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エッセイ:マルチ商法にハマった先輩と僕たちが失った『夢』について

 こんなニュースが流れてきて驚きました……。最近投資の広告増えてますよね。注意喚起も兼ねて書いてみようかと思います。


・『自業自得』だからこそマルチは儲かる

 まず最初に、マルチ商法に騙されると「自業自得だろ!」的な方向に行ってしまう。僕はこれが不思議で仕方ない。
 これってマルチ側からしてみたら非常に都合の良い状況だと思うんですよ。だって、「被害者側に落ち度がある」という風潮が身を守ってくれるワケですから。僕が騙す側なら笑ってしまうことでしょう。

 今回、被害に遭ったのが女子大生だったから騒ぎになっているけど、40代くらいのオッサンが首吊ってもここまでの騒ぎにはならなかったのかもしれませんね。中年男が泣きながら騙されてしまったことを嘆いていても、自己責任だと冷たく突き放すような人が大半だと思うのです。
 加害者側は自殺に追いやっておいて70万円で許されてしまうんだから……。この『マルチ自業自得論」のおかげで詐欺が繁栄しているんじゃないかと思っている。僕が勝手に思っているだけでなく、加害者側もそこは計算してやっているはずなのだから……。

 ちなみに、法律の抜け道を勉強している詐欺師は多いらしく、仮に捕まえても無罪放免になってしまうケースも多いのだとか……。

・マルチにハマった先輩

 さて、僕自身マルチには苦い思い出がありまして、今回その出来事について語ってみようかと思いました。これから先、マルチをやろうとしている人がいたら何かの参考になれば嬉しいです。

 今から10年前、僕は仲の良かった先輩と高校卒業後も絡んでいました。何処に行くのも二人で一緒だった。僕達には自作ゲームを世に発信していく『夢』があったんですね。

 もちろん、素人だし、お金もないし、働くとなると創作活動に使う時間がなくなってしまう。この社会は『アート』というものに対しては不寛容。note利用者なら何となく分かると思う。

 今なら「クラウドファンディング」なんて方法もあるし。企画が通れば創作にエネルギーを注ぎ込めたのかもしれないけど、当時はそこまで一般的では無かったから。

 ……そんなある日、先輩から近所のモスバーガーに呼び出された。それはもう異様なハイテンションで海外旅行の写真が散りばめられたパンフレットを開くとマシンガントークが炸裂。

「すごい仕事が舞い込んだんだよ!」
「遊びが仕事になるんだよ!」
「やっと作品を作れるかもしれない!」

・マルチの手口とは?!

 無邪気に語る先輩に僕は戸惑うしか無かった。名前はリゾ◯ットというマルチだった。会員登録することで海外旅行券を安く手に入れることが出来るというシステム。一人の会員が勧誘出来るのは二人までであり、ネズミ算式に仲間を増やして「親側」がお金を受け取ることが出来るというもの。興奮した先輩は矢継ぎ早にどれほど優れているのか語り始める。「これからは日本も年金制度が破綻するから、お金についての勉強をするべきなんだよ!」と説明が続く。

 そして、マルチ商法の聖書とも呼ぶべきロバート・キヨサキ著「金持ち父さん、貧乏父さん」の本を取り出してきました。まあ、簡単に言えば一般労働者から経営者側に回るメリットを説いた本でしょうか。一般的に労働力をお金に変えているだけの階層(つまりは従業員)を「Eクワドラント」と呼び。
 投資活動によって自由な時間を得ながら働く人達を「Iクワドラント」と呼ぶ。(「Bクワドラント」「Sクワドラント」もありますが、職人さん的な立ち位置なのでここでは割愛します)。

 図を見れば分かる通り、選べるのであれば誰だって「Iクワ」になりたいでしょう。それに支配者層(上級国民)というのがいるのも事実。某交通事故でそれが明るみになったり。2022年の現在では着実に年金制度も破綻してるしで、要所要所では的を得ているのです。マルチ商法の人たちは嘘に「真実」を織り交ぜながら喋るのが上手く。騙される人の心理もわかる気がする。論理的に説得しようとしても洗脳を解くのは難しいでしょう。

 更に言えば、クリエイターを目指している先輩にとって、マルチの人達はさぞ魅力的に見えていたことでしょう。「合理主義かつクレイジーなカッコいいオッサン」くらいの感覚だったはず。モラルとか抜きに普通のサラリーマンのオッサンと破天荒な生き方をしてる犯罪者なら、後者の方がキャラクター的にも面白い。

 この時、モスバーガーレジの店員さんが不安そうな表情でこちらを伺っていたので自分が騙されかけてることに気がつきました。「急な話なのでビックリしちゃったのでよく考えておきます」とだけ伝えて逃げ帰ることにした。先輩は上機嫌で「俺も最初はビビッてたんだよ!」なんてことを話していた。

 ネット検索かけると、「リゾ◯ット被害者の会」とかが出て来る。調べる程に典型的なネズミ講だと分かった。その後もしつこく勧誘して来るのですが、その度に僕はきちんと理由を伝えて断ることにした。そもそもそんなに儲かっているのなら別件で渡していた3万円の借金くらい軽く返せるはずなのです。そのことを指摘すると。

「だから色付けて返してやるって言ってるだろ!」
「お前は一生Eクワで終わるつもりなのかよ!」
「これからは年金制度も破綻するんだぞ!」

 毎朝通勤電車に揺られながら「Eクワ」として退屈な仕事をするよりも『世界の仕組み』を学んで海外旅行しながら稼いだ方が創作のネタになるし。南の島の珊瑚礁、高層ビルから見下ろす夜景、ブレイクダンス、豪華なディナー……と普通に働いていたら得られない経験が創作能力を高めてくれるに違いない!!

 そんなことを楽しそうに話していたことを思い出すと、ツラくて仕方なくなるんですね。だってそれが本当だったら『夢』が叶ったかもしれないのだから……。

・『夢』を叶えられないどころか全てを失って……。


 もし、先輩が途中で騙されていることに気がついたら、それもそれで一つの「ネタ」にはなったはずなんですよ。犯罪者の心理とか手口が分かった訳だから。サスペンスを描くキッカケにはなったでしょう。でも、結果的には何もかも失うことになった……。多額の借金を背負わされ、先輩は失踪しました。

 僕と先輩の物語はそこで終わっちゃったんですよ。6年経った今は電話も繋がらないし、もしかしたら自殺してしまったかもしれない……。

 今の僕は先輩が嫌悪していた「Eクワ」として底辺労働している。つまらない仕事。ブルーカラーの汚れ仕事。クリエイターとは最もほど遠い存在。時々6畳ワンルームの隅に置かれたゲームの参考書を目にする度に憂鬱になる。

 今でも『夢』のことを想う。僕は1円も失っていないのに『夢』だけを取られてしまった……そんな気分。自殺した子も精神的に殺されてしまったのでしょうか?

 先輩のことを他者に話すと結構馬鹿にされる。「騙される側が悪いのだ」と言われてしまう。

 でも、果たして若者が『夢』を追うことが罪なことなのでしょうか? 僕はそうは思わないし、どんなに綺麗事でも『夢』を追うことは素晴らしいことだと信じているから。

 僕自身、『夢』を語る先輩のことが好きだったから、簡単には見捨てられなかったんですよね……。

 ニンテンドーSwitchにはインディーゲーが多いけど、先輩と僕の作った作品が店頭に並んでいることを夢想してしまう。売上とか全然ダメだったとしても、「何かを作り上げた」という感動くらいは得られたのに……。「今回はダメだったけど、今度はお前の発案でもう一作作ってみようぜ!」と楽しそうに語る先輩を思い浮かべてしまう。一緒にゲーム作りたかったなぁ……。

・最後に伝えたいこと

 ……とまあ、自分語りを終えた僕ですが。マルチに引っ掛かってしまった被害者を叩かないで欲しいなといつも思っています。

 悪いのはあくまでも騙した側なのだし。あなたが引っ掛からなくても、親や兄弟姉妹、恋人が被害に遭うケースは充分あり得ると思うのです。その時に「騙された側の落ち度」を責めるという行いが結果的に自分の首を絞めることになるのだから。
 まあ、あなた自身が犯罪行為をする予定があるのでしたら別ですが。

 あと、今気が付いたけど、創作活動に困っていたなら精神病を捏造して支援金で暮らしていくのもアリだと思った。気付くのが10年遅いよ、当時の僕……。

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