All Four(2)


はじめに


 今回は、ジョン・ダナハーのSelf Mastery: Solo BJJ Training Drills(注1) から「Sit out 」「Rolling」「Inside Leg Stand up」「Sit Back」という4つのソロドリルを取り上げて、これについて解説したいと思う。

注1)Self Mastery: Solo BJJ Training Drillsについては、入手方法も含めて次の記事を参照して欲しい。

 本稿で扱う4つのソロドリルは、いずれも「亀」ないし「タックルを切られた状態」からの脱出法の基礎となるmovementに当たる。

 「亀」からの脱出法となるテクニックについては、以前基礎的なものを選んで記事にまとめた。

 ある程度予想はしていたが、記事の売り上げはこれまでと比べるとあまり芳しくなかった(購入して下さった読者の皆さんに対しては、ここで改めて感謝の念を申し上げたい)。

 BJJ fanaticsにおいて、「亀」からの脱出法を扱った教則が2つしかない事実に鑑みると、やはり今のBJJにおいて、「亀」ポジションにまつわる知識についてのニーズが(洋の東西を問わず)あまり存在していないという事なのだろうと思う。

 その意味で、今回紹介するソロドリルも、これを「亀」からの脱出法に限定して捉えてしまうと、読者の方々にとってはあまり有用性のない情報になるかもしれない。
 ただ、「テイクダウン」にタックルを使用している人にとっては、「タックルを切られた状態」というのは「亀」ポジションに(一時的にではあっても)閉じ込められる事を意味するので、「タックルを切られた時にそこからどうすべきか?」という参考例として、本稿の内容はヒントになる箇所があるかもしれない(と、願っている)。

Sit Out(Solo BJJ Training Drills vol.2 22:00~)


  Sit out
は、自分が「亀」(以下では、「タックルを切られた状態」も含む意味でこの言葉を用いる)になった際、相手が前方から抑え込んで来た時に、そこから脱出するために用いるmovementである。

 ダナハーの動画に即して説明すると、「亀」の状態から①左膝と右手を立て、②左肘を後ろに引きつつ、腰を前に、肩と頭を後ろに出すようなイメージで上体を起こし、③(右手と左膝の間から)前に右足を抜く。
 
 相手に「がぶられた」状態から脱出する際に、このmovementを用いたテクニックを使用する機会は比較的多い(vol.2 24:47~)。
 このテクニックのポイントは、左腕でトップの右腕に「コネクション」を作り、Sit outから生まれる体重移動の力を相手に伝え、前に崩す。
 そして、頭を後ろに出すようにして上体を起こすことで、(相手が前のめりに崩れているため)相手よりも自分の方が頭の位置が高くなるから、こちらが重力を味方に付ける事が出来る(=トップの取り合いに勝てる)という点にある。

 26:07~では、こちらが仕掛けたシングルレッグ・テイクダウンを相手にスプロールして切られそうになった時に、Sit Outを用いてスプロールを防ぎ、相手の後ろにつくテクニックが紹介されていれる。

Rolling(Solo BJJ Training Drills vol.2 27:55~)


 Rollingチャプターでは、Shoulder RollGranby RollFoward Rollの3つのmovementが紹介されている。

  Shoulder Rollが「亀」から「ガードリテンション」するために用いられるmovementであるのに対して、Granby Rollは「亀」から「ニュートラル」(試合開始時の)状態に戻すmovementになる。
 Foward Rollが少し特殊で、スタンド状態で相手にバックに付かれた際に、前転して「アシガラミ」(シングルX)に入るためのmovementである。

 Foward Rollは、使いこなすのが難しい(使う機会も滅多にない)反面、ソロドリルとしては英語が分からなくても動画を見ればやり方が分かる(32:57~及び37:25~を参照して欲しい)ので、本稿では説明を割愛する。

Shoulder Roll


 Shoulder Rollのやり方は、まず①(動画に即して説明すると)右手を外に立て、左肩を地面に付ける。
 次に、②両足を広げ(両足はガードに戻すのに使うだけなので、必ずしも大きく開く必要はない。むしろ、あまり大きく広げるとカウンターで足を捕られる)、肩のライン上を左に(←)横回転する。
 そして、③天井を見るようにして、両足が自分の頭の上に来たら、両足を地面に向けて落とす(=前に回転する)。

 要するに、Shoulder Rollとは肩の「横回転」の事なのだが、両足が頭の上に来た時点で回転を止めているので、「横の半回転」という理解が正確だろう。

 Shoulder Rollを用いた「ガードリテンション」のテクニックが次の動画になる( Solo BJJ Training Drillsでは、vol2 34:58~)。

 注意すべきポイントが2点ある。

 ひとつは、相手が「シートベルトグリップ」を作っている時にShoulder Rollを使うとバックを捕られるので、Shoulder Rollは「シートベルトグリップ」を作られた時には使ってはいけない
 もうひとつ、③の前に両足を落とす際、相手の腰ではなく、脇の下に向かって前に回転する

Granby Roll


 Granby Rollは、「亀」の状態から両足を立てて、足を交差するようにステップを踏み(これもバックを取られないため)、いわゆる「肩抜き前転」で相手との距離を取るためのmovementである(34:48~)。

 同じRollでも、Shoulder Rollとは回転の方向が全く異なる(Granby Rollが縦回転なのに対して、Shoulder Rollは横回転になる

 このmovementは、後述するInside Leg Stand upと同じくレスリングに起源を有する。
 相手が横から「ボディロック」してきた場合に、その状態から脱出するために用いるのが基本的な使い方になる(36:53~)。

Inside Leg Stand up(Solo BJJ Training Drills vol.2 37:51~)


 このmovementは、「亀」状態で相手に横につかれた際に、そこから立ち上がって、ニュートラル(=試合開始の状態)に戻す事を目的としている。
 とは言うものの、私はこれまでこのmovementをスパーリングや試合において一度も使ったことがない。
 ダナハーもこれを「アドバンスレベル」にあり、「特にノーギ・グラップリングにおいて用いられる」と述べている。
 どうもBJJに由来するmovementではなさそうだと思っていたら、レスリングにあるmovementらしい。

 ダナハーの右側に相手がついているとしよう。

 まず、①右膝を立て、右肘を腰に付けて、右サイドに壁を作る。
 次に、②左手で相手の動きを「モニター」(=監視)する。
 ここからがレスリングのInside Leg Stand upとの違いになるが、上の動画と同じように①②から立ち上がって、その場で相手のグリップを切ろうとすると、相手に後ろに引き倒されてバックを取られてしまう危険がある(レスリングではバックにポイントが入らないので、そのような展開を気にする必要がないのだろう)。
 それを防ぐために、③相手から離れるように、前方に歩き続ける。
 最後に、④背後の相手からバックを取られないよう十分に距離を取ったら、グリップを外して、相手に向き直る。
 
 「亀」からInside Leg Stand upで立ち上がり、ダブルレッグ・テイクダウンに行くまでの流れが(相手にバックを捕られる危険性も含めて)40:52~で説明されている。

Sit Back(Solo BJJ Training Drills vol.2 42:42~)


 Sit Backは、「亀」の状態から「Spain Guard」(背中を地面に付けた状態の「ガード」全般を差す。「シッティングガード」の対義語)に戻すためのmovementである。
 本稿で取り上げた4つのソロドリルの中では、「私の」使用頻度が最も高い。

 movement自体は、非常にシンプルである。
 片膝を立てた状態で、反対の膝を支点にして、その足を立てた膝下から抜いて大きく外に回転させるようにして伸ばす。
 そして、頭を後ろ(=地面)に倒して、両足を「クローズドガード」に組む。

 Sit Backは、相手が前後左右どこについても使えるので「亀」からの脱出法として重宝するが、このmovementのポイントは、片膝を立てて「相手に正対する」事である。

 この動画は、Sit Backを用いて「亀」から「クローズドガード」に戻す例になるが、やはりSolo BJJ Training Drillsの方が圧倒的に情報量が多い。
  Sit Backの具体的な使用例に興味のある方は、是非ともvol.2 44:50~を見て欲しい。

まとめ


 本稿では、「亀」からの脱出法に関連するmovementとして、4つのソロドリルを紹介した。

 ダナハーがBJJのみならず、レスリングや柔道にも造詣が深く、彼が世界最高の「グラップリング」コーチと呼ばれる理由の一端がここからも垣間見えるだろう。

 私の個人的意見としては、この4つ(正確には、7つ)の内、Sit OutShoulder RollSit Backの3つを覚えれば十分だと思う。
 タックルを切られた時や仕方なく「亀」に閉じ込められてしまった場合、そこからの脱出に本稿で紹介したmovementは役に立つ。

  最後に、これらのmovementを用いたテクニックをまとめた動画を紹介して、本稿の結びに代えたいと思う。

 前から順に① Shoulder RollSit Out③巻き込みロール④Sit Back⑤肩抜き前転を用いている。
 このうち、③⑤については「ALL FOUR(1)」で解説している。
 

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