受身を取る

1 私がBJJを始めて以来、今日までずっと疑問に思っている事がある。それは、正規クラスの練習メニューの中で「受身の練習をほとんどしない」という点である。
 私が通っている道場は、マット運動の中で最低限の受身をするが、回数はごくわずかだし、サークル系の団体では冒頭からフリースパーのみで、受身やムービングを全くしない所もあるそうだ。
 私がかつて稽古していた古流柔術では、極め技や固め技の他に投げ技も存在したので、型稽古とは言え、受身が取れなければ、そもそも稽古自体が成立しなかった。だから、稽古が始まると、最低でも20分は「前回り受身」から始まって「後ろ回り受身」「横受身」「前受身」「跳び受身」と受身の稽古をしたものである。
 「受身」に関連して、古流・合気道系の技についての誤解を解いておこう。


 この動画で紹介されているのは「小手返」というメジャーな技だが、ここで「受け」が投げに合わせて跳んでいる点に注目して欲しい。もしこれが「捕り」の技の威力で吹っ飛んでいると言うのであれば、それは嘘である。古流・合気道系の武術を経験した事のない人の中にはその点を捉えて、「所詮合気道はフェイクだ」と思っている向きもあるかもしれない。
 だが、ここで「受け」が跳んでいるのは、「捕り」の「小手返」に合わせて自分から跳ばなければ、頭から地面に突っ込んで大怪我するからである。
 つまり、古流・合気道系の「受身」(英語ではBreack Fallというらしい)は、捕りの技によって怪我をしないよう受けが自分から技を外すために跳んだり、前に倒れているのである。
 
2 私がBJJについて抱いている疑問に話を戻そう。
 BJJはスパーであれ、試合であれスタンド(立ち姿勢)での攻防から始まる。もしBJJの攻防が全て「引き込み」から始まるのであれば「受身」を稽古する必要はないのかもしれない・・・それでも最低限「スイープ」に対して「受身」を取る必要はあると思うが。 
 だが、実際には柔道にある「投げ技」やレスリングの「タックル」を始めとした「テイクダウン」という技術も存在する。
 自分から常に「テイクダウン」を仕掛けて、毎回必ずトップを取れるなら「受身」は要らないだろう。だが、現実にはそんな事はまずあり得ない。
 特にBJJしか練習した事のない初心者は、柔道やレスリングの経験者とスパーすれば(自分から引き込まない限り)ほぼ確実に「テイクダウン」を取られる。つまり、マットなり畳の上に叩きつけられて怪我をするのを防ぐためには嫌でも「受身」を取らなければならない。
 BJJ関連のYOUTUBEを見ると、「オープンガード」や「サブミッション」の映えるテクニックばかり紹介されているが、初心者にとって本当に重要なのは、まずもって「受身」がきちんと取れるようになる事だろう。
 「セルフディフェンス」というと、喧嘩に代表される「対人戦」を想起する人がほとんどだろうが、道を歩いている際に石に躓いて転んでしまった時にもきちんと「受身」を取って骨折しない、というのも立派な「セルフディフェンス」である。「喧嘩」に巻き込まれる事態よりも、道で転ぶ確率の方が普通の人はずっと高いはずである。
 YOUTUBEに限らず、BJJ関連の教則を見ても「受身」についてきちんと説明しているモノはほとんどない。
 自分が見た教則の中で、「受身」についてきちんと触れられているのはB・ファリアの「BJJの基礎」(注1)くらいである。

注1)そうは言っても、この教則のvol.6で「前回り受身」と「後ろ回り受身」について触れているだけである。ただし、他のいわゆる「BJJの基礎」と称する教則は・・・チャプターメニューを見る限り・・・「受身」について全く触れていないようだ。


3 「前回り受身」や「後ろ回り受身」を練習メニューに取り入れている道場やアカデミーは日本にも数多くあると思うが、自分の経験から言って、スパーの中だけでなく実生活でも役に立つのは「横受身」と「前受身」である。

①「横受身」:https://www.youtube.com/watch?v=vnMCNXo5wSo
②「前受身」:https://www.youtube.com/watch?v=5nTzF4UTYqI

 「横受身」は腰投げや内股で投げられた時に頻繁に使用するし、「前受身」は転んだ時に必ずと言っていいが使わざるを得ない(そもそも転ばないように平素から注意を怠らない方が大事かもしれないが)。
 私の場合、BJJを始めてほんの一月も立たないうちに私よりも二回り大きい柔道現役の高校生に「内股」を喰らって派手に吹っ飛ばされたが、「横受身」が間一髪間に合って頭を打たずに済んだ。
 今でも中高6年柔道をやっていた若い子と初めてスパーする時は、ほぼ確実に投げられる。だが、投げられても受身を取って、すぐに「ハーフガード」から「ドッグファイト」で、あるいは、「クローズドガード」からバックを取って、裸締めでタップを取る事が多い。
 ここで言いたかったのは、「受身」を取れればスパーや試合で「勝てる」という事ではない。「受身」が取れなければ、スパーや試合で負けるだけならまだしも、怪我をして日常生活に支障を来しかねないから、とりわけBJJ初心者は興味本位で「スパイダーガード」に取り組む時間があったら、まず「受身」をしっかり稽古して習得すべきだと言う事である。

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