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お客様インタビュー・東山美奈子さん(ジュエリー デザイナー)

オリジナルブランドを立ち上げジュエリーをデザイン・制作する東山美奈子さんがご来店。
お皿を洗いながら耳を澄ましていると、お客様との楽しい会話が聞こえてきました。

石に触れ、石と語り、人の心を輝かせる

「月あかり」という生嶋なぎ氏のアート作品よりインスパイアされた作品。
華真珠® というダイヤモンドカッティングされたゴールデンパールのリング。

お隣 
ジュエリー作りって、具体的にはどうするんですか?

東山 
皆さんがご存知のカルティエ、ブルガリ、日本ではミキモトなど世界の老舗ジュエラーは分業制です。
ジュエリーデザイナーによってイメージのスケッチや実物大の精密な製図が描かれ、これを基に宝石は研磨士が、石座や枠組みは彫金職人造り、最終的に石留め職人が宝石を据え付けます。

お隣
沢山の人が関わってるんですね。まるで…小さな建築物みたい。

東山 
名建築家の設計図同様、ジュエリーデザイナーのデザイン画も美術館で展示されることがありますよ。細い筆で彩色された美しいスケッチにデザイナーのアイディアが詰まってすごく面白いですから、機会があったらぜひご覧下さい。

ルース(裸石)を前にお客様との打ち合わせのスケッチより

東山
一方で私のような独立した工房は、これらを全部一人でやることになります。お客様との打ち合わせ、デザイン、原型の制作、地金を溶かしたり延ばしたり、最終的に研磨したり。

1人だと大変なようですが、デザインしつつすぐに形を作れる、作業を連動させられるのでより実物に近い形でお客様にご提案が出来ますし、すべての工程を私が行うので制作の狙いが揺るがず、ご要望から逸れることがないのが良さでしょうか。

制作過程。デザイン画をもとにパーツを組み上げてゆく
オーダーメイドによる作品。ハーキマーダイヤモンドと呼ばれる クオーツの原石。
形と輝きを最大限に生かす為のデザイン。

お隣
大量生産が難しい世界ですね。

東山
最近ではCADや3Dプリンターも導入されてきて、パソコンではじめから立体としてデザインし、そのデータから原型を作ったり、ソフトを用いてシュミレーションしたり、制作方法の選択肢は拡がっています。

とはいえジュエリーは身につけるものですから肌感覚が大切で、実際ミリ以下の細かい調整が必要になります。
重すぎず、軽すぎず、例えばリングなら内側の指へのあたる面をどう仕上げるか、それぞれ個性がある宝石が1番美しく輝くのはどの位置か…このあたりは説明できない感性の部分です。
制作は「石を眼の前に置き、手に取りながら」と教えられました。
その石の特性を知り尽くした上で最上の仕上げを施すためには、じっくり向き合わないといけません。今後はそういった職人技と先端技術を組み合わせていくことになるでしょうね。

石のカッティングよりオーダーメイドする場合も。
一級宝石研磨士 清水幸雄氏に依頼したアメジスト。

お隣
石や金属を加工する技術って難しそうですけど、専門的に勉強されたんですか?

東山
はい。ジュエリーデザイナーになるにはいろいろな方法があって、これはあくまで私の場合ですが…小さな頃、時計職人の祖父の机にある1ミリにも満たない軸受けのルビーに「きれい!」と釘付けになったことは不思議と覚えています。
高校のクラブで油絵をはじめ、美術大学に進学。
大学で工芸や版画に触れましたが、就職するなら身につけられる美術品であり恒久性があるジュエリーかなと。

数年ジュエリーメーカーに勤め世界中の作品を見るうちに、イタリアのジュエリーは細工やデザインが斬新でユーモアもあり、ぜひイタリアに行って学びたいと思いました。
両親をはじめ沢山の方々に助けて頂いての渡航でしたが、結果的にはかけがえのない経験になり、技術の勉強以上に人生の学びも多く、行って良かったですね。

お隣
イタリアにツテがあったとか?

東山 
全然無かったのですが、あちらで通っていた語学コースの最後に「イタリアで何をしたい?」と聞かれたので
「ジュエリーの仕事をしたい」
と答えたら、先生が
「それならいつも通りがかる素敵な工房があるから行ってみたら?」
と紹介して下さいました。

マルタさんという女性が一人で営む小さな工房に出掛け、当時はiPadも無いので自分の作品のスナップ写真を綴じたものを見せてプレゼンしたら
「週2、3日なら来て、ここで仕事していいわよ」
と。
上手い言い回しもできないダイレクトなイタリア語が逆に良かったのかもしれません(笑)。
思いがけない縁から修行がはじまりました。

修行といっても主従関係は無く、私は自分の制作をし、たまに工具の使い方を教えて貰うくらい。
あとは彼女の作業を見て学び、たまに出来たジュエリーを近所に届けに行ったり。
数年間勉強させて貰いました。
何の縁もない東洋から来た若者を、授業料をとるわけでもなく面倒を見てくれたんです。
彼女の仕事からは、大きな影響を受けました。

お隣
イタリア人は陽気で大雑把というイメージでしたが…

東山
いえいえ、こだわるところは細部まで凄くこだわります。
その情熱や美意識が美術だけでなく街並み、建築、食…あらゆるところに浸透している魅力の尽きない国です。
コロナウィルス感染症の被害が大きかったのですが、回復してホッとしました。
私自身も今後は新しい生活様式にあった、より個人に寄り添った制作にシフトしていくのかなと思っています。身につける方の喜びや癒やしになるジュエリーを目指しています。

生嶋なぎ氏のアート作品「風のかをり」をイメージした作品。
色や空気感をジュエリーの素材と技法を使って再現した。

おわり(収録2020春)

東山美奈子さん プロフィール

武蔵野美術大学造形学部卒業。イタリア・ボローニャの彫金工房にてMARTA MASINA氏に師事。2008年etraブランド立ち上げ。株式会社etra設立。2013年etra Okusawa atelierオープン。

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