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サクラ メヘヘヘヘ


花見の雑踏を避けて
桜並木のポケットに入った
川沿いの穴場だ

細長い空を蔽う花花花
小鳥の弾く枝
その揺らぎに
はらりはらり
舞う花びらの陰影
せせらぎのきらめき
重力が半ば脱けてゆき
ふんわかふんわか
淡い色空間に漂っていた

突然
汚れた軽トラが乗り込んできた
急いでよけると
軽トラはすぐ近くに停まった
姿を現したのは
手拭いで髪を被った年配の女性
「じゃまして悪いねぇ」
大きな声
日焼けした笑顔
思わずにっこり
手を挙げて応じた

春の草むらに屈んで
なにかを採りはじめた
何してるんだろう?

ふんわか漂っていたぼくの体は
すでに地上に落ちていた
散漫なシャッターを幾度か切りながら
泥の跳ねがこびり付いた
軽トラに近寄った

「ミツバとイタドリを採ってるんよ」
女性は手拭いの中の小さな顔を向けた
これがミツバ
たしかに三枚の葉がある
あれがイタドリ
あかっぽい
「うちのヤギさんの好物なんよ
家族も食べるけどね」
ヤギさん?
「たくさんいるよ」
畑の草を食べてくれるという
桜の花にはまるで関心がなさそうだ

しゃがんで一心に草を採る女性
その姿がしだいにヤギに重なってきた
以前ウォーキングしていたとき
太陽光パネルの設置された広大な土地に
ヤギがたくさん放たれて草を食べていた
いま
満開の桜の木の下で
ヤギがうれしそうに草を食べている
メヘヘヘへー

ベストの破れ隠しに
ヒツジのショーンの
ワッペンを貼っていた
それに目をやりながら
「ヒツジも人懐っこくてかわいいよ
ほっぺたをべろべろしてくるんよ」
ヒツジは草の根まで食べるという
ヒツジも飼ってるんですか?
「それがね、かわいすぎて
トリコになりそうなんで飼えんのよ」

「ここの草には除草剤が撒かれてないんで安心なんよ」
除草剤が付いた草を食べていると
ヤギは黒いものを吐いて死んでしまうそうだ

「うちは無農薬で野菜作っとるけど
日本人は農薬漬けになっとるで
そのうち滅びるよ」
政府の規制が甘いという
「このあたりでも
男の子はだんだん減っとるんよ」
女性は軽トラに乗り込み
こちらに手を振った
ブルルルル
すばやくエンジンをかけ
狭い道を右に左にブレまくりながら
バック バック バック

軽トラを見送った
桜を愛でようという気持ちは
どこやらへ
すっかり飛んで行ってしまった
もうもう
メヘヘヘヘー
桜は今が盛り
メヘヘヘヘー
メヘヘヘヘー








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この2日間の風雨で、
山肌の桜も、平地のソメイヨシノも、
すっかり花を散らしてしまいました。
季節が移ります。
私は相変わらずの花粉症に付き合わされています。
みなさんはお元気ですか。

今回のテーマは、満開の桜です。
今年はいい花見ができました。

来週も水曜日か木曜日に更新する予定です。
また見に来てください。
私もみなさんのページを訪ねます。


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