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映画の外側 『十二人の怒れる男』(1957)


あらすじ


17歳の少年が起こした殺人事件の裁判が始まる。11人の陪審員が有罪に投票し、その罪は決定的かと思われたが、1人の陪審員が無罪を主張。法廷という限られた空間の中で、事態は思わぬ方向に転じていく。

概要


・1957年製作のアメリカ映画。これらを原作にして制作された舞台作品。原作はレジナルド・ローズ。
実際に殺人事件の陪審員を務めたことである。その約1ヶ月後には、本作の構想・執筆に取りかかったそうです。

・この映画は密室劇の金字塔として高く評価されています。ほとんどの出来事がたった一つの部屋を中心に繰り広げられています。

監督


シドニー・ルメット

テレビ局を辞めたあと、1957年公開の劇映画『十二人の怒れる男』で監督を務める。劇映画としては初監督作品であったが、それまでにテレビドラマの演出で培ってきた能力を十分に発揮し、密室劇を舞台に陪審員制度を通して人の良心を問い質した本作でベルリン国際映画祭の金熊賞を受賞し、アカデミー監督賞にもノミネートされ、一躍人気監督の仲間入りを果たします。
テレビ演出家から転じた映画監督としては草分け的存在であり、同時に非ハリウッド系の映画勢力であるニューヨーク派の旗手としての活躍が始まります。

ヘンリーフォンダ


『十二人の怒れる男』の映画化に自身もプロデューサーを兼ねて出演、ベルリン映画祭では最優秀作品賞を獲得するなどこれまた映画でも高い評価を得ました。

登場人物

1番陪審員(マーティン・バルサム)
中学校の体育教師。
陪審員長を務め、議論を進行する。

2番陪審員(ジョン・フィードラー)
銀行員。
気弱な慎重派だが
ナイフの刺し傷に疑問を持つなど
徐々に自分の意見を出してくる。

3番陪審員(リー・J・コッブ)
宅配便会社経営者。
最後まで有罪を主張し続けた人物。

4番陪審員(E・G・マーシャル)
株式仲介人。
冷静沈着な性格で
論理的に有罪意見を主張する。

5番陪審員(ジャック・クラグマン)
工場労働者。
スラム街育ちで
少年の境遇を理解できる人物。

6番陪審員(エドワード・ビンズ)
塗装工の労働者。
真面目で義理、人情に篤く、
老人を馬鹿にする奴は許せない性格。

7番陪審員(ジャック・ウォーデン)
食品会社のセールスマン。
裁判には興味がない。

8番陪審員(ヘンリー・フォンダ)
建築士。本名はデイビス。
この映画の主人公。
検察の立証に疑念を抱き
最初に無罪を主張した人物。


9番陪審員(ジョセフ・スウィーニー)
80前後の老人。本名はマッカードル。
鋭い観察眼を持つ


10番陪審員(エド・ベグリー)
自動車修理工場経営者。
貧困層への偏見で有罪を主張する

11番陪審員(ジョージ・ヴェスコヴェック)
ユダヤ移民の時計職人。
誠実で陪審員としての責任感が強く、


12番陪審員(ロバート・ウェッバー)
広告代理店宣伝マン。
社交的で口調が軽い。
おしゃべり好きなお調子者。



・制作費は約35万ドル(当時の日本円で約1億2600万円)という超低予算、撮影日数はわずか2週間ほどの短期間で製作されました。

時代背景


・舞台となったニューヨーク市では 1950年代はす級殺人に死刑が適用されていたが、現在は 死刑が禁じられて、最高刑は終身刑となつています。
映画では、評決が全員一致であること、有罪は死刑であり陪審員の評決がそのまま刑の執行 になることが前提となっており、陪審員たちの緊張をいや増しています。

・制作された当時はちょうど赤狩りが吹き荒れていた中で陪審員3を演じるリー・J・コッブもその渦に巻き込まれた役者でした。
ハリウッドの映画作品もソ連に対してアメリカの優位性を劇的に表すようなものが好まれました。

12人の怒れる男における映像表現的特徴


・クローズアップは、その登場人物が心理的に孤立している心情を描く作用がある。更に、強烈な感情も描く作用がある。
最後まで犯人の有罪に固執した陪審員3を写す際にはクローズアップが多い。
特に他の全員が無罪に傾くに至って迄も有罪に固執する理由の説明を強要される場面はクローズアップになっている。

・最後のシーンで、それ迄は番号でしか呼び合っていなかった陪審員同士が、名前を明かし合って裁判所の階段を下りてそれぞれ帰って行くシーンは、名前さえ知らない者同士が中立的に真摯な議論をしてから何も無かったかのように当たり前に再び日常生活に戻っていることを象徴しています。
陪審員番号で呼び合っていた間柄が、氏名で呼び合う仲に代わることで、陪審員としての役割を終えて、日常生活者の立場に戻ることを象徴しているそうです。

・撮影開始にあたってまずシドニー・ルメットは、俳優全員を部屋に閉じ込めて、執拗にリハーサルを繰り返しました。
撮影期間が短いため、準備を完璧にしておく必要があったのも理由の一つですが、12人もの人間が狭い部屋に閉じ込められるとどういう心理状態になるのか、役者にそれを実感してもらうのが最大の理由だったということです。

・ラストシーンでカメラは初めて裁判所から外へ出るが、密閉空間から一転して引きのショットを使うことで、全てから解き放たれたかのような開放感が生まれたのでした。

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