MMAでプロになるには?

1 結論から先に言うと、「グラップリング」をする子である。

 ちなみに、私自身はMMA未経験者であり、普段プロMMAの試合を見ることもほとんどない。
 したがって、私には「MMAでプロになるためには何が必要か?」という問いに対して、技術的な回答をする資格(だけでなく能力も)がない。

 ウチの道場には、MMAクラスも併設されている。
 そのため、MMAクラスに来る子達とも「グラップリング」クラスで交流があるのだが、彼らと接していると、プロになれそうな子とそうでない子の違いというは、経験的にある程度分かる。

 私の経験がどこまで一般化出来るかは疑わしいが、事例二つでも帰納法が成立するので、MMAでプロになれそうな子について、外部(=MMAに直接コミットしていない)観察に基づく私見を述べてみたい。

2 まず、「ヤンキーはプロにはなれない」。
 
 MMAクラスの門を叩く子は、①空手やレスリングを始めとする「格闘技経験者」と、②TV等に影響された「格闘技好き」の二つに大別される。
 道場には、仕事を持ちながらMMAを趣味として練習している社会人の人達もいるが、「MMAでプロになりたい」と公言するのは、①②の2パターンに絞られる。

 このうち、格闘技の経験がなくても、野球とかラグビーをやっていたような子は身体能力が非常に高いので、継続的に練習をこなしていれば、「格闘技経験者」を追い越す事も稀ではない。
 ジョン・ダナハーは、「柔術の上達は、何よりもまず練習量。その次に練習の質によって決まる」と語っているが、柔術よりもMMAの方が・・・彼らが年齢的にも若くて人生で一番伸びる時期だからという事もあろうが・・・上達の速度は、練習量の多寡によって決まってくるという印象を受ける。
 したがって、格闘技経験が無い事は、MMAでプロになるためにはそこまでハンデにならないと感じている。

 「ヤンキーはプロになれない」という理由は、ひとえに彼らが練習をしない点に求められる。

 彼らは最初威勢がいいが、何回か道場に来ると、自分が思っていたほどには強くないという現実を突きつけられたのか、あるいは、継続して道場に通う事が億劫になったのか、理由はそれぞれだろうが、入門して2週間もすればだいたい道場からいなくなる。

 「MMAはヤンキーがやるモノ」という偏見を抱いている人は多いのではないかと思うが、私の実感はそれとは正反対で、「ヤンキーにMMAは無理だ」と言い切っていいだろう。

3 さて、「ヤンキーにMMAは無理だ」として、道場に通う彼らの中で、一体どういう特徴を持っている子がMMAのプロになれるか?という点についての私見を述べてみたい。

 MMAクラスのメニューは、打撃クラス・MMAクラス・グラップリングクラスの3つから成り立っているが、プロになる(なれそうな)子とそうでない子の境界線は明確で、「グラップリングクラスに来るか否か」である。

 今のMMAではグラップリングの技術は必須だから、グラップリングをやらない子がプロになれないのは当たり前じゃないか!と言う人もおられるだろう。

 だが、アマチュアMMAの大会を見ていると、サブミッションで決着する試合はそう多くはない。
 「MMAのプロとして成功するには何が必要か?」という問いではなく、「MMAでプロになるためにはどうすればいいか?」という問いに対する回答は、打撃とケージレスリングさえきっちりやっていれば、それだけでもプロにはなれる(=プロライセンスが取得できる)・・・のかもしれないとすら思える事もある。
 つまり、MMAのプロになるために「グラップリング」をやる必要が何処まであるのかは私には「分からない」。

 また、「格闘技経験者」の子であれ、「格闘技好き」の子であれ、彼らはTVで放映されるMMAの試合を見てプロを目指しているから、その大半は「打撃で相手をKOしてカッコよく勝つ」事に憧れている。
 そういう子達が、グラップリングクラスに来ると、大半の子達はグラップリングにはグラップリングの技術がある事を知らず(知らないのは当たり前で、それを学ぶためにもグラップリングクラスがあるのだが)、思うように身体が動かないのに嫌気が差して、1、2回で来なくなってしまう。

 私は打撃も素人なので、打撃とグラップリングの両方の技術についての比較論を語る事も出来ないが、少なくとも打撃は動き(の存在が)見えるのに対して、グラップリングは動きが見えにくいと感じている(素人の印象論に過ぎないかも知れないが・・・)。
 だから、道場に来る若い子達が動きの見える(=映える)打撃クラスには行くが、映えないグラップリングクラスには「カッコ悪いから」行きたくないという気持ちがあるのかもしれない。

4 ただ、先にも述べたように、MMAの上達も結局は練習量で決まる。

 プロになろうという子は、グラップリングがMMAに本当に役に立つのか?という点についての疑問はひとまずおいて、毎週グラップリングクラスに必ず練習にやって来る。

 彼らの共通点は、「少しでも強くなりたい」「上達するのに役立つ可能性があるのなら、時間を無駄にしたくない」というMMAに掛ける真摯な熱意である。
 プロになれる子とそうでない子の差は、「自分が楽しい=やりたい練習か否か」という基準で練習内容を選別する事無く、「プロになる」という目標だけを見て、「四の五の言わずひたむきに目の前の練習メニューに取り組めるか否か」だと思う。

 要するに、「グラップリング」をする子がプロになれる、という冒頭で述べた結論は、「グラップリングがプロになるのに役に立つ」という意味ではない。
 たとえそれが彼らの本音ベースではつまらない練習だとしても、「グラップリング」を続けられる子は、中期的に見ると、(「グラップリング」をしない子と比べて)練習量の蓄積という点において圧倒的な差がつくので、プロになるために要求される練習の絶対量をこなす蓋然性が極めて高い、という趣旨である。

 


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