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光ちゃんは眼が見えなくなった2⃣

 以外にも光ちゃんはフットワークが軽かった。おトイレの場所も仔猫用に仮置きした場所で覚えていて、阻喪もしない。光ちゃんたちのいる部屋のキッチン(普段のキッチンは別の場所、普段から使わない)のカウンターに目が見えている時からのって、いたずらをしていた。だから、カウンターからお皿やティッシュの箱を落としたのが眼の見えない彼の仕業とわかった時、彼が彼なりに生活を楽しめる素養がある事を知って嬉しかった。

 ある時は162センチある私ぐらいのケージの屋根上に光ちゃんが寝ていた。器用にもカバー用にかけていた毛布を敷きこんでいる。餌をやるので呼ぶと壁沿いにケージが置いてあるから、壁との隙間をケージに爪を掛けて器用に降りてくる。猫の運動神経には本当にびっくりさせられる。

 見えないからこそ、触ることで物を確認したい光ちゃんは、とうとう私が大事にしていたものを破壊するに至った。昭和の初期のオフィス用に作られた椅子である。張地の鮮やかなピーコックグリーンのモケット生地は引き裂かれ、中の古い詰め物がみえている。 正直、私は言葉が出ない、何年も大切に飾っていた椅子だからだ。部屋の隅に隠していたのに、目の見えない光ちゃんには逆に視覚で隠しても意味がなかったのだ。


 光ちゃんに眼をやると、見えてないはずなのに、まるで見えているように窓のほうを向いてゆったりと座っている。その様子に胸は痛む。そうだ、これから先も続く、見えない彼の猫生の前で、椅子への執着等、何のこともない。
 光ちゃんの横顔を見ながら、倒れた椅子を元通りにして無駄かもしれぬが
もう一度部屋の隅に置く。これは光ちゃんと生きていく覚悟をし直した日の証としての椅子である。

 

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