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「踊るための服」としてのシャネル〜バレエからK-POPまで〜

 2023年2月14日(火)から4月9日(日)まで、渋谷のBunkamura ザ・ミュージアムにて展覧会「マリー・ローランサンとモード」が開催されています。

 この展示では、マリー・ローランサン(1883-1956)と、彼女と同時期に活動したココ・シャネル(1883-1971)の活躍を中心に、1920年代のパリにおける美術、ファッションの変遷を辿ることのできる機会となっています。

 私がこの展示で一番印象に残っているのは、当時別々に発展してきた文学、絵画、音楽、そしてファッションが「融合」し、その中で新たな芸術が生み出され、彼ら自身も表現の幅を広げていったということを紹介していた章でした。シャネルに関しても、女性にとって窮屈なドレスばかりだった時代に動きやすいスカートやパンツを生み出したことは有名かと思いますが、それ以外にもバレエの衣装を手がけていたことは恥ずかしながらこれまで知らず、この展覧会のおかげで新たな気付きを得るきっかけとなりました。そこで今回は「踊るための服」としての観点から、シャネルが現代まで芸術とどのような関わりを持ってきたのか書いてみようと思います。


ファッションとアートの融合

 先述の通り、1920年代のパリには若き才能が多く集まり、別々に発展を遂げてきた文学、絵画、そしてファッションが「融合」し、その中で表現の幅を広げていきます。その代表例として今回の展示でも取り上げられているのが新進気鋭のバレエ団「バレエ・リュス」です。

バレエ・リュスとは

 バレエ・リュス(1909-1929)はセルジュ・ディアギレフ(1872-1929)主宰のロシアのバレエ団で、特定の劇場に所属しないという当時ではユニークなスタイルで活動していました。だからこそこれまでの「バレエ」の枠にとらわれない大胆な演目を数多く生み出し続け、観客は初めその斬新さに驚きながらも皆虜になりました。ディアギレフが亡くなった後バレエ団は解散しましたが、20年という短い活動期間にも関わらず、現在までのバレエ界に多大な影響を与えたバレエ団です。

 ココ・シャネルもバレエ・リュスに魅了された一人であり、彼女はパトロネスとしてこのバレエ団を支援します。そして1924年にパリ・シャンゼリゼ劇場にて初演されたバレエ『青列車』のコスチュームデザインに携わります。こちら、衣装はココ・シャネル、台本はジャン・コクトー、幕画はパブロ・ピカソが手がけるなど、今考えると夢のような作品ですが、このようにそれぞれの分野のスペシャリストが集結して作られた芸術作品が「バレエ・リュス」の魅力でもありました。

『青列車』
青列車が開通したコート・ダジュールの海水浴場を舞台に、ヴァカンスを楽しむ当時の若者のスタイルがそのまま反映された全1幕のダンス・オペレッタ。

↑の動画にほんの僅かではありますが『青列車』に関する映像があります


現在まで続くバレエとシャネルの絆

 それでは現在のシャネルとバレエのつながりはどうでしょうか。ココ・シャネル亡き後も彼女の意志を継ぐようにシャネルはいくつかのバレエ作品のコスチュームを制作してきました。そして2018年からはパリ国立オペラ座のオープニングガラのスポンサーを務めています。衣装ももちろん手がけており、例えば2019年9月に上演された『Variations』のコスチュームはシャネルによって作られました。この衣装の美しい花びらはシャネルのアトリエ「ルマリエ」で一枚ずつ丁寧に作られています。


K-POPとシャネル

 さて、ここまでバレエを見てきましたが、他のジャンルではどうでしょうか。その一例として今回はK-POPの世界を覗いてみようと思います。

 K-POPが世界中を席巻している今、K-POPのアーティストがシャネルのようなビッグメゾンのアンバサダーを務めることはもはや珍しくありません。また音楽番組への出演時やミュージックビデオ内の衣装は、ブランドの既製品をそのまま着用するだけでなく、大胆にアレンジして衣装に仕上げることも多いです。最近ではTWICEの衣装がエルメスのスカーフやルイ・ヴィトンのビーチタオルをアレンジして作られていることが判明し、話題になったこともありました。

 そんな中で、今ビッグメゾンとのつながりが強いK-POPのグループとして一番に名前が挙がるのはYGエンターテインメント所属のBLACKPINKではないでしょうか。最新アルバム『BORN PINK』収録の「Pink Venom」のMVの中ではそれぞれがアンバサダーを務めるメゾンの服を着用しているのはもちろん、ブランド名まで歌詞に入っているほどです。

 シャネルに関しては、メンバーのジェニーが2018年よりシャネルのグローバル・アンバサダーを務めています。彼女はファンから「歩く人間シャネル」と言われるほど常にシャネルを身につけています。

 そんなシャネルと彼女とのつながりで特に印象的な出来事がありました。BLACKPINKは現在ワールドツアー[BORN PINK]の真っ最中で、見所のひとつはジェニーの未発表のソロ曲「You & Me」のパフォーマンスです。公演を行う国ごとに毎回こだわりのある衣装で登場するのもポイントになっています。

↑バンコク公演では、タイのブランドの衣装を着用

 そんな中12月に行われたパリ公演では、なんとシャネルカスタム衣装を着用して登場したのです。この衣装は2019年よりシャネルのアーティスティック・ディレクターを務めているヴィルジニー・ヴィアールによって手がけられているのが特徴です。シャネルとジェニー、その両方が持つ上品さが引き立つような、シンプルかつ可愛らしい衣装です。


 いかがでしたでしょうか。ココ・シャネルのデザイナー人生の中で常に重視されていたことは「実用的でいかに動きやすい服か」でした。その「動きやすさ」が尊重されたバレエの衣装がシャネルによって手がけられてから約100年後の今、K-POPという異なるフィールドでもステージ衣装という形でそのスピリットが体現されているのは非常に興味深いと感じました。

 展覧会「マリー・ローランサンとモード」はBunkamura長期休館前最後の展示になります。(「マリー・ローランサンとモード」はその後京都市京セラ美術館でも開催されます)もしご興味持たれた方がいらっしゃいましたらぜひ足を運んでみてください!最後まで読んでくださりありがとうございました。

参考文献
書籍
実川元子「ファッションデザイナー ココ・シャネル」理論社
芳賀直子「ビジュアル版 バレエ・ヒストリー」世界文化社
芳賀直子「バレエ・リュス その魅力のすべて」図書刊行会
ウェブサイト
VOGUE「パリ・オペラ座の舞台裏──シャネルをまとったバレリーナたち。」
VOGUE「ヴィルジニー・ヴィアール / VIRGINIE VIARD」
フィガロジャポン「クラシックとコンテンポラリー、シャネルによる衣装。」
フィガロジャポン「シャネルの羽細工やフラワーを担うアトリエ、ルマリエ。」

サムネイル:展覧会で購入したポストカード(マン・レイ《ココ・シャネルの肖像》)





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