見出し画像

【短編小説】 夜の世界

 すっかり年の瀬です。
 皆さまごきげんよう。
 さて、今回は、ある文芸コンテストをパトロールしていたときに、コツン、と心に響いた短編小説をご紹介いたします。
 ノスタルジックな世界、幼い日に跨いだ新世界。
 なお、紹介させていただくにあたって、作者の許可を得ています。
 全編、1,059文字です。

 作 下東良雄氏



 ――ある年の大晦日おおみそか

 ゴーン

 近所のお寺から除夜の鐘の音が聞こえてくる。ちょうど新しい年を迎えたようだ。
 ここは都心近郊の新興住宅地。いわゆるニュータウンだ。
 たくさんの戸建て住宅が立ち並ぶ中、一軒の家から賑やかな子どもの声が聞こえる。

「おかあさん! あしたになったよ!」
「ゆうじ、今日が昨日になっちゃったね!」
「ホントだ! すごいね!」

 元気な男の子の名前は『ゆうじくん』四歳。
 好奇心旺盛で何にでも興味を示すお年頃。今夜は年越しということもあり、眠たい目をこすって頑張って起きていたのだ。
 ゆうじくんにとっては、新しい年を迎えたことよりも「明日」を迎えられたこと、そして今まで「今日」だったのが「昨日」になったことの方が驚きだったようで、ちょっと興奮気味だ。

 さて、年明けした午前〇時、お母さんはゆうじくんを新しい世界へ誘いざないます。

「ゆうじ、ちょっと冒険してみない?」
「えー、なになに⁉」

 お母さんは内緒話をするようにこっそり耳元でささやきました。

 「お母さんと真夜中の買い物に行こうか……」

 夜、外に出ることはない。
 ゆうじくんは知っている。
 夜は暗くて怖いんだと。

 でも、胸の中の好奇心がゆうじくんに問いかけます。
『自分が寝ている時、外の世界はどうなっているんだろう』

 微笑むお母さんに、ゆうじくんは答えました。

「うん! いきたい!」

 そんなゆうじくんに笑顔を返すお母さん。
 早速、寒くないように上着を着て、お母さんと手をつなぎます。
 そして、緊張の一瞬。
 お母さんが玄関の扉を開きました。

 ガチャリ

(続く……)


 続きはこちらからお楽しみください。


この記事が参加している募集

眠れない夜に

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?