、この漫画に度々登場する「チタタプ」という包丁で超ミンチに食材を刻むアイヌ料理が登場するのだけれど、それがフチ（お婆さん）が赤ん坊に子守歌を歌って寝かしつけているシーンを見たとき、チタタプな子守歌が浮かんだ。
それが↓これ。

きれいな朝の子守唄

ねんねん良い子だ　ねんねしな

悪い夢なら父さんが鉈で刻んで捨てちまう
怖がらないでねんねしな
きれいな朝までねんねんね

ねんねん良い子だ　ねんねしな

怖い夢なら母さんが包丁で刻んで食っちまう
心配せずにねんねしな
きれいな朝までねんねんね

きれいな心があるならば
川が黒く濁っても
神様　染める赤い血で

きれいな心でいるならば
山が黒く染まっても
神様　隠す白雪で

きれいな心でねんねしな
きれいな朝までねんねんね

　やだ～、スプラッターホラーじゃん。逆に寝られなくなること必至の子守歌がサクサクサクッとできあがった。どうしても眠りたくない夜や隣に寝ている人を眠らせたくない夜は、この子守唄を口ずさんでください。

　私は、よく悪夢を見る。迷う系、取り残され系、奪われ系、履き物がない系、電話ができない系、追っかけられ系、無理難題系、トイレ系……トイレ系はさておき、社会的な立場や価値観的なことに関わるものが多い。リアル心理が反映しすぎていて、大概、目が覚めると疲れている。
そうそう、『ゴールデンカムイ』を読んだ後に夜更けの人気の無い校舎で羆に追いかけられる夢を見たことがあったなぁ。マジで怖かった。必至で逃げていた。
　『ゴールデンカムイ』を読み始めたのは、アイヌに元々興味があったからなんだが、漫画に描かれた食べ物がうまそうで、つい、段々とそっちの方に意識が持って行かれてしまった。それでも羆の怖さは潜在意識に刷り込まれたらしい。
　主人公は一応、大和民族の日露戦争帰りの元兵士なのだけれど、実際はとりあえずヒロインポジションのアイヌ少女だろう。人物バックグランドの描かれかたが後者の方がだんぜん詳細なのだ。だが、人生の酸いも甘いも辛いもしょっぺぇも、とりあえずわかっている年寄り……いや、大人はやっぱり前者の方に感情移入しやすいのは確か。
　この物語は、漫画では脇役だった吉村昭の小説『熊嵐』に登場する銀おやじをモデルとした人物を主人公にしたかったのらしいが、漫画の掲載誌が20歳前後だろう青少年誌だったため、断念したとか。BBAやGGIは、そっちの方を見たかったなぁ。きっと島耕作なんかが掲載される雑誌だったら、おっさん主人公でもイケたかもしれない。ただ、水戸黄門っぽくなりそうな気がする。谷垣と杉元が助さん格さんで、白石がうっかり八兵衛、インカラマッがお銀、尾形が「裏切りの」風車の弥七ポジション。ちなみに尾形を谷垣が仕留め損ねた話は、思わず「ちっ」と舌打ちをしてしまった私です。ほんと、見事にムカつく野郎だったな。ある意味、人物像がうまく描けているってことか。

　吉村昭の『熊嵐』は、超傑作でずっと未来に残したい作品だと個人的には思っている。しばらしい作品だが、これ映画だったらR指定入るよね。残酷描写で。R12か15か。中学生か高校生以上。でも、銀おやじの心情は大人じゃないと理解できないと思う。もし、「銀おやじに感情移入した」「心情が理解できる」という中学生がいたら、早世しそうで怖い。14、5で人生の酸いも甘いも知り、達観の態。もはやその後の人生で何を知るかや。怖いわぁ。

（追記）
　ちょっと片付けをしていたら、ひらひら～と『チタタプの子守唄』もとい『きれいな朝の子守唄』の最初のメモ書きが出て来た。
　結構、長いな。おい。雰囲気も自分的にシニカル度が強いような……。
　せっかくだから、ちょいと訂正してそいつも載っけておく。
　
　《きれいな朝の子守唄》

　　　　　〈　1　〉
　ねんねん　良い子　ねんねしな
　きれいな夢をたんと見て
　ねんねん　良い子　ねんねんね
　怖い夢なぞ　父さんが
　刀で刻んで捨てちまう
　心配しないでねんねしな
　きれいな朝まで　ねんねんね

　赤く汚れた夢ならば
　雨を降らして　神様が
　流してきれいにしてくれる
　黒く澱んだ夢ならば
　雪を降らして　神様が
　埋めてきれいにしてくれる
　きれいな夢にしてくれる

　　　〈　2　〉
　ねんねん良い子　ねんねしな
　きれいな夢をたんと見て
　きれいな朝まで　ねんねんね
　悲しい夢なぞ　母さんが
　鉈で刻んで喰っちまう
　怖がらないでねんねしな
　きれいな朝まで　ねんねんね

　きれいな心があるならば
　川が黒く濁っても
　神様　染める赤い血で
　きれいな心でいるならば
　山が黒く染まっても
　神様　隠す白雪で
　きれいな夢にしてくれる

　ねんねん良い子　ねんねしな
　きれいな夢をたんと見て
　きれいな朝まで　ねんねんね