牡蠣、森の香り。 水の国、日本。


「牡蠣は森が作る」

このフレーズが僕の中にある何かに突き刺さった。

以前に秋田出身の元スタッフから「秋田では牡蠣は山が作る、っていわれてるんすよ。」という話を聞いていた。

そこから意識が山と海に向き、そしてある方から畠山重篤さんという方の活動を教えられ、「森は海の恋人」という植樹活動とその理念を知った。
(畠山重篤さんのプロフィールを文末に貼り付けてあります)


それまで牡蠣を調理するとき「海」しか頭になかった自分。

そんな僕に「森は海の恋人」という理念は新たな1頁をめくらせてくれた。

森が海を作る。この意味は深い。

海の生態系も植物プランクトンから始まり、それは森の土の中(広葉樹の腐葉土)にあるフルボ酸という鉄分が川を下り、海でプランクトンや海藻を増やすことに無くてはならない存在であり、山と川と海は一つなんだと教えてくれた。

日本は山脈が連なる森林列島であり、その山から二級河川を含めると約二万本の川が海に流れ込み、その海底はジャングル。
そして国土が北緯25度から45度までの四季のある気温と、海からの空気中の水分を山脈が蓄え、木は育つ。
その水分は山から溢れ出て、また海に流れ戻る奇跡の国。


料理人として意識がこの自然の流れとそれを生み出す “水の国” にシフトし、「牡蠣を用いてその理念を表現できないか」と考え、牡蠣の調理に森の要素を足していった。

正直なところ、どうやっっても美味しくはなる。
しかしやり過ぎればすぐに重たくなる。それは元々牡蠣が森の要素をしっかりと持っているからだ。だからやたらめったら森の要素を足してもくどくなる。
そんな試行錯誤を繰り返していくうちにイメージが出来上がってきた。

牡蠣を森へ返し、スケールアップした森の風味をバランス良くなるべくクリアに表現する。
そしてそれが自然のストーリーを感じてもらうということにイメージは進んでいった。

牡蠣にキノコを合わせ、林檎を合わせ、ジュニパーベリーの香りをつけて。。。

ふと思った。

牡蠣は豚肉や羊肉と合う。川の生物を食する天然の鴨ならどうだろうと。自然の流れの中にあるこの事柄は料理のテイストでも合うのではないかと。

最高に美味しかった。

生き物を調理した時、その個体が食べている物の風味を醸し出すことを改めて痛感した。

ここからこの料理の主役は牡蠣と天然鴨の二つになった。

天然の鴨の骨や端肉でスープをとり、ポルチーニ茸や林檎、ジュニパーベリーなどでソースを作り、その中で牡蠣を温める。

天然鴨の胸肉をその脂を纏わせるように焼く。

鴨は牡蠣の食感と馴染むようにしっとり焼いて薄めにカット。

またテイストの違うポルチーニ茸と林檎、トリュフを添えて全てを一緒にお召し上がりいただく。



牡蠣、森の香り 2022

もちろん具材をミルフィーユにしたり細かくして袋詰めにしたりする方がより渾然一体感は出る。

しかしながら自然から生まれる素材の形状を視覚でも感じてもらいたい。



海から蒸発した水分が山に溜まり溢れ出て川となり海へまた戻す。

そのサイクル中に素晴らしい生態系が出来上がる。

地球というエネルギーはなんと偉大なんだろう。

そして日本はなんという恵まれた風土を保有しているのだろう。

僕が感じたことを料理で表現し、食べ手に伝えられる。

この仕事をする意味と、そして誇りを持たせてくれる僕にとっては大切な料理の一つだ。

合わせるワインの色は問題では無い。そのテイストに森があるかどうかだ。

海のミネラルは十分に牡蠣が持っている。

ワインならではの森の生き生きとした緑の葉の香りや苦味、落ち葉が土に埋もれる湿った風味。
森を散歩している時のようなテイストが欲しい。

そして主役の二つの食感を邪魔しない滑らかさと瑞々しさを。

この料理はそんなワインをパートナーにしたい。

この豊かな国の自然の流れ、水の流れを感じていただけたら嬉ししく思う。




畠山重篤さんのプロフィールです。
このサイト記事内に講義の一例があります。
そちらもぜひお読みください!


■職歴・経歴
1943年中国上海生まれ。県立気仙沼水産高校を卒業後、家業の牡蠣養殖業を継ぐ。海の環境を守るには海に注ぐ川、さらにその上流の森を守ることの大切さに気付き、漁師仲間と共に「牡蠣の森を慕う会」を結成(2009年、NPO法人森は海の恋人を設立)。1989年より気仙沼湾に注ぐ大川上流部で、漁民による広葉樹の植林活動「森は海の恋人運動」を行っている。この活動は、小・中学校の教科書にも紹介され、同時に環境教育の一助として全国から子どもたちを養殖場に受け入れている。
2011年3月11日の東日本大震災で牡蠣養殖場の施設等全て失うが、コンクリートの防潮堤に頼らず震災後の自然環境を活かした地域づくりを進めている。
朝日森林文化賞(1994年)、緑化推進功労者内閣総理大臣表彰(2003年)、宮沢賢二イーハトーブ賞受賞(2004年)、国連森林フォーラム(UNFF)「フォレスト・ヒーローズ」受賞(2012年)。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?