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死に損ないの愛

死に損ないの愛



暖かな日に終わるのならば月が浮かんでいてくれればいい
小さく裂けた唇に滲む赤が私たちに届く頃には
氷のように冷えていてそれらがうまく染み込むことはない
強く押しつぶされてしまった身体
やけにくっきりとした声を上げて笑う夜の雲
死に損ないの生き物と共にわたしの愛は腐っていくし
死に損ないのわたしと共に腐った愛は生きている
見上げた月に願いは届かないと知っている
見捨てた未来だけは容易く届くとも知

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このままどうか、光にならずに

このままどうか、光にならずに



時として、灰色の空に身を任せる
よそ見をすれば飲まれてしまう暴力
平行が続くわたしの身体
このままどうか、光にならずに

動かぬ身体に縛りつけた疾しさに
嘘つきだけを見つける鏡
「知らないでしょう」と丁寧に撫で
わたしだけが知らない世界

辿々しい口もとだけが魅力的
力ずくで折り曲げた過去と
嘘をついた空に身を任せる
このままどうか、光にならずに

蠢く肌

蠢く肌



曖昧に足を取られながら
孤独でないものの足を取る
性懲りも無く、
ゆく末も分からず、
呼吸を整える、
泡のように消える人々に
気がつかれぬようにもがくのは
抱き合えば容易く揃うはずの
泥濘む場所に立ち上がるため
わたしの肌は恐ろしいほど
あなたの怒りの代わりに蠢く
明るく惚ける月夜の空が
わたしの持たないものをねだっている

後悔の滲みでる灯

後悔の滲みでる灯



不規則な波の音が遠のくたびに
怪しげな灯が弱々しくわたしを呼んでいる
唯一確信の持てることはこの波が
わたしを連れて行ってはくれないということ
風に向かい飛び続ける鴎を片手で捕らえ
嬉しげな顔でわたしに差し出す
力なく横たわるわたしの身体には
砂浜を這う無数の海蛆が向かっている
声を出そうと開いた口に飛び込んだのは
遠くで揺れていたはずのわたし
寄せては返す後悔の滲みでる灯

満たされた月

満たされた月



切り取った眠気に食われていく月
押し入る男に何もかもが見つかって
泣いちゃうほどに気分がいい
終わる前に引き返す夜は
上を見下ろし、下を見上げる
しっとりとした肌に触れながら
ほろほろと解ける街並み
華やかな空に響く鳴き声はどこか甘く
顔を覆い耳をそばだてる
強く締め付けられる痛みを感じながら
欠けた場所に居座る男と
形をなくした街並みを愛す月

前夜の病、後夜の夢

前夜の病、後夜の夢



月が顔を出すまで忘れられた衣服は
波紋が消えるまで乾くことはない
ケモノの声だけが響く夢に
撥ねられた子と分け合う身体
前夜には後夜があり、
後夜には前夜がある

名誉のために残されたのは病
薬のように寄り添う不幸
しばらく会わないうちに
作り直された街にたどり着くのは
靴紐を結べぬままのわたし
煌めいた夢の星空は訝しげに
気の毒だなと無数の腕を投げ出す

道端で干からびた女の抜け殻

道端で干からびた女の抜け殻



嘴でついばむ幸せが落ちているのは
汚らしい街の側溝
眺めの良さは誰も知らない
蝶番を壊すたびに飛び立つ
一筋走る線路を見下ろす
赤い駅舎の屋根の下には
みすぼらしい女がひとり
鼻をつく匂いに疎まれている

幸せを耳元に飾り付け
耳障りの良い夏の夕刻
道端で干からびた女の抜け殻を
幸せと見間違えて降り立つ
拭い損ねた眠気が内腿を伝う
鐘を鳴らすように身体が壊れていく
嘴でついばむ幸せが落ちている

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幻の春と満開の秘密

幻の春と満開の秘密



まぶたの裏に終わらぬロード画面
地響きに共鳴する耳鳴りに応えた
天井の隅で動かなかった蜘蛛が落ちると
押し寄せる風がスカートを触った

含みを持たせた幻の春に
花の声は聴きたくないのに留まっている
もういいよ、もういいよと騒ぐ
屋上から見下ろす陽炎の涙
画面はエラーを表示して
ハッピーエンドかバッドエンドか

ぷつぷつと切れる花の声に
陽炎に飛び込む体から飛び出る
わたしの頬を蜘蛛が這う
わた

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明けない夜

明けない夜



リリカルに揺れるネオンの足元
落ちた瞳の群れは虚ろに自らだけを見て
もう何もいらないなんて言って
何ひとつ手放せなかったって笑った
肩と肩をぶつけ合ったぼく達が欲しいのは
流れ星ほどの衝撃とあの夜の快楽
見違えるほどに美しい
ただひたすらに腐ってゆく肌になりたい
間違いだらけの間違い探しを強いる街で
高い人口密度は星屑のような理性を小さくさせる
ぼく達の荒い呼吸はすぐに終わってしまうから
誰か

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音楽を止めてくれ

音楽を止めてくれ



口を噤んでみるあなたの胸に
喜びが少しでもあるのなら
あなたの腕をひいてネオンで輝いた屋上で踊る
それらを恨まなければならない
消し去らなければならない
音楽を止めて
音楽を止めてくれ

惨めさにある日の風を感じたわたしの胸を見つめている風を感じながら
問いかける声を聞いた
わたしの声によく似た気怠げなその声を耳元で放ちながら
さめざめとした夜露の訪れを感じた

痛みはブラウン管に解説

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わたしはそうしない

わたしはそうしない



わたしの時計の針は
簡単に眠ってしまうほど錆びている
ベッドサイドを登る蟻を指でつまみ上げ
何かを救った気分を誇らしく思う
扉を叩く音も警笛も
わたしは聴き逃してしまうから
羨ましいほどに静かに消える

彫刻のような船体
長い髪に編み込まれた天つ風
滑り込んだそれらに照準を合わせ
その空間の酸素は無くなってしまった
時の流れは光のように一定ではないと
知りながら目を凝らす
時の止まる時を見

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施し

施し



必ずというのなら一度だけ
先細ったまやかしと
惰性で並んだ味気なさ
はらはらと動かした手のひらを
喧しさに握りつぶして
必ず戻って、必ず戻って
するりと受け取ったのは
色とりどりの花束
あなたは美しいと言って
あなただけは美しいと言っていて

体を新緑に染めて
許しを乞うのなら
青い糸で縫い付けた唇を
解放してあげるから
庭の端にこっそり植えて
水を毎日与えてあげるから
静かに咲いた花にな

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霧雨

霧雨



あなたの罪が降り続く陽の光の元に霧雨
広がる雲に染み付いた刺々しさが水溜りに落ちた
瞬間を負けた右手が勝った左手に最敬礼
泳ぎだした魚に見立てた恋人たちの喧しさ
野次るほどに高鳴る下着の山の中から
熱々のほろ苦い柑橘でてきたジャムを塗って
杖を持つ老人の手に重ねられた老人の手老人の手老人の手
その手が放り投げた罪色の丸い飴玉は山査子
負けた上あるいは勝った下に印をつけた
きつく閉じた唇は熱さと

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わたしと鳥達

わたしと鳥達



吐瀉物をわたしと呼んで愛した
慎重にまち針を指して
この興奮は息を荒げるほど
あなただけでは補いきれない感覚と
わたしだけでは補いきれない感覚が
音を立ててこぼれ落ちたそれらを
切り落とした様子は縦に半分
格子模様の読みかけだ

虐げられた冷えた紅茶を
歓声をあげて向かい入れた臭い室内
煙草を吸うのなら甲斐性もない
赤毛の象徴と決まりの悪い四角
獣の息遣いを口元で感じる
やおら伸ばした手を頬

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