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ドンファンと、その友人達と共に山に行くことになった。
もともと山は好きだし、今は野生のカカオがシーズンオフで特にすることもない。
誘いを断る理由が特になかったことが始まりだ。


バウレスを出発してから2時間ほど走っただろうか。
茂み、いや、、これは、緑のトンネルだ。

まるでトトロの森に行く途中のような景色。
車一台分くらいの道幅に、草木がちょうど顔の高さほどまで、次から次へと覆いかぶさってくる。

かなり視界不良だ。
スピードは20キロほどだが、曲がりくねって高低差があり、さらに狭いのでやたら速く走っているように感じる。

ガサガサと枝やら茎やらが車に当たっている。
車内では、「アフリカみたい」「サファリだ」などという声が聞こえる。
運転するドンファンは大変だろうが、乗っている方はアトラクション気分で楽しんでいる。


そうして1時間半ほど走ったころ、中途半端に道路脇に車が止まった。
え?ここ?というくらいに目的地感のない場所だった。
道路脇には走ってきた道とは別の道があるのが見える。


そう、この道が例の金脈へと繋がる道だった。


そして誰かがバモスと言った。
まさか、今から?、、一緒に?、、

嫌な予感はだいたい当たる。
「山に行こう」は、正確には「山に行って仲間と一緒に仕事をしよう」ということだった。


それにしても、物凄い緑。日本の山とは随分と様子が違う。森が深いというか、木々の密度が濃いというか、多種多様、まさに〝生い茂る〟という表現が相応しい。

※ちなみにボリビアの熱帯地域は平地であるが、バウレスの時点で既には標高600mほどである。


これまで見たことのない形や色の、図鑑に載っていそうな植物や昆虫だらけだ。
それに蝶がやたらに多いので、非常に豊かな環境なのだろう。

日本なら田舎であっても、今時なかなか蝶の姿は見ない。


そしてまだ重機が入る前なのだそうだが、それがツルハシにスコップ、鉈などを使いひたすら草木や切り株を、取り除いて行く作業だとは思いもしなかった。

それはさながら、昔南米へと渡った日本人移住者たちの開墾作業のようだった。

しかし、だいたい決まった自分の思考パターンがある。
「マジかよ!なんだこの状況」という自分を「そうなさそうな機会だから経験しておこう」という自分が少しだけ上回るのだ。


ドンファンを含め10人ほどで、リーダーらしき人物はいないが作業分担はされているようだ。

作業自体は簡単だが、何しろここは熱帯の森の中。
足元は不安定だし、無数の小さな虫たちがハエのように集ってくる。
蚊のように刺すわけではないが、耳や鼻の中にまで入ってきたりして、なにか作業するにはかなり悪環境だ。

ドンファンの友人達は、この日本人にとても親切だった。
この葉は被れるとか、このアリは噛まれるとヤバいなど、現地の山を知っている人ならではの情報を色々教えてくれた。

アントニオさんがサンタクルスで購入してくれたマチェテ(鉈)を持参していたが、どうやら良い物だったらしく「サムライはやはりいいカタナを持ってる」「オサキがカタナで全て切ってくれる」と揶揄われたりもした。


少し離れたところでは、パチパチと枯れ草に火をつけている。

なるほど。
まずは大きな植物や太い木だけ切って進み、道にする場所にザックリとアタリをつける。
次に燃やして茂ってる草木を取り除くのを簡単にしてから、枯れ葉や灰を掃除しながら取り除けなかった切り株を処理していくわけか。


ん?ちょっと待て、これは環境破壊ではないか。
何てこった。

作業しているドンファンの友人達に、このプロジェクトのスポンサーはどこの企業か訪ねてみたが、みな一様に知らないと言った。

環境活動家でも専門家でもないし、政治に関心はないので何か論じることはしないが、自然は好きなのでただただ気分が悪い。

しかし同時に、エネルギー消費国の裏で実際に起きている現実を、実体験したわけでもある。


日本にいた時は〝環境破壊=悪〟のようなイメージで、森林破壊なんてブラジルの話かと思っていた。
しかしドンファン達は悪者ではないし、自分もただの好奇心から気づいたら加担していた。

きっとこういう事がリアルな問題なのだろう。
彼らは、自分達のボスが誰で何のために金脈が必要なのかなどに関心があるようには見えなかった。
ただ目の前のことに一生懸命なだけの様子だ。

僕らは、バウレスから程近い山奥のそう長くもない道ひとつだが、きっとこんな事例はたくさんありそうだ。


しかし森の中にいると、目の前の死と同時に大きな生のエネルギーを感じもした。

それは、日本の山で感じるよりももっとワイルドでパワフルな感じだった。
大陸らしいというか地球っぽいというか。

その瞬間、なんだか自分達がとても不自然で邪魔な存在に思えた。

#やってみた

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