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近年のオランダのジャングル・シーンについて

先月Critical MusicからリリースされたCoco Bryceの『Daktari EP』と、Unknown To The UnknownからリリースされたTommy The Catの『Cosmik Connection Vol​.​1』には非常に良いジャングル・トラックが収録され、ここ数年のオランダのジャングル・シーンの勢いがまだまだ上がり続けているのを感じさせてくれた。

2010年代中頃から本格的にムーブメント化したモダン・ジャングル(もしくはポスト・ジャングル)の中でも、Coco Bryce、FFF、Tommy The Catといったオランダのジャングル・プロデューサー達は本国イギリスのプロデューサー達とは違った独自のジャングリズムで世界中のジャングル・ファンを魅了している。

Coco BryceはMYOR、Myor Massiv、Diamond Life、Ill Behaviourという四つのジャングル・レーベルを運営し、これらのレーベルから自身を含むオランダを拠点に活動しているプロデューサー達のジャングル・トラックが驚異的なスピードで大量にリリースされている。特にMyor MassivとDiamond Lifeからは現行のジャングル・シーンで活躍するトップ・プロデューサーのトラックがリリースされ、ジャングル・ファンの信頼も厚い。ここからレコードを出した新人プロデューサーには大きな注目が集まる。さらに、MYORとMyor Massivのレコードに使われる盤面やロゴは毎回どれも可愛らしく、実際にレコードを入手して眺めたくなる物ばかりでコレクター魂を擽る。

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Coco Bryce以外にも、Tommy The Catは自主レーベルCat In The Bagを運営しており、トリップホップを取り入れたドープな作品を展開。FFFは3AM Eternalというレーベルでジャングルのコアな側面を抽出した良質な作品を手掛け、他にもTempo RecordsやLickshot Recordingsといったレーベルもオランダを拠点に活動しており、素晴らしい作品を発表している。

2020年から2021年に掛けて、オランダのジャングル・シーンへの注目が高まっていた。Coco Bryceはイギリスの老舗ハッピーハードコア・レーベルKniteforce Recordsから12"レコード『Pretty Like U EP』をリリースし、同レーベルのリミックス・コンピレーションにも参加。DJ HausやSamurai Breaksへのリミックス提供、Chavinski名義での作品などで新たなリスナー層にリーチした。
FFFは Foxy Jangle、7th Storey Projects、Blueskinbadger Records、Lobster Thereminからの12"レコードでモダン・ジャングルの濃い部分をストレートに刺激するストイックなジャングル・トラックで新旧のジャングル・ファンを骨抜きにした。FFFはParallax Recordingsのコンピレーションにも参加し、SHERELLEのMix CD『fabric presents SHERELLE』にもトラックが収録されていた。
日夜様々なメディアで公開されるジャングルのDJミックスには、オランダ勢のジャングル・トラックを多く見つけるようになり、日本でも彼等のトラックがプレイされることは少なくない。

オランダのジャングルが他の国と何が違うのかというと、独特のバランス感覚とセンスにあると思う。
イギリスのジャングルと比較して、Coco BryceとFFF、Tommy The Catはレゲエ/ダンスホール以外にも、様々な音楽を素材にしたジャングルを作っており、音楽的なバックボーンがとても深い。多様な音楽を取り入れたオルタナティブな姿勢が現行のジャングルや160周辺と共鳴しあっているのだろう。
Tommy The CatはSam-C名義でも活動しており、当初は所謂Tekno/トライブをクリエイトしていた。現在はフリーテクノの血筋を持ったハードコアをSam-C名義にてリリースしている。Coco BryceもDJ Y?名義にてフリーテクノ派生のハードコアをクリエイトしており、スクワットのパーティー・シーンで活動していた。FFFはブレイクコア・シーンで知られた存在であるが、▲NGST名義でドゥームコア・シーンでも根強い人気を誇る。オランダのDJ Majesticもフットワーク・ジャングルやモダン・ジャングルをプレイする前はハードコアやガバをプレイしていたそうだ。

彼等に共通にしているのは、オランダ発のガバやハードコアを下地にフリーテクノやスクワット・シーンからの影響を受けていること。フリーテクノとジャングルの繋がりでは、イギリスのKaotik SoundsystemやAmen 4 Tekno周辺の展開にも通じるが、オランダ勢はジャングルの深い部分にフォーカスし、ハードコアやTeknoの影響を表面的なサウンド以外のところで活かしていると思う。

元々、オランダにはRuffneck Recordsによるアートコアの下地があり、ハードコアを通してジャングルやブレイクビーツ・ハードコアを体験するということが90年代にはあり、Ruffneck Records以外にもDJ Isaacなどの一部のプロデューサーはジャングルのトラックも製作していた。
Ruffneck Recordsは90年代以降、他の多くのレーベルやプロデューサーと同じく、ドラムンベース/テックステップに引き寄せられ、Ruffteckというレーベルを始動。このレーベルは後のハードコア・ドラムンベース/クロスブリードの原型ともいる。
ガバ/ハードコアとジャングルの融合を試みたRuffneck Recordsのアートコアの影響は根深いと思われる。

2000年代にはBong-Ra、Deformer、そしてFFFがハードなラガジャングル/ラガコアをクリエイトし、ブレイクコア・ムーブメントの中でも特別異彩を放っていた。そこに同調するかのようにオランダからはBong SelectaとJunglefeverなどのジャングル・プロデューサーも参入し、2010年代のモダン・ジャングルに繋がる流れが2000年後半頃から出来ていく。
元々、ハードな作風で注目を集めていたオランダ勢であるが、モダン・ジャングルのムーブメントと合わさり、そのメンタリティは保ったままにしなやかに、時に牧歌的な雰囲気もあるキャッチーなオランダのジャングリズムを開拓していった。

オランダのハードコア・ドラムンベース・レーベルPRSPCTはFFF、Coco Bryce、Tommy The Catのレコードをリリースし、レーベルのパーティーやラジオ番組にも積極的に彼等を出演させている。
PRSPCTからリリースされているFFFの12"レコードはジャングルのレーベルからリリースするものとは違い、ダークでハードさを強調したトラックでブレイクコアやドラムンベースのDJ達も重宝している。2019年にリリースされたDeformer & FFFFによる合作はオランダという国の特殊性をふんだんに活かしたダッチ・ジャングリズムの最高傑作となっており、ガバからハードコア、ブレイクコアからジャングルへと流れていく道筋が楽曲となって表れている。
2021年にPRSPCTからリリースされたCoco Bryceの『Sound Dimensions EP』も90年代前半のダークコアやドラムンベースのフィーリングを現代的に解釈した作品で、他のCoco Bryceの作品とは違った魅力があり、個人的には彼の作品の中でも特に素晴らしいと感じている。

ざっくりとオランダのジャングル・シーンのごく一部の動きを纏めてみたが、ここで触れていない重要なレーベルやプロデューサー、トラックは他にもあるので、いつかまた何かの機会で残せればと思う。
とにかく、2022年もオランダのジャングル勢の動向には目が離せない。


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