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(短編小説)女神の助言者たち

 ある山奥の祭壇。

 敬虔なアニタ教の信者たちが、礼服を着て祈っていた。


「女神よ、我々を救い給え」

「疫病が流行り、薬草も魔法も効きません」

「どうか、我々のために助言者を遣わし給え」


 彼らが祭壇に祈りを捧げると、光の玉が現れ、中から、スーツ姿にメガネをかけ、ブリーフケースを持った黒人男性が現れた。

「えっ!?何!?何だここは!?」

 男性は慌ててあたりを見回した。

「俺は地下鉄に乗っていたはずなのに!!」

 と叫んですぐ、礼服の集団を見て動きを止めた。

「お前ら何!?原理主義!?」

「女神の助言者よ、我々をお救いください」

 礼服を着た信者たちが、一斉に最敬礼した。

「ハァ!?」

「疫病が流行り、薬草も魔法も効果がありません」

「どうすればよいのでしょうか?」

「疫病?」

 男性は記憶を探って考え、

「ああ、あれか」

 なんとなく事態を察知した。

「収束までには数年かかるかもしれないよ。うつらないように患者を他の人から隔離して、手をこまめに洗い、触れるものはこまめに消毒し、飛沫が飛び散らないようにマスクをして、人と人との距離を開けて……待て、お前らは一体……」

「女神の助言者よ、感謝いたします」

「無事に天にお帰りください」

 信者たちが揃って礼をすると、男性の姿が消えた。




 しばらく後。

「女神よ、病は鎮圧されました」

「貴女と、あなたの助言者に幸あれ」

「女神は癒しなり」

 信者たちは、女神に感謝の祈りを捧げた。





 そして、数日前。

「女神よ、我々を救い給え」

「我々はどちらの味方をするべきでしょうか」

「どうか、我々のために助言者を遣わし給え」

 彼らが祭壇に祈りを捧げると、祭壇に光の玉が現れ、中から赤いスーツを着て黒いハンドバッグを持った浅黒い肌の女性が現れた。

「えっ?な、なに!?何よここ!?」

 女性は慌ててあたりを見回した。

「私急いでるのよ!?『ケンカを上手く仲裁するには』セミナーの生徒が待っているのに!?」

「女神の助言者よ、我々をお救いください」

 礼服を着た信者たちが、一斉に最敬礼した。

「は?何よあんたたち!?差別主義者集団!?」

「我々は2つの国の国境に住んでいますが、この二国間で緊張状態が続いているのです」

「我々はどのように対応すればよいのですか?」

「もう何ヶ月も話し合っているのですが、適切な答えを見いだせないのです」

「……」

 女性はしばし彼らの異様さ……いや、真面目さに驚いていたが、

「それは、お互いに話し合って相性が合うかどうか確認したほうがいいんじゃない?」

「相性とは何でしょうか」

「例えば人間なら、性格とか、食べ物や本の好みとか、考え方の違いとか、お互いを理解したうえで仲良くするでしょう?」

「女神の助言者よ、感謝いたします」

「無事に天にお帰りください」

「えっ!?ちょっと待って!あんたたち何なの……」

 信者たちが礼をすると、女性の姿が消えた。


「国の代表者にここに来ていただけないか手紙を書こうではないか」

「しかし、わざわざ出向いていただけるかどうか」

「ちょうど女神が人間を招いた2月だ。儀式をご覧になっていただいてはどうだろう」

「それは良い」

「さっそく手紙を」

 信者たちは口々に言いながら、住まいに戻っていった。



質問:彼らはどこから助言者を呼び出しているのか?140字以内で説明せよ。



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