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家でもできるDNA解析!解説編

これまで紹介した方法で、自宅でも系統樹が作製できます。MEGAを使用した系統樹は国際誌に載っている論文にもあるので、世界レベルの解析を自宅でもできるということです。最後に、「作製する上での注意点」「起こりそうなトラブル」「系統樹の読み取り方」を簡単に紹介します。

作製する上での注意点

これまでの記事で1つ言い忘れていたことになるのですが、「Outgroup(外群)」を必ず用意して下さい。例えば、脊椎動物の系統樹を作る場合、魚類,両生類,爬虫類,鳥類,哺乳類の塩基配列をNCBIからダウンロードして、リストを作ります。このときに、脊椎動物とは異なる種類の動物の塩基配列を加えて下さい。脊椎動物の系統樹を作るのでしたら、脊椎動物と同じ動物門のホヤやナメクジウオがおすすめです。ターゲットとは全く異なる生物種を入れることにより、脊椎動物だけのグループが作られるようになります。

Outgroupは何でもよいわけではありません。”少し違う”くらいがちょうどよいです。上の図は、キンギョとフナを比較するので、Outgroupとして同じコイ科のコイを使う感じです。

トラブル発生!

トラブルの一例として、下の図を見て下さい。フナとキンギョが別種であることを示そうとしたら、ごちゃごちゃに混ざってしまうというトラブルです。この手の混合はよく起こります。原因として以下のことが考えられます。

理想のような系統樹を作ろうとしたら、右の系統樹が現実として現れます。

・遺伝子が悪い
 例に挙げているフナとキンギョはほぼ同種です。近い生物種同士の系統樹を作るときに、28S rDNAのような生物種間で塩基配列の変化の少ない遺伝子を使ってしまうと、違いがないことから“現実”のような系統樹が出来上がります。この場合は、シトクロムやITSなど別の遺伝子に変えることをおすすめします。

・解析方法が悪い
 アライメントのやり方が適切ではなく、残った塩基配列が短すぎて、違いのある場所が残っていなかった。あるいは、解析モデルがあっていなかった、などがあります。これは具体的な解決法をしめせません。もし、私が系統樹を作るときに、上記のような理由でよい系統樹ができなかったら、論文を探してきて真似をします。これについては、また何かの機会で紹介できればと思っています。

この系統樹はあくまでも例です。こんなことはありえません。

・多系統群
 多系統群とはどういうものかというのは、上の図を見て下さい。図のようなことは実際には起きませんが、多系統群とは両生類と爬虫類の違いを調べようとしたら、カエルが爬虫類のグループ内に入り込んでしまった、というものです。このような結果がでても、カエルは爬虫類なのだと思わないでください。原因の1つに、分類が間違えているというものがあります。そもそも、生物の種名は生物の形態をもとに決めて、そのあと塩基配列を調べているので、最初の段階で間違えていたら系統樹もおかしくなりますよね。そのため、この例の系統樹を作るときに使用したカエルの塩基配列は本当にカエルだったのか、爬虫類の中に両生類は混じっていないか、などを確認する必要があります。また、私が調べている寄生虫では、塩基配列が調べられている種類が少ないです。そのため、近縁種が例のように集まることがありません。多系統群が発生してしまったら、系統樹がおかしいと考えず、別の方面から調べてみる必要があります。

系統樹の読み方

下の図を見て下さい。これは、自分で採集してきた生物のDNAを解析して、系統樹を作った時のものだと思って下さい。「調べたい生物=A種」と思うかもしれませんが、残念ながら違います。ここで分かることは、「調べたい生物がA種と同じグループになった」ということだけです。結論を下すためには、以下のことを追加で調べる必要があります。

結論その1:調べたい生物=A種
調べたい生物とA種の塩基配列に違いがないことを示してやる必要があります。簡単な方法は、Aと調べたい生物が枝分かれしてからの長さを見て下さい。枝分かれしてからの長さが、異様に短ければ同種です。厳密に行う場合は、塩基置換率などの値を算出して、枝分かれしてからの長さを具体的な数値で示します。

結論その2:調べたい生物とA種が同じグループの生物
隣り合わせになっていることから、当たり前のことかもしれませんが、大事な結論です。例えば、BとC種が「黄色属」というグループの生物で、A種は「緑色属」というグループの生物であるとします。すると、調べたい生物とA種は黄色属とは別だけど隣のグループに入ったことになります。このような系統樹がえられた時、「調べたい生物は、黄色属の姉妹群に属し、Aと同じグループである」と結論づけます。

結論その3:何か違いを探そう
調べたい生物もA, B, Cも同じ「水色属」の生物だったとします。場合によっては、同種である可能性もあります。このときは、この4種類の生物の体の特徴や生息場所などを調べ直してみて下さい。もしかすると、地域差などの種内変異を見つけるきっかけになるかもしれません。

犯罪捜査でも、DNA解析を用いて犯人を特定することもあることから、DNAとは生物を特定する絶対的なものと考える方も多いようです。実際、私も研究でDNA解析を行うまでそのように考えていました。しかし、DNAはあくまでも生物の特徴の1つです。といっても、DNAは生涯にわたって不変で、最も客観性がある特徴ではありますが、それだけでは結論は出せません。いくつもの根拠をもとに間違いのない結論を出さなければなりません。昨今の感染症騒ぎの中科学者の応答が曖昧すぎるという声がありましたが、これを読んでいただいて、科学者にとって結論を出すまでの過程を知っていただければ幸いです。

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