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「才人と俳人 俳句交換句ッ記」堀本裕樹

 加藤シゲアキのファン、と言うにはにわかすぎますが、ゆるく作品やパフォーマンスを見ているひとりとして買いました。元々、番組でも共演経験があり、NHK俳句にも出演していたりと、著者の堀本さんとは友人関係だと思うのですが。案の定、才人のひとりに呼ばれていてうれしい限りです。

 この本は、アイドルを含みいろんな職種の方が堀本さんとやりとりしています。俳句をはじめて思うのは、俳句という世界は思っているよりずっと内向的であるということ。それはいいところでもあり、悪いところでもあることです。この本をきっかけに俳句を作った才人もいると思いますが、この「才人」こそが俳句の世界の扉になりえるのかもしれません。
 もし、この才人として寄稿した方のファンが「この人がいるから買ってみよう」と手に取ることがあったら、それだけでひとつ扉が開いたと言えるのではないでしょうか。俳句と外をつなぐきっかけのひとつになるような本だと思いました。

 内容としては、才人と呼ばれるいろんな業界の方が句とエッセイを作り、それを読んで堀本さんが句の鑑賞とエッセイの感想を書くというものです。各回の扉に同じお題で作った句が並んでいます。とても見やすいですし、堀本さんの句の鑑賞があるので、作者がどういう情景をどういうふうに書きたかったのか、書いたのかがわかりやすくなっています。俳句って「読み方がわからない」って言われることが多いので、こうやって鑑賞が載っていると「こう読んでもいいんだ」というひとつのものさしができていいな、と思います。もちろん、そのものさしは絶対ではない、ということも堀本さんはあとがきで語っておられるので、あとで引用します。

 ここで好きな句をいくつか引用します。

台風や知らぬ顔する尸(かばね)ある  本田
ちょろちょろと芹あらう手指に見惚れ  土井義晴
眠れないプランクトンと聖夜越す    清水裕貴

 この句はエッセイも含めて好きな句です。その人にしかできない経験や発見は必ずあって、それがうまく落とし込めたとき、俳句というちいさな世界が大きく広がっていくんだと思います。わたしは俳句がちいさな世界だから好きになりました。ちいさいことは悪いことではないし、ちいさいことからできることはたくさんあるのだと教えてくれたからです。

 お笑い芸人の又吉さんと堀本さんの対談がとてもおもしろいので、そこだけでも立ち読みしてもらえたらいいな、と思うのですが(わたしはなんの回し者でもないので買ってくれとは言いません)、あとがきから少し引用しておきます。

 作者の詠んだ趣旨に沿って、俳句を鑑賞するのももちろん真っ直ぐな楽しみ方ですが、その枠を一度取っ払って、自分の身に引きつけて読んでみるのも、きっと思わぬ発見や自らの記憶に不思議につながることでしょう。

『才人と俳人 俳句交換句ッ記』堀本裕樹「あとがき」より(183頁)

 ここまでお付き合いいただきありがとうございました。誰かのきっかけになるなんておこがましいけど、わたしのなにかがどこかへつながっていたらいいなって思います。

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