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息子を帝王切開で産んだ。

息子を帝王切開で産んだ。
まさか自分が帝王切開になろうとは、思ってもみなかったことだ。

忘れないためにもここに置いておく。


別に帝王切開に偏見があったわけではないはずなのに、先生が

「いままでお母さんはよく頑張ったからね、ここからは僕たちに頑張らせて」

と言ったとき、涙が出た。

みんなは乗り越えられている試練なのに、自分は負けた。

この子のために頑張ることができなかったんじゃないか、と悲しい気持ちになった。

この子を楽しみに待ってたはずなのに。

無事に生まれてきてくれさえすればそれでいい、と心から思っていたはずなのに。

今はそう思えないのは何故だろう。





緊急の帝王切開だった。

夜中に破水し、次の日の夕方まで、何本も促進剤を打つことになった。

ものすごく痛くて痛くて痛くて
寝ることも食べることも動くこともできなかった。

途中で、赤ちゃんの向きが悪いことがわかった。

本当は私の背中を向いていなくてはならないのに、お腹の方を向いているらしい。

助産師さんに「四つん這いになって」と言われたが、痛すぎてできない。

本当に痛くて、孤独だった。

コロナの影響で立ち合いはできず、狭い陣痛室に1人。

部屋の時計の秒針をずっと見ていた。

終わりの見えない戦い。いつ終わるかがわかっていたら、ちょっとは違ったのかもしれない。

ものすごく痛くても、子宮口は全然全開にならない。もうどうしようもなかった。

身体よりも心が、もう頑張れそうもなかった。


途中でどうしてもいきみたくなってしまい、先生に無痛を提案された。

他の人は乗り越えられた痛み。
私は乗り越えられなかった。

麻酔を打ってもらうとすぐに楽になった。
もうこの痛みに耐えなくていいとわかると、なんとも言えない安心感が押し寄せてきた。

無痛の中、なんとか赤ちゃんの向きを変えようと先生たちが頑張ってくれたようだが、
結局赤ちゃんはお腹側を向き続けていた。

よく出産は赤ちゃんとの共同作業と言うが、生まれてくる我が子と息が合わなかったようで、それも悲しかった。

先生がゆっくり、優しく

「いままでお母さんはよく頑張ったからね、ここからは僕たちに頑張らせて」

と言った。

涙が溢れた。声が出ず、ただただ頷くしかなかった。


手術が始まってすぐ、赤ちゃんの泣き声が聞こえた。

生まれてきてくれてありがとう。
本当にありがとう。

泣いてくれてありがとう。

また涙が溢れてきた。


手術はまだ続いていたが、どうしようもない寒気を感じ、上半身がガタガタ震えた。

終わってからも起き上がれない。寒い。どうしようもない疲れが襲ってきた。


帝王切開だったため、一瞬だけ旦那と会うことができた。

泣いていた。私も泣いた。

3人で写真を撮ってくれた。本当に一瞬だった。



看護師さんが、夜中ずっと電気毛布で温めてくれて、足にマッサージ機のようなものをつけてくれた。

出産準備の中に、ストローを入れてなかった私に、一本のストローをくれた。

夜は寝たり起きたりをずっと繰り返していた。

朝になってもご飯は食べれず、ベッドに張り付いて過ごした。

傷が痛んで、咳もできない。寝返りもできない。

たまに連れてきてくれる小さな小さな赤ちゃんが最高の癒しだった。

しばらくはご飯も食べられない。

食べれるようになっても出てきたのは、お湯のようなものばかりだった。

そのうち管も抜かれて、トイレに行ったりなんだり、リハビリが始まった。

動くだけで痛い。
起き上がるのにも時間がかかった。
トイレに座るのも痛い。

咳もできない。鼻水もかめない。

ベッドに寝転がるのもつらい。



大変だったけど、大変な思いをすればするだけ、なんだか母になれるような不思議な感覚だった。

帝王切開だから楽なんてことはない。

立派な出産だ。

そんな風に思えた。


3日後にはゆっくりゆっくり動いて、授乳指導も始まった。

入院は6日間。赤ちゃんのお世話もしながら、自分のケアもした。

身体はぼろぼろでも、赤ちゃんのことは愛しく思えた。




書きながらまた涙が滲む。

自分の大切な思い出。

1年たった今でも、傷はまだ赤くみみず腫れのようになっている。


いつか「あなたはここから出てきたの」と見せる時がくるのかな。

そんな会話を想像しながら、1歳の息子が遊んでいる様子を見守っている。


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