金は甘い水のなか
山に来て3日目だ。
事前に聞いていた話が正しければ、今日が最終日のはず。
作業が終わるや否や、ドンファンが「バモス、バモス」と言っている。
どうやら、例の金を見に行こうと言うのだ。
ドンファンを含め4人で、自分達が作っている道の先にある茂みを奥へと進んでいく。
辺りの景色は、完全に森の中といった感じ。足元を確認しながらでないと歩けないほどだ。
腐食して倒れた大木、生い茂る巨大な葉や蔓、変な形や色の花やキノコ、足元はクッションのように枯れ葉や木の皮が重なっている。
みんなと逸れたら、絶対に戻れない自信があるような茂みを、ひたすら進んでいく。
どれくらい歩いたのか時間の感覚もないが、永遠にも思えた景色が少し変わった。
日陰が増えて、足元はかなりぬかるんでいる。
辺り一面に湿った空気を感じた。
すると、ドンファンの友人が「甘い水がある」と言った。
甘い水?
足が抜けなくなるほどの泥濘をゆっくり進んでいくと、たしかに水が流れる音が聞こえる。
そしてまたドンファンの友人が「ここだ、ここだ」と言って足を止めた。
近くの枝にはタバコの空き箱が刺さっている。この場所だという目印か。
小川と呼ぶにはちょっと小さ過ぎるかもしれない。ちょうど人1人分くらいの幅で、深さは膝下15cmくらいだろうか。
とても小さな川がチョロチョロと小刻みに音を立てていた。
近くで湧いていそうな感じもするな。
辺りは泥濘んで泥だらけだが、水はとても澄んでいる。
よく観ると泥は青みがかった濃い灰色のような色で、ボリビアでよく見かける赤い土とはまったく別物だ。
ドンファンは川の底から泥や砂利をさらい、傘をひっくり返したような鉄の容器をくるくる回し、金を探し始めた。
ああ、ドキュメンタリー番組で見た光景が目の前に。
しばらく眺めていると、「川の水を掬って飲んでみて」とヘルメットを渡された。
「いやいや、これドンファン被ってたやつじゃん」というような突っ込みは通用しない。
仕方なくかなりしっかりと濯いでから、そのヘルメットで掬わせて貰った。
「あまっ」「えっ?、うそ!」
その水は本当に甘かった。
日本の山で飲んだことのある、硬水や軟水とはまったく違う。
甘い?マグネシウム?ナトリウム?いやカリウムか?まったく分からないが甘かった。
いや、水の柔らかさととても豊富そうなミネラル成分で、甘く感じたと言った方が正しいだろうか。
そうしてる間にもドンファンは、何度も何度も器を回している。徐々に泥や砂利が取り除かれて、細かい砂だけ残っていく。
すると仲間のひとりが「ちょっとだけあるね」と言った。ドンファンもうなづいている。
砂の中にある、細かな粉ほどの金を見せて貰った。たしかに光っている粒はいくつか見えたが、正直よく分からなかった。
それよりも頭の中は、甘い水のことでいっぱいだった。きっといい感じの微生物たちが、たくさんいるせいなんだろうな。
たしかに川周辺の土や泥は、いかにも天然資源ぽい色をしている。
少し掬っただけでも、青みの灰色に、真っ黒、明るい黄土色、とまるで金属のような色。
素人目に見ても、鉱物が豊富にありそうなのは分かる。
金脈は、甘い水の中ってわけか。
まるで何かのセリフのように聞こえるな。
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